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虚無戦線  作者: MIROKU
バレンタイン・エクスプロージョン
25/99



 チョウガイは虚無の中で戦っていた。


 百八の魔星の守護神、托塔天王チョウガイは長ランを着た凛々しい青年の姿をしていた。


 チョウガイの振るう黄金の剣から放たれた光は、虚無の彼方まで斬り裂いた。


 しかし、闇は幾度もチョウガイの周囲を覆う。これは人間の世界が深い闇に包まれていくのと同じ事だ。


(もはや人類の未来は……)


 チョウガイは黄金の剣を振るいながら思う。不動明王の力を行使するチョウガイであっても、無限の虚無の彼方から侵略してくる闇を打ち払えない。


 この闇は混沌カオスの波動を受けている。混沌の波動は未来から来ているのだ。


 そして、混沌の波動の正体は未来から来る、人間の悪意だ。


(ならば人類の未来は!)


 四千年の間、百八の魔星の守護神として戦い続けてきたチョウガイ。


 彼は幾度も絶望を乗り越えてきたが、今度ばかりは心が潰れそうだ。


 人類の未来はどうなるというのだ?


 チョウガイの思考が途切れた一瞬の隙を衝き、混沌の闇から獣の群れが飛び出して襲いかかる。


「タァーイムっ!」


 混沌の闇に響き渡ったのは、女性の声だ。混沌の獣の群れは動きを止めた。無論チョウガイも。


 見ればフランケン・ナースのゾフィーが、豊かな胸を揺らしてチョウガイに駆け寄ってくるではないか。チョウガイは死闘の最中というのも忘れて赤面した。


「チョウガイさん、ハッピーバレンタインです!」


 フランケン・ナースは頭部の電極を点滅させながら、ラッピングされたハート型の包みをチョウガイに差し出した。


「こ、これを俺に!」


 チョウガイは感激した。もう死んでもいいと思った。相思相愛の女性から貰うチョコレートが、これほどに喜びを得られるとは。


 同時に危うさにも気づく。人類の未来は男女が築いていくが、愛ゆえに生き、愛ゆえに死すだろう。


 人類の未来が曖昧な事にチョウガイは改めて気づいた。彼が百万の混沌の尖兵を討とうと、それで人類の未来は守れない。


 人類に未来を創る意志があって初めて、未来は続くのだ。


 欲望や計算で生きた先にあるのは後悔と懺悔だ。


「我が生涯に一片の悔いなし!」


 混沌の闇の中で、チョウガイは愛を叫ぶ。戦い死すとも悔いはない。


「チョウガイさんに手を出すのは許しません!」


 穏やかなフランケンナースの瞳に闘志が燃え上がった。チョウガイですら見た事がない真剣な眼差し――


 フランケンナースの鋭い眼差しは、混沌の獣の群れに向けられていた。


 そして彼女はナース服の胸元を、ゆっくりと開いていく。驚愕の展開に、混沌の獣の群れがフランケンナースに飛びかかる。


 だが開かれたナース服の奥には、光があふれているのみだ。溢れ出た閃光は光の帯となって、獣の群れを飲みこみ、消滅させた。


 これはフランケンナースの最強兵器「胸部粒子砲メガスマッシャー」だった。


「爆発しろっ♥」


 フランケンナースは悪戯っぽく笑った。魅惑の小悪魔だ。


「ゾ、ゾフィーさん……」


「言ってみたかったんですよ」


 チョウガイとフランケンナースは身を寄せて抱きしめあった。


 愛しあう二人は、たまにしか会う事がないのだ。


 恋人同士ながら離れてばかり―― だが、それゆえに二人の愛は不滅であり、永遠の形だ。


「そんな二人を祝福します」


 突如として現れたのはバレンタインの守護者ガーディアン「バレンタイン・エビル」だ。


 彼女はハロウィンの守護者「レディ・ハロウィン」の双子の妹であり、バレンタインの概念と存在の意義を守る。


 そんなバレンタイン・エビルには、チョウガイとフランケンナースのゾフィーの「不滅の愛」が微笑ましい。


「リア充爆発しろ……!」


 バレンタイン・エビルの凄絶な笑みがチョウガイとフランケンナースのみならず、混沌の闇すら怯ませた。


 女は魔物である。

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