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虚無戦線  作者: MIROKU
虚無戦線
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人類の未来と永遠の形!の巻!

 人の意識の及ばぬ混沌カオス空間。


 そこでは未来を守るための戦いが続いている。


 混沌の闇から現れるおびただしい数の怪物達は、人間の悪意から生まれた飢えた化物だ。


 その大軍勢の前に立ちふさがったのは、一人の凛々しい青年だ。


 長ランによく似た衣服、そして手にした黄金の剣……


 彼こそは「百八の魔星」の守護神である托塔天王チョウガイだ。


「覚悟しろ!」


 チョウガイは怪物の大軍勢に向かって、黄金の剣を振り下ろした。


 光の一閃が闇の彼方まで斬り裂く。チョウガイの持つ黄金の剣は、不動明王の持つ降魔の利剣に等しい。


 チョウガイの力と技、そして熱き魂の力も加わり、黄金の剣の一撃は、飢えた化物の大軍勢すら一瞬で消滅させた。


 混沌の闇は静まり返った。


 天も地もない世界で、チョウガイはただ一人、黄金の剣を手にして闇を見据えている。


 混沌の波動は、人類ある限り不滅なのだ。そしてチョウガイは人類の未来を守るために戦う。それは永遠の戦いだ。


 そしてチョウガイの左手の薬指には指輪がはまっていた。


 あるいは、チョウガイが守ろうとしているのは、たった一人の女性であるかもしれない。






 ハロウィンの「概念」と「存在の意義」を守る守護者ガーディアンである「レディ・ハロウィン」。


 彼女に仕えるフランケン・ナースは、土気色の肌の全身に、無数の縫合痕を刻んだナース服の美女だ。


 彼女の左手の薬指にもまた、指輪がはまっている。チョウガイと同じ指輪だ。


「ご武運を……」


 フランケン・ナースは満たされた笑みを浮かべて、両手を合わせて虚空に祈る。愛する男性の勝利を祈る。


 この不滅の愛は、永遠の形だ。






 百八の魔星の一人、天間星「入雲竜」ソンショウ。


 彼は生前に即身仏の修行を成し遂げ、自分の力だけで人間を越えた。


 ソンショウはこの世とあの世を自在に行き来する力を持ち、死した勇士を率いて混沌の軍勢と戦う。


 チョウガイとは同志であり、戦友だ。


「ゆけ、天導百八星…… 人類の未来を守るために!」


 ソンショウの背後に控える無数の勇士。彼らは死して肉体を捨て、自らの意志で冥府に集った者達だ。


 現世では著名だった者も数多く混じっている。力ある魂の参戦は、人類の未来を守る戦いに勝利を呼びこむはずだ。


「そんなにうまくいくかしらねえええっ!」


 声高らかに現れた緑色の髪を持つ美女は、ギテルベウスだ。


 見るからに悪女といったギテルベウスは「死者の書」を用いてこの世とあの世を繋ぎ、大災害を引き起こそうとする混沌の先兵だ。


 今も彼女の周囲には無数の怨念が渦を巻き、ソンショウら百八の魔星に襲いかかる機を狙っている。


「……おい」


 ソンショウは素早くギテルベウスの側に詰め寄った。


「め、メシ食いに行こうぜ」


 ソンショウは咳払いしながら、小声でギテルベウスを誘った。


「な、何を食べんのよ」


 ギテルベウスも咳払いしながら言った。世界を闇に変えようとする悪女らしからぬ態度であり仕草であった。


「お、お前は何食いたいんだ?」


「……回んないお寿司」


 ギテルベウスは毛先を指でこねくり回しながら、上目遣いでソンショウを見る。


 救いのない悪女に思われたギテルベウスも、今は恋する妙齢の乙女だ。


「コンビニの寿司で我慢してくれよ、金ねえから」


 ソンショウの言葉に、ギテルベウスは額に青筋を立てて激怒した。


「女をなめんじゃねー! この甲斐性なしっっっっっ!」


 ギテルベウスはタワーブリッジでソンショウの背骨を痛めつけた。


 ソンショウはたちまちギブアップ寸前まで追いこまれた。


 デートの時は男が払いましょう。女の子はあまり期待してはいけません。


 ――ゴワゴワ


 ――ゴワゴワゴワ


 その時だ、ギテルベウスの周囲を飛び交っていた無数の怨念の一つが、徐々に人の形となっていく。


 それは女性の形をしていた。


「がはっ!」


 ソンショウはギテルベウスによって大地に投げ出された。人類の未来を守るという凄絶な戦いのはずが、明るく軽いラブコメ展開になっているのが不思議だ。


 死した勇士達も、無数の怨念も、両雄のリーダー同士の痴話喧嘩に戸惑うばかりだ。


「ち、ちっくしょー……」


 ソンショウは悔し涙を滲ませながら、起き上がろうとした。


 その彼の側に、和服姿の女性が駆け寄った。


「な、なんで、あんなひとを……」


 和服姿の女性はソンショウを見下ろして言った。哀れみと慈悲に満ちた眼差しだった。つい先ほどまで怨念の一つだったとは思えない。


 彼女は死した後、現世への恨みから怨念と化していたが、ソンショウとギテルベウスの痴話喧嘩に、かつての自分を取り戻したようだ。


「う、うるせえな、俺の勝手だろ……」


「で、でも放っておけないわ……」


 ソンショウと和服姿の女性のやり取りを眺めて、ギテルベウスは嫉妬の炎を激しく燃え盛らせた。


「むきいいいい!」


「おい、なんだよ! やるなら俺をやれ!」


「あなた、彼氏にちょっと厳しすぎるわよ!」


 人類の未来を守る戦いは、いつの間にか三角関係じみた様相を呈してきた。


 男女の熱い思いは、怨念すら晴らすのか。


 それこそが人類四百万年の歴史を紡いできたもの――


 愛という永遠の形だ。

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