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虚無戦線  作者: MIROKU
狂気的な彼女
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ビッグバトル!の巻! 1

「楽しそうねえ」


 暗いハスキーボイスで現れたセクシー美女はマイマイだ。


 ハロウィンの女妖魔であり、悪夢が具現化した存在であるマイマイだが、実はゴヨウにとっては初めての女性なのだった。


「ねえ聞いてよ。ゴヨウったら合鍵渡してるのに、私から連絡しないと来ないのよ」


「んーまあー!」


 蛇遣い座の女神は、いつの間にか人間サイズに収まってマイマイの話を聞いていた。


 宇宙を創造した女神の一柱と、ハロウィンの悪夢が具現化した女妖魔は、女として五分五分の存在だ。


 また、蛇遣い座の女神は体内でゴヨウを再生させた経緯から、母に近い思いを抱いている。


「ゴヨウ、女に恥をかかせる気!?」


「いや、あの、女神様?」


「やな男よね、そうやって気を引いてるんだ」


「いや、違うよマイマイさん?」


「……ゴヨウって女に見境ないのね」


 なんという事か、この魂の世界にメロリンまで現れるとは。


 その姿はゴヨウの知る混沌という少女だが、その魂は新たな存在となっていた。


「誰この女?」


 蛇遣い座の女神は軽蔑の眼差しをゴヨウに向けた。


「誰その女?」


 マイマイは無感情な爬虫類的な眼差しをゴヨウに向けた。


「なんなの、このケバい女は? ゴヨウも趣味悪いのね」


 メロリンは露骨に眉をしかめた。口調はメロリンだが、ちょっとした仕草の中に混沌を連想させるものがあり、ゴヨウを戸惑わせる。


「女は化けるなあ……」


「なんじゃそれは? ゴヨウよ、女を侮辱する気か!」


「女は化けるわよ、化けて何が悪いの? 男は化けなさすぎよ」


「ふふふ、当たり前よ。私は混沌(カオス)でありメロリンであり、どちらでもないんだもの」


 三者三様の反応にゴヨウは苦笑した。


 蛇遣い座の女神、女妖魔マイマイ、混沌とAIの支配者メロリン。


 超越の存在である三人だが、人間くさいところに親しみが持てる。


「なんじゃ、ニヤニヤしおって! 腹立つわ!」


「よくも女に恥をかかせてくれたわね、このバカ男!」


「この浮気者! 女なら誰でもいいのか!」


 蛇遣い座の女神と、マイマイと、メロリンは三人がかりでゴヨウを蹴り倒し、そこにストンピングを叩きこむ。


「た、助けてー!」


 三人の女性(そして超越の存在でもある)から踏みつけにされて、悲鳴をあげるゴヨウ。


 ラブコメ展開の中でゴヨウは叫ぶ。


 俺は男だ、やるべき事のために死ぬんだ!


 人類最後の時代が始まろうとしているのだ、せめて最期まで!


 せめて人の役に立ってから死ぬんだ!


 それでこそ真なる道だ!と。


 ――よく言ったぞ、ゴヨウ先生!


 ゴヨウの魂に届いた女性の声は、戦死したはずの天暴星「黒旋風」リッキーの声だ。


 ――私達も応援するからね!


 もう一人、女性の声が聞こえた。それは戦死した天威星「双鞭」コーエンだ。


 リッキーもコーエンもゴヨウが姉のように慕っていた女性だが、二人とも数年前の「星辰の乱れ」の際に戦死していた。


 ゴヨウの周囲には生身の女性は来ない。超越の存在がついているのだから当然だ。


     **


 空を埋め尽くすような輸送ヘリの大群。


 アーマー騎兵をぶら下げた輸送ヘリの轟音が、明けたばかりの空に響く。


 やがてアーマー騎兵は輸送ヘリから切り離れ、眼下に広がる市街地へと降下していく。


 それは母から産み落とされた胎児が、この世に現れるに似た。


 パラシュートを開き降下するアーマー騎兵の一団を、潜んでいた敵アーマー騎兵部隊が地上から狙い撃ちにする。


 ヘビーマシンガンの銃撃を受けて、アーマー騎兵が空中で爆発し、あるいはパラシュートを破られて高速道路上に落下して炎上した。


「気合入れろおー!」


 アバキハラ部隊の隊長、肝油(かんゆ)は一早く降下し、パラシュートを切り離すと、敵アーマー騎兵を狙撃した。


 バーチャルゲーム「バトリング」のイベントである「ビッグバトル」は始まったのだ。


 今この瞬間、世界中で一万人を越すプレイヤーが参加している。


 そして、それは魂の世界――


 時空を越えた全ての世界に影響を与える大いなる聖戦だった。


「やるぞおー!」


 ゴヨウの駆るアーマー騎兵「猟犬・デッドショルダーカスタム」も、降下するや否や敵軍に向けてヘビーマシンガンを乱射した。


「私がついてるわ!」


 メロリンはゴヨウの猟犬デッドショルダーカスタムの肩に降り、対アーマー騎兵ライフルで敵を迎え撃つ。


 無数の自動車が炎上、横転している高速道路上でゴヨウとメロリンの戦いは続く。

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