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虚無戦線  作者: MIROKU
青い春フェスティバル
26/99

大ピンチ!の巻!


   **


 翔は居酒屋のトイレにいた。


「ふい〜……」


 小用を足しながら三年間を振り返る。


 文化祭執行部としての三年間、今年は執行部長のみならず文化連合協議会の会長も務めた。


 今夜は大学の教授らを招いた謝恩パーティーであった。後輩らへの引き継ぎも兼ねている。その宴も終わった。


 翔は文化祭執行部を引退し、四年生になる。翔は講義をサボりがちだったから、単位取得のため毎日のように通学しなければならない。


 兄貴分の剴などは必要単位を全て習得し、あとは週に一回ゼミに顔を出すだけでいいというのに……


 その時ガチャとトイレのドアが開き、誰かが入ってきた。翔が首だけ回して振り返れば、そこには和服の美人が立っていた。


 驚いた翔だが、和服の美人が同じ大学に通う「さくら」だと気づいた。華道部部長であり、文化連合協議会では翔の下でよく働いてくれていた。


 文化祭では華道喫茶の模擬店を出し、好評だった。


「会長……」


 さくらは潤んだ瞳で翔の後ろ姿を見つめていた。


「な、なんだよ! ここは男子トイレだぞ!」


「だって、こうでもしないと会長と二人で話せないじゃないですか」


「いや、マジやばいって! 通報されるって!」


 翔は急いで身支度を整えると、さくらと共に男子トイレを出た。


「な、な、何してんだよ!」


「だって……」


 うつむいたさくらを前に翔は何も言えなくなった。彼女の必死さが伝わったからだ。


「あとで会長にノートあげようと思って……」


「そ、それは助かるぜ!」


「はあー、会長ってば本当に頼りないし」


「いや、俺もう会長は引退だから!」


「どうしてあんなひとなんか……」


 さくらが翔の胸に飛びこもうとした瞬間、そこへ一人の女性が通りかかった。


「あ、何してるの二人とも?」


「こゆきちゃん!」


 さくらはたちまち顔を真っ赤にした。


 通りかかったのは文芸部部長の「こゆき」だった。


 二年浪人した上に地方から上京してきたさくらにとっては、二つ下の妹のような存在だ。


 また、翔はこゆきからも頻繁に講義ノートを借りている。


「えー、ひょっとして二人は臭い仲? お熱い仲?」


「ちょっと、こゆきちゃん。怒るわよ」


「だいじょうぶです、わたしも狙ってるから。ふふふ」


「あらそうなの? こんな情けない人を?」


「こういう人には、わたしみたいな女がついてるといいんですよう」


「まあ」


 さくらとこゆきは顔を見合わせて笑った。二人とも少々酒を飲んでいる。酔っていると楽しい時もあるらしい。


 翔は何もわからずオロオロするのみだ。恋人のギテルベウス以上の女難が迫っていた……

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