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虚無戦線  作者: MIROKU
狂気的な彼女
42/99

復讐の鬼!の巻!


   **


 機甲ハンターとは「バトリング」内においては背景(モブ)キャラだ。


 ゲーム内で機甲ハンターになる事はできないので「メロリン」なるキャラクターが何者かは不明だ。


 だがメロリンの戦いぶりは世界中のプレイヤー、数千人を驚愕させた。


 市街戦ステージでメロリンは「銀狐」の駆るアーマー騎兵と戦う。


 銀狐は自他ともに認める実力派プレイヤーだった。


 銀色のアーマー騎兵を乗りこなし、銀狐はヘビーマシンガンでメロリンを狙い撃つ。試合が早く終わらぬように弾はわざと外していた。


 流れ弾がメロリンの頰をかすめる。小さな傷だが流れる血は意外な量だ。


 メロリンは流れ落ちる血で顔にメイクを施した。真っ赤な横ラインが三本、メロリンの顔に引かれた。


 それは機甲ハンターの戦いのメイクだ。


「な、なにい!」


 銀狐はうめく。メロリンがあちこちに仕掛けた地雷によって銀狐のアーマー騎兵は足を損傷し、得意のローラーダッシュを封じられる。


 ――ガァン!


 対アーマー騎兵ライフル――三十キロはある――の狙撃が、アーマー騎兵の肩装甲を貫いた。


 二発、三発と発射されたライフル弾は、銀狐のアーマー騎兵が装備した特殊鋼シールドに防がれた。


 対アーマー騎兵ライフルの装弾数は三発。弾切れに陥ったメロリンを、銀狐のアーマー騎兵が追い詰めた。


「これで終わりだ……!」


 銀狐のアーマー騎兵が両手でメロリンを握り潰そうとする。子どもに高い高いをしているような、どこか微笑ましい様子だが、実際は人間が口から内臓を吐くほど握りしめるのだ。


 誰もが銀狐の勝利を確信した。


 同時にメロリンは敗死するだろうとも思っていた(ゲーム内の事だが)。


 だが、銀狐のアーマー騎兵はメロリンを握り潰す事ができずにいた。


 メロリンが隠し持っていた携帯ジャッキが、アーマー騎兵の両手を内から押し開いていたのだ。


「なにいー!?」


 コックピット内で驚愕する銀狐。彼の視線の先では、メロリンが銃剣(パイルバンカー)の切っ先をアーマー騎兵のレンズに突きつけた。


 レンズの奥、アーマー騎兵の内部数十センチ先には銀狐の顔があるのだ。


「思い知れえー!」


 轟音と共にバイルバンカーが打ち出された。


 その鋭い切っ先はレンズも装甲も、コックピット内の銀狐をも刺し貫いた。


 世界中でこの対決を見守っていた数千人のプレイヤーは、黙して声も出ない。アーマー騎兵が生身の人間に負けるとは。


 知多星ゴヨウは理解した。これは力や勇気に偏った戦いではなく、知恵だけを振り絞ったものでもない。


 全身全霊、全ての力と知恵を、死を覚悟して振り絞ったからこその勝利なのだと。


「ほう、生身で勝つとは」


 ゴヨウの隣でモニターをのぞきこむ混沌。彼女だけはメロリンの正体を見抜いていた。


 そして世界が変わり始めている事を改めて認識した。


「かわいいよね、セクシーだし!」


 ゴヨウは鼻息を荒くしていた。メロリンは女性である。女の機甲ハンターなのだ。


「うらあ!」


 混沌はゴヨウの前髪をひっつかみ、彼の顔面をモニターに叩きつけた。混沌はメロリンに嫉妬していたのだ。


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