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剴は決意した。
ゾフィーにプロポーズするのだ。
それが今出せる答えであった。
「フ……」
黄金マンは剴に背を見せ、神社の境内から立ち去った。
暗黒サンタと呼ばれる黄金マンが、剴の前に現れたのは偶然ではない。
万に一つの曇りない剴の精神に引かれて、やってきたのだ。
いわば剴の不屈の闘志が勝機を呼びこんだのだ。
「モガモガ、さてどうすんだ今年はよ?」
奈落マンは黄金マンの背に問いかけた。すでにクリスマス・イブだ。黄金マンの弟、白銀マンが世界中を飛び回っている頃だ。
「……白銀のために道を切り拓くぞ!」
黄金マンの決意を秘めた声を聞いて、奈落マン、鴉マン、痛覚マンは不敵に笑った。
人心を乱す妖魔が聖夜にも現れている。それをことごとく討つ。
完璧商人始祖の使命とは、本来そのようなものだ。彼らはこの世の平和を守るために戦うのだ。
さて、サンタクロースである白銀マンだが、疲労の極みにいた。
「立てー、立つんだ白銀!」
ソリを引くトナカイ、もとい眼マンの声も白銀マンに届かない。白銀マンはソリの座席に腰かけて、うつむいていた。
彼は昨夜、ミス・パーコーメンに身体中の水分を吸われて半死半生であった。
それなのに白銀マンはミス・パーコーメンと六十分一本勝負に臨んだのだ。やはり女性商人レスラーと試合するのが新鮮だからか、白銀マンは大いに充実した。
「いやあ、良かったなあ……」
「くらあー、白銀マーン!」
「待て、私がやる」
夜空から差し込んだ一条の光の中をゆっくりと降りてきたのは、正義マンであった。
「正義……」
「眼マン、私が白銀の代わりをやろう。クリスマスの概念と存在の意義を守る、それもまた我らの使命なのだからな」
眼マンと正義マンが使命感に燃える一方で、白銀マンは昨夜のミス・パーコーメンとの試合を思い出してニヤけていた。
そして今年は正義マンが白銀マンに代わって、世界中の子ども達にプレゼントを配って廻った。
結果は大好評だった。正義マンは希望にあふれる未来の守護者でもある。
彼の熱き魂に触れた子ども達は「未来」を強く意識した。人類の未来は明るいものになるだろう。
剴はゾフィーにLINEを送った。
結婚しよう、と。
以前にも剴が言った事はあるが、それはチュパカブラに襲われていた時だった。
ゾフィーは剴の気持ちに偽りがないか、試したかったのではないか。
夜の神社の境内、その闇の中で剴は返事を待つ。
とても、とても長い時間が過ぎたように感じられた時、LINEの返事が来た。
画面に映っていた文字は――
翔とギテルベウスは夕食を共にしていた。
しかし、金がないからといって、男女で定食屋はいかがなものだろうか。
定食屋ではシングルベルセットを販売していたが、翔とギテルベウスは断られた。
「この甲斐性なしっっっっっ!」
「うっせー、お前こそ化粧濃いし、そのネイルは何なんだよ!」
ギテルベウスと翔は定食屋を出ると乱闘という名の痴話喧嘩に及んだ。
緑の髪の美女ギテルベウスは、翔の前髪を引っつかんで顔面にパンチの嵐を叩きこんだ。
これも深い愛情ゆえの微笑ましい痴話喧嘩だ。
そして、そんな二人の前に姿を現したのは、物語冒頭にて剴に倒されたサターン・クロースである。
彼はシングルベルの怨念のパワーによって、復活したのだ。
その手始めに眼前のバカップルを滅ぼさんと――
「何よ、今大事な話中!」
振り返ったギテルベウスは、化粧も髪も乱れて、ひどい有様だった。
「た、助けてくれ!」
顔を腫らせ、鼻血を流した翔はサターン・クロースに助けを求めてきた。
ここまでできるのも、翔とギテルベウスが深い愛情で繋がれているからだ。
尚、ギテルベウスが帰国すると言ったのは、翔の気持ちを確かめるための嘘であった。
「死ね〜い!」
サターン・クロースは四本の腕に斧を握って、翔とギテルベウスに襲いかかった。
その時だ、通りすがりの宅配ピザのバイクが急停車したのは。
バイクから降りたのは、黒髪ショートヘアのアルバイト女性だ。
彼女は冷静な眼差しで聖夜の魔性を、サターン・クロースを見据えた。
「マイマイ!」
ギテルベウスは叫んだ。宅配ピザのアルバイト女性は知人のマイマイだった。
「あ、かわいいかも」
翔はマイマイを見つめて小さくつぶやいた。そんな翔へギテルベウスは殺意の波動をぶつけた。
「変…… 身!」
マイマイの体は光に包まれた。
夜を昼に変えるような強い光だ。
光の中でマイマイは姿を変えていく。
その姿はクリスマスの守護者に相応しい姿となるだろう。




