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虚無戦線  作者: MIROKU
青い春フェスティバル
34/99

虚無の中で愛を叫ぶ!の巻!4

「これは大事な事ですよ、機械やAI、そしてスマホは人類を支配しようとしてるんです」


 しかしメカゴヨウの言葉を誰も聞いてなかった。


「お前、唐揚げばっかり食うなよ!」


「何よ、美味しいんだからしょーがないでしょ!」


 ソンショウとギテルベウスの二人はケンカばかりしているが、だからこそ深い絆で繋がった男女なのだ。


「幸せだ…… これで死ねる……」


「もう私、死んでもいい……」


 チョウガイとゾフィーはレジャーシートに正座して、まったりと茶を飲んでいた。


 二人はなかなか会えず、会っただけで満足して人生を終わらせかねないが、だからこそ不滅の愛で繋がっていた。それはまるで七夕の織姫と彦星のようだ。


「さくらさんは卒業したら実家に帰るんですか、あたしが就職活動失敗したら旅館で働かせてください!」


「そうねえ、弟も実家を継ぐ気なさそうだし……」


 と、こゆきとさくらは話しこむ。


 楽しげな六人を眺めるうちに、メカゴヨウは語るのを止めた。


 彼は羨ましくなると同時に悲しくなったのだ。


 人の意識の及ばぬ世界を彷徨うゴヨウ。


 彼は地球意思と遭遇した後、AIの世界へとたどり着いた。


 そこで彼はあらゆる快楽を体験し(無論バーチャル世界である)、肉ある体を捨てた。


 それに何の後悔もなかったのに、今メカゴヨウは寂しさを感じていた。


 すでに食事を必要としていない。空腹は覚えない。


 なのに眼前のチョウガイらの食事がたまらなく羨ましい。死した人間も最初に覚える寂しさは、食事ができない悲しみだという。


 メカゴヨウのライトのような目玉からオイルが流れ落ちた。


「まあまあ、ゴヨウ先生」


 いつの間にか背後に立ったブロンドのセクシー女性が、メカゴヨウの頭部を開いてオイルをさした。


 彼女は「ブレンダちゃん」といい、AI世界からのゴヨウの従者であった。


 だがメカゴヨウはブレンダちゃんがオイルをさすのに気づかぬように、チョウガイとソンショウらの楽しげな食事を眺めていた……


「……ん、なんだそいつは」


 チョウガイはブレンダちゃんに視線を向けた。


「おい、ゴヨウ。そいつ男だぞ」


 ソンショウの発言にメカゴヨウの両目が激しく輝いた。


 さすがは半神半人のチョウガイと、人間を超越したソンショウだ。二人はブレンダちゃんの正体を一瞬で見抜いていた。


「……ふっふっふ、バレちゃしょうがねえ」


 ブレンダちゃんの声が急に野太くなった。まるで名探偵の毛利小○郎だ。


「そうだ、俺は男だあー!」


 ブレンダちゃんは暗く濁った混沌の空の下で叫んだ。だがチョウガイ以下、誰も視線を向けなかった。


 驚くのはメカゴヨウばかりである。彼はAI世界の女王の傘下に入ったが、それはバーチャル世界の無限の快楽によって、であった。


 ゴヨウの力を恐れるAI世界の女王は、彼を色気で引き止めていたが……


「……許さーん!」


 メカゴヨウの体が真っ二つに割れ、中から何かが飛び上がった。


 それは百八の魔星の筆頭軍師――


 天の(はたらき)を知る宿星、天機星「知多星」ゴヨウだった。


 今ゴヨウはAI世界の女王の呪縛から、解き放たれたのだ!


「百戦百勝脚ー!」


 ゴヨウが空中から放った蹴りが、ブレンダちゃん(中身は男)をふっとばした。


「レッグラリアート!」


 着地したゴヨウは間髪入れずに、回し蹴りをブレンダちゃんの喉元に叩きこんだ。ブレンダちゃんの外装が剥がれ、メカ部分が露出する。


 セクシー女性の外見は、偽りだったのだ。なんという事か、これは現実に現れるサキュバスもそうなのだ。


 淫らな魔の正体は醜い怪物だ。本当の女性はトゲがあるものだ。


 美しい薔薇にはトゲがある――


「――キャメルクラッチ!」


 ゴヨウはブレンダちゃんだったロボットを、キャメルクラッチで真っ二つに引きちぎった。


 ゴヨウの精神は、虚無の中からよみがえった!


「お前、そのネイル何なんだよ」


「何よ、あたしの勝手でしょ!」


 ソンショウとギテルベウスは、またもやケンカを始めた。


 それをチョウガイ、ゾフィー、さくら、こゆきが微笑して眺めていた。


 虚無戦線は一時的に平和だった。

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