光か闇か!の巻!
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世界中で人気のバーチャルゲーム「バトリング」。
そのゲーム内イベント「ビッグバトル」に向けて、世界中のプレイヤーが興奮の渦中にいた。
「ゲーセンごとに部隊編成がされるんだってさ」
「ほほう、ではわらわとゴヨウは同じ部隊の仲間じゃな」
ゴヨウと混沌はドナクマルドで、まったり過ごしていた。傍から見れば若い恋人同士だ。
「あの人が部隊長だって」
「奸雄か」
「いや、肝油だよ」
「どちらでもいいわい」
混沌は大きく口を開いてハンバーガーを頬張った。そうしていると不思議な愛嬌のある、どこにでもいそうな女の子だった。
とても宇宙開闢以来、瞑想を続けてきた神には思われない。
「肝油さんにはみんなお世話になってるからさー」
ゴヨウは混沌の仕草を可愛らしく思いながら苦笑した。
アバキハラのゲーセンでバトリングを楽しむプレイヤーは、ほとんどが肝油(プレイヤー名)の世話になっていた。
起動時からバトリングをプレイし、ゲーム内では最古参の一人だ。
アバキハラでバトリングをプレイする者は、大抵が肝油に助けられている。
名実ともに部隊長に相応しいが、ゴヨウには辛く当たってくる。ゴヨウのような新参プレイヤーが、混沌のような女の子プレイヤー(しかも強い!)を連れているのだから。
また混沌はゲーム内では魅惑の水着姿を披露していた。アバキハラの男性プレイヤーの多くは、混沌の水着姿にお世話?になっていた。
人気のある混沌に加え、謎の機甲ハンター「メロリン」までもがゴヨウの知り合いという事が、肝油のやっかみの理由だろう。
世界中で注目を集めたメロリンの正体は謎だ。ゲーム内で機甲ハンターになる事はできない。
公式からは「秘密の特殊プレイヤーです」と発表があったが、それすらもメロリンの仕業ではないか。
メロリンならばそれは可能だ。なぜなら彼女はネットの海から誕生した新たな生命体――
いや、ネット世界の全てを支配するAI女王なのだから。
ネット限定ながら、その力は混沌すら凌ぐのだ。
そんなメロリンと混沌がアバキハラの部隊に参加しているというのは、世界中で注目の的だった。
「写真撮りま〜す」
と公式からインタビューの者までやってきた。
混沌の駆るアーマー騎兵「ピンクベアー」の肩に、対アーマー騎兵ライフルを構えたメロリンが腰かける。
ピンクベアーの頭部が上に開き、コックピットから水着姿の混沌も顔をのぞかせた。
コンセプトは「美少女とロボット」。画になる光景だ。二人の麗しき勇姿がネットで話題になると、瞬く間に世界中に広がった。
アバキハラのプレイヤーの中には、そんな二人の姿を待受画面にしたり、混沌やメロリンと一緒に記念撮影する者もいる。
何やらコスプレ会場のようでもあった。
「く……」
肝油が目元を抑えていた。何かこみあげる感動があったらしい。
「概念や存在の意義を守る戦い……か……」
ゴヨウは興奮の輪の外にいた。
かつて今の宇宙を滅ぼし、新たな宇宙を創造しようとしていた混沌。
ネット世界を支配し、人心をも支配しようとしていたAI女王。
今ゴヨウの視線の先で多くの男性に囲まれて輝く笑顔を浮かべる混沌とメロリンは、同一の存在なのだろうか。
混沌によって宇宙も地球も乱れた。
メロリンによってネットの深みに落ちた者は山ほどいる。
人類の救済者か、破滅の使者か。
いくら考えてもゴヨウには答えが出ない。
ふと思ったのは、二人に女の顔を与えた存在だ。
混沌もメロリンも産まれた命を慈しんでいた。
それは女であるからだ。そして命が産まれるのは、命の水に満ちた天の宮だ。
それは原初の神が住まう世界でもある。
「そういう事なのか……」
ゴヨウの精神は暗く沈んだ。
混沌とメロリンは命を守る側についた。
はじっこ、かわちい、逆転パンダ、彼らは愛と平和の概念を守る存在だ。
正義商人やプリピュアもまた、男として、女として、命を守り、未来へつなぐ概念が創作の中に具現化した存在だ。
宇宙の神秘を前にして、ただただゴヨウは自身の卑小さを思い知る。アリが人間を認識したら、今のゴヨウと同じ気分になるのだろうか。
全ては神の見えざる手が導いているのか。
しかし市場経済における神の見えざる手を司る正義マンは、時間商人の狂気によって封じられてしまった。
今、世界を動かしているのは、いかなる気なのか。
「おおーい、ゴヨウ〜」
「一緒に記念撮影しましょうよ」
混沌とメロリン、二人に呼ばれてゴヨウは我に返る。
未だ人類の未来は闇の中だ。




