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虚無戦線  作者: MIROKU
ラスト・クリスマス・ヒーロー
19/99

 人間の意識が認識できぬ「混沌カオス」の虚無空間。


 その空間で、混沌の軍勢と戦うのは改造人間マシンガン・カンガルーと、同じく改造人間ヤギ・バズーカだ。


「BARI BARI BARI BARI BARI BARI BARI BARI BARI BARI BARI BARI BARI BARI BARI!」


 マシンガン・カンガルーは両手に握ったマシンガンを乱射して、混沌の軍勢を撃ち倒す。


「どっせい!」


 ヤギ・バズーカは背のバズーカ砲を発射した。混沌の軍勢の真ん中で大爆発が生じた。


 それで戦闘は終了した。


「混沌の軍勢は一体どこから来るのかしら……」


「奴らはな、人間の悪意なんだ」


 マシンガン・カンガルーとヤギ・バズーカは混沌空間から立ち去った。






 そして人間世界では――


 小料理屋「ビッグファイア」も、そろそろ店じまいであった。


「あのクラリスは寝た?」


 女将のギンレイは、のれんを片づける。


「ああ、よく寝てる」


 バイト店員のタイソウはテーブルを拭きつつ答えた。


「そう……」


 ギンレイの穏やかな笑顔。


 夫を早くに亡くし、女手一つで娘を育て――


 一度は改造人間マシンガン・カンガルーとして働いてきたが、それから足を洗い、今は小料理屋を営むギンレイ。


 ある日、店先で行き倒れていたタイソウを介抱し、その後、彼はギンレイの店を手伝い、娘にも優しくしてくれた。


 また、タイソウも改造人間ヤギ・バズーカであった。そんな商売から足を洗ったものの、行き場をなくしてギンレイの元にたどり着いた。


 これを奇縁と呼ばずに何と呼ぶのか。


「もうすぐクリスマスね」


「そうだなあ」


「あの子ったら、弟か妹が欲しいんですって」


 言ったギンレイの魅惑の流し目に、タイソウの心臓が激しく高鳴った。


「な、な、な、何を言ってんだよ」


「あら、あたしの事キライなの?」


「そ、そんなんじゃねえよ! ギンレイは美人だし胸もでかいしケツは色っぽいし足も長いしアラサーで三十前だし!」


「余計な事は言わなくていいの」


 ギンレイは優しく正中線三段突きをタイソウに叩きこんだ。


「お、俺たちはそういう仲じゃ…… 俺にとっちゃ、あんたらは命の恩人、救いの女神だ」


 タイソウはダウンしそうになるのをこらえた。


 事実、彼にとってギンレイは救いの女神であり、彼女の娘クラリスは命を懸けて守るに値する。


 下心など微塵もないタイソウの心意気が、ギンレイには嬉しいのだ。


「そんなのどうでもいいでしょ…… ね、明日は店も休みだし…… 今夜は」


 ギンレイはタイソウの腕に自身の腕を絡ませた。さりげなく胸も押しつける。


 そして二人で夜空を見上げた。満月が美しかった。


「し、し、しょうがねえな…… お、俺だってアンタの事が……」


「言わなくてもわかるわよ」


「ま、まあ、あれだ。サンタさんに弟か妹を頼むかな」


 そう言って二人が店の戸を閉めようとした時だ。


「ツァー!」


 気合の一声に振り返れば、そこには白銀のおもてを持つ超人が、血涙を流しながら立っていた。


 彼は世の経済を司る完璧商人始祖パーフェクト・オリジンの一人、白銀マンだ。


 平和の神として知られ、そしてサンタクロースの正体でもある。


 その白銀マンの隣には単眼サイクロプスの巨人が立っていた。頭に大鹿エルクに似た角を生やした超人は、完璧商人始祖の一人である眼マンだ。


 彼の姿は後世に誤伝され、サンタクロースのトナカイになった。


「な、なんだ、お前ら!」


「メリイイイイ!」


 血涙の止まらぬ白銀マンは、タイソウをブリッジシュートで宙高く放り上げると、自身も跳躍し、彼を複雑な技に捕らえた。


 それは究極の峰打ち「筋肉の閃光」だ!


「クリスマアアアアアス!」


 ダダアン!とタイソウは大地に叩きつけられた。ヒクヒクしているタイソウだが、命に別状はない。


 さすがは改造人間だ。タイソウを絶命させるとしたら、数十トンの衝撃が必要だろう。


「奥さん!」


 白銀マンは血涙を流したまま、ギンレイに振り返った。


「奥さんじゃないですが!」


「クリスマスの願い、しかと聞き入れた……!」


 白銀マンが小料理屋ビッグファイアを訪れたのは偶然ではない。


 タイソウとギンレイの純粋にして強大な愛のオーラに導かれてやってきたのだ。


 万に一つの濁りない思いは運命を、天を動かす。


 クラリスの純粋な思いを叶えるために、白銀マンはあえて筋肉の閃光を放ったのだ。


 それが新たな命誕生のための代償だ。


「僕から子宝の女神に話をつけておこう、男の子と女の子の双子をね」


「はあ……?」


「がんばってパパ」


「な、何を言ってんだテメエ……?」


 白銀マンとギンレイ、そしてタイソウの噛み合わぬ会話。だが得てして、運命とは人間の理解を越えている。


 善い事も悪い事も、心の在りようによって、現象となって現れる……


「シャバババ……」


 彼らのコントのようなやり取りを見つめながら、眼マンは別の事を考える。


 精神マンが白銀マンの前から姿を消した。クリスマス目前だというのに。


 そして新たな時間商人はニャガニャガ言っている。


 もう楽しくてウキウキしている読者も多いが、一体何が起きているのか?


 そして世界の行方は?


 眼マンの単眼サイクロプスですら、一寸先の未来が見えなくなりつつある。

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