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虚無戦線  作者: MIROKU
青い春フェスティバル
35/99

天の機を知る!の巻!


     **


 天機星「知多星」ゴヨウの旅は続く。


 時間も空間も超越した彼は、数年前に地球を発して宇宙の果てに向かったはずだった。


 が、つい先日、チョウガイらの前に姿を現した。これは彼が時間も空間も超越している事の証明に他ならない。


 しかも「AI世界の女王」という理解不能な存在によって骨抜きにされ、一時的に傘下に加わっていたという。


 だがゴヨウはAI世界の呪いから解放された。AI世界の快楽は、唾棄すべき偽りのものだ。


 しかしAI世界にも宇宙の真理や、この世界で尊く美しいものも映し出される事があるのだから、全てを忌み嫌うわけにもいかない。


 この宇宙の光と闇、男と女という概念の中に、AIという虚無世界の真理が混じり、宇宙は更に混乱を深めていく。


 秩序コスモ混沌カオス


 ライトダーク


 そして中立ニュートラル


 どの道を選び、どのように生き、どのように死ぬのか?


 それは全ての人類に突きつけられた課題であった。


「俺は選びません、ただ、やるからには命がけでやります」


 ゴヨウはつぶやいた。もうAI世界はこりごりだ。AI世界に映し出された天地宇宙のことわりはともかく、欲望のみが現れたものには近づかぬようにした。


 真理と欲望をどうやって見分けるか、それは純粋なまなこで見つめれば良い。僅かでも感動を覚えたならば、それは宇宙の真理だ。


 感動がなければ、どんなに美しくても虚無の現れでしかない。説明が難しいが。


 そして、ゴヨウは地球意思とも遭遇していた。


 地球意思は傷つき悲しみ、汚され疲れ果て、老婆の姿となっていた。


 ゴヨウは年老いた地球意思の手を握った。地球意思は涙を流した。言葉は不要だ。ゴヨウと地球意思は通じ合った。


 そんなゴヨウを大地母神と海母神が見送る。ゴヨウの行く道は中立であり、何処に行っても敵がいるが、何処に行っても味方がいる。


 秩序にも混沌にも、光にも闇にも属さない生き方は、ゴヨウがいつでも死ねる覚悟ができているからだ。


「大変だあ……」


 ひきつった笑みを浮かべるゴヨウ。世の中は、いや宇宙には恐いものばっかりだ。


 しかし、チョウガイとソンショウには彼女ができた。それでいいのではないか。彼らの未来を守るためにもゴヨウは戦う。






 現世に戻ってきたゴヨウの耳に、何処かから赤ん坊の泣く声が聞こえた。


 今この時も、何処かで命が誕生しているのだ。


 ゴヨウは微笑する。命を守り、未来へつなぐ。


 それが全ての人類の使命だと信じる。


 そして――


 大地母神は地震を、海母神は津波を起こせる事を知っている。


 それ以上は考えない。


「はあーい、ゴヨウ先生〜」


「一杯飲んでく〜?」


 酒場の店頭でAI美女が手招きしていた。


 ゴヨウは苦笑した。彼らの正体はわかっているが、今は甘えておきたい。


「一杯だけね〜」


 と、ゴヨウは楽しげに入店した。


 そんな彼を高次元から地球意思たる老婆は微笑ましく、大地母神と海母神は苦々しく見ていた。


 楽しく生きる事が肝要なり。

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