完璧商人始祖!の巻!
人知を超えた力を有し、世の経済を司る超人達……
人は彼らを商人と呼んだ……!
かつて商人の神「ザ・漢」は選び抜いた十人の商人を「完璧商人始祖」とした。
その完璧商人始祖たる者達も、商人と人類の未来に不安を抱いている。
「テプハハハー、こいつはいけねえな……」
全身を気泡緩衝材に包んだ痛覚マンが言った。彼は仲間の始祖達と共に「ザ・王」の動向を見張っていた。
「どうするつもりだ、猛牛マン?」
眼マンは時間商人よりも、自分を倒した猛牛マンが今後どのように行動していくのか、それが気になっていた。
黄金マンと正義マンは腕組みしたまま、黙して何も語らぬ。
黄金マンはクリスマスの守護者である「暗黒サンタ」である。
正義マンは「神の見えざる手」を司る市場経済の守護者である。二人とも人類の未来に干渉できる立場にはいない。
「カラ……」
鴉マンは白銀マンを見た。
「モガ……」
奈落マンも白銀マンを見た。白銀マンは始祖の座ったテーブルで、考えこんでいる。
鴉マンも奈落マンも、白銀マンと特に親しいというわけではない。
完璧商人始祖といえど、だからこそか、人間関係は複雑だ。
奈落マン、痛覚マン、鴉マンは黄金マンを好敵手として親しくしている。
が白銀マンとは特に親しくしてきたわけではない。
絶対防御には一目も二目も置いているが、白銀マンは同志以外の何者でもない。
だが、何かを期せずにはいられない。
白銀マンは正義商人の礎を築き、彼の子孫のキン肉男は数々の奇跡を起こしてきた。
始祖の中での事ならば、白銀マンによって精神マンは安定していた。
商人強度で最も劣る精神マンは、眼マンのようなパワー型に見下されていた。
日々、人知れず悔し涙を流す精神マンにアドバイスし、更に握力強化の道を勧めたのは白銀マンである。
また白銀マンとのスパーリングは、始祖全員に心地よい充実を与えていた。
絶対防御を持つ白銀マンを相手に、完勝できた始祖は誰もいない。また完敗した始祖もいない。
――テプハハハー、今日もいい汗をかいたな。
――カララー、今夜は酒が美味そうだ。
――モガモガ、夜メシは何だ精神マン?
そんなやり取りが数千万年も続いてきたのである。白銀マンは正に平和の神だった。彼のおかげで始祖内では壊滅的な対立は起きなかったのだから。
また精神マンも白銀マンのおかげで成長し、眼マンのようなパワー型を相手に互角に渡り合えるようになった。
白銀マンが唯一ではないが、彼の貢献は完璧商人始祖の結束を強め、正義商人という枠組みを築き、子孫が奇跡を起こしている。
その白銀マンならばあるいは?
人類と商人の未来に答えを出せるのではないか?
始祖達の注目を集める白銀マン。彼は口を開いた。
「夏だから水着お姉さん目当てに海ですけど、混浴露天風呂も悪くないんじゃないですか?」
白銀マンの煩悩に、始祖の誰もが押し黙った。男ならわからなくもないが、水着美女と混浴露天風呂と人類の未来を同時に論議するとは。
「白銀マンさんてば私というものがありながらー!」
精神マンは血涙を流してハンカチを噛みちぎった。自分を救った白銀マンを愛する精神マンだが、彼の思いが報われた事はほとんどない。
「私はいいと思う」
ザ・漢は控えめに挙手して賛同した。混浴露天風呂だろう多分。
「この先の未来に…… まだ見ぬ答えが生まれてくるのだろう」
正義マンは微笑した。白銀マンのおかげで、深刻なテーマは明るくなった。
生きる、喜ぶ、感謝する、楽しむ。
それができるからこそ、未来を守れるのではないか。
たとえ未来を守っても、人類に未来を守る意志がないのなら、早々と滅亡するだろう。それは共食いに似た現象だ。
果たして彼ら十一人が見た夢と、人類の見る未来は同一なのだろうか。
*
完璧商人始祖らは天上界の動向から目を離さない。
「アパッチ……」
ザ・漢はアパッチの迎えた顛末にうめいた。
アパッチに一撃を食らわせた事もあるザ・漢だ。まさかアパッチが人類と商人の未来を守るために、あのような選択をするとは。
「ニャガ……」
精神マンは歌唱マンの行方が気になっていた。明確な死が描かれていないという事は、正義マンのように再登場するのだろうか。
「シャバババー……」
眼マンは夕食の献立を考える。完璧商人始祖結成時から、眼マンは食事を担当する事が多かった。
眼マンの単眼は素材の良し悪しを見抜く。数億年前は地上にあふれていた恐竜たちを始祖達で狩りまくっていた。狩りを兼ねたトレーニングでもあったのだ。
――モガ〜!
奈落マンはトリケラトプスと真っ向から組み合った。
――カラー!
鴉マンは翼竜プテラノドンに急襲した。
――テプハハハー!
痛覚マンの緩衝材のようなボディーは、ティラノサウルスにも噛み砕けなかった。
――さ、みなさんご飯ですよー!
精神マンのエプロン姿にうんざりしながらも、始祖達は夜になれば皆で未来への夢と情熱を語り合った。
それは飽くなき未来への挑戦だった。
ザ・漢も始祖の誰かが自分を倒してくれる事を願っていた。
神を商人が倒す……
それこそがザ・漢の悲願であった。
だが打倒を宣言していたのは黄金マンと奈落マンのみであった。他の始祖は敬愛するザ・漢を倒すなど、畏れ多くて冗談でも口にできない。好戦的な眼マンですら、ザ・漢には敬意を払っていた。
(思えば、あの頃が一番楽しかった……)
眼マンは過去を思い出しながら今夜は肉ジャガにしようと思った。
人類の未来は、眼マンの単眼を以てしても、見えてこない。