表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虚無戦線  作者: MIROKU
青い春フェスティバル
29/99

萌えよ、ケン!の巻! 2



 ケンの日々は変わった。


 いや彼の心が変わったから、生活が変わったのだ。


「やってやるぜー!」


 ケンは憧れのヒューイットと会話を交わし、ただの店員から顔見知りへとレベルアップしたのだ。


 これは恋の女神がケンに与えたチャンスに違いない。ならばケンには挑戦するのみだ。


 しかし、町には不穏な噂が流れている。世界中に大量発生しているチュパカブラなど比ではない。


 夜に現れる謎の女「プリティフェイス」の事だ。






「ねえ〜、チャーリー、ちゅ~して〜」


 夜の公園でバカップルかいちゃついていた。公園の隣は墓地である。よそでやれ、よそで!


 ベンチでいちゃつくバカップルの背後へ、忍び寄るのは線の細い儚げな白いワンピースの女だ。


 ――ブオーン!


 夜の静寂を引き裂くチェーンソーの轟音。


 バカップルの悲鳴が夜空に響き渡る。男は女を置いて脱兎のごとく逃げ出した。


 ただ一人残されたバカップル女の前で、謎の女はチェーンソーでベンチを真っ二つに破壊する。


 その顔は白いズタ袋で隠されていた。


 




「へい、らっしゃい!」


 ケンはその日の夜もラーメン屋でアルバイトだった。


 親に学費と生活費を出してもらっている身だ、アルバイトして小遣いくらいは稼がなければ面目ない、男の甲斐性がない――


 そんな気概がケンにはある。そして店には新たな客が入ってきた。


 線が細く、長くて黒いサラサラストレートヘアーに白いワンピースの儚げな欧州系美女――


 ヒューイットだ。


「ご、ご注文は!?」


「……ニンニクラーメン・チャーシュー抜き特盛」


「あいよ」


 ヒューイットはカウンター席に座り、店主は短く応える。小気味いい阿吽の呼吸だ。


(ニンニクラーメン・チャーシュー抜き!? じ、実在したのか!)


 知る人ぞ知るニンニクラーメン・チャーシュー抜き。


 ケンは実在を半ば否定していたが、自分が働くラーメン屋に存在するとは思わなかった。


 店主が麺を茹でる間に、ケンはおろし金でニンニクを細かくすりおろす。


 ニンニクの匂い染みついてむせる。


 ケンは涙が出る。


「あいよ」


 店主は特盛(麺の量三倍)ラーメンの上に、ケンがすりおろしたニンニクをごっそり盛った。


 麺の上には茶碗一杯分はあろうかというニンニクが盛られたのだ。ウケ狙いかと勘違いされそうだ。


 店内にニンニクの香りが満ちた。ケンが涙をこらえる前で、ヒューイットは豪快にニンニクラーメンを食べ始めた。


 それはケンにとっては試練だったかもしれない。


 ケンも恋する相手でなければヒューイットを遠慮したかもしれない。ニンニクの香りで目が痛いから。


 ましてや、ケンにとって数歳年上の社会人ヒューイットは、異世界の住人にも等しいのだ。


 男から見た女は永遠の謎。


 ましてや異国の欧州系年上美女。


 これはレベル1の勇者が魔王に挑むような、無謀な戦いであるのだ。


 それでもケンはやる。


 やるといったらやる。

 

 敗北して女性に興味がなくなろうとも、燃える男とはそういうものだ。


「……お兄さん、餃子追加」


 ヒューイットは幾分ためらいがちにケンに注文を頼んだ。それは乙女の恥じらいであったろうか。


「あ、あいよ!」


 ケンは喜び勇んで餃子の準備に入った。鉄板のフタを開き、餃子を並べる。


 火をつけた後、餃子を並べた鉄板の上に小麦粉を溶かした水を流し込んで、フタをする。


(お、俺に注文してくれた!)


 ケンは天にも昇る心地だった。憧れの人が自分に注文してくれた……


 一人の人間として認識してくれたのだから、胸の高鳴りが抑えられない。


「おじさん、チャーハン追加」


「あいよ」


 ヒューイットは店主にチャーハンを追加した。ケンに餃子を注文したのは、二つ追加するためだったのか。


 だがケンは深読みせずに、ヒューイットから注文を受けた喜びに浸っている…………


「…………あ、もう十一時か」


 ケンは時計を見た。彼の労働時間は午後六時から午後十一時までであった。


 店主は余計な事は言わぬ。残業せずに早く帰れ、学生なんだから―― それが店長の言い分である。


 ケンはエプロンを外した。ニンニクラーメンと餃子とチャーハンを食べ終えたヒューイットも、お会計だ。


 口数少ないケンとヒューイットの二人。二人とも寂しげだ。店主は食器を洗っている。


「ヒューイットさん、俺が送りますよ」


 ケンは大勝負に出た。ヒューイットは目を大きく開いて驚いた様子だ。


「最近はチュパカブラだけじゃなくて、チェーンソー女も出るみたいだし、俺が家まで送ります!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ