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虚無戦線  作者: MIROKU
混沌極まる時
15/99

守護者編 ハロウィンに向けて!の巻!



     **



 混沌カオスの闇の中で唯一人戦うのは「托塔天王」チョウガイだ。


「覚悟しろ!」


 チョウガイが手にした黄金の剣を振り抜けば、生じた光の一閃が闇の彼方まで斬り裂いた。


 百八の魔星の守護神たるチョウガイは、魔を降伏する不動明王の眷属でもある。


 はるかな虚無での孤軍奮闘、それは現世の人々の幸せとなって現れる。


「願わくば子どもの喜びが永遠の形である事を……」


 チョウガイは闇の彼方を見据えた。


 最高の一瞬が、永遠の感動となる事を願う。


 たとえば技芸の達成、恋愛の成就。


 その最高の一瞬を永遠の感動にできる者が、満足して死ねるのだと。


 チョウガイは今現在に世界を襲う苦難の正体が見えた。


 混沌の波動は、さほど遠くない未来から来ている。


 それは人類を滅ぼす悪意に満ちていた。


 そして、チョウガイは宇宙の真理を思い出す。死は全ての人々に訪れ、更に人間は死後に生前の全ての行いを見せられる。


 自分を裁くのは自分であるのだ。


「わからぬ、何もわからぬ事が恐ろしい……!」


 チョウガイは人間が認識できぬ虚無の中で戦慄していた。


 未来はどうなるのだろうか。


 地球温暖化による水位の上昇、そこに大地震が起これば、世界規模での大洪水になるかもしれない。


 それは旧約聖書に記されたノアの箱舟の再来か。



     **



 今年もハロウィンが近づいていた。


 ハロウィンの守護者「レディ・ハロウィン」ローレンは、戦いに備えている。


 そして天機星「知多星」ゴヨウは、マイマイの部屋にお邪魔していた。


「合鍵渡したのに全然来ないじゃない」


 黒髪の美女マイマイはゴヨウに愚痴をこぼす。


 場所はマイマイの部屋の浴室だ。マイマイはゴヨウの背を洗っていた。もちろん全裸だ。湯気が邪魔だ。


「いや、その……」


 ゴヨウはマイマイに背中を洗ってもらいながら、尚もビクビクしていた。


 理由は幾つもある。マイマイが実は人間ではなく、向こうの世界からやってきた女妖魔であるというのが一つ。


 二つ目は日々の苦難の中で自信を失いかけている事。男の魂の危機かもしれぬ。こんな状態で女に会えば、あっさりと見捨てられるだろう。


 三つ目に、合鍵で部屋に入ったら別の男がいるという展開には耐えられない……


 とまあ、知多星ゴヨウにも迷いはあるのだ。


「週に一度は来てよ」


 マイマイはゴヨウの背をシャワーで洗い流した。






 ゴヨウとマイマイの二人が浴室から出て、ダイニングに戻ると、一人の女性がお茶を飲みながらテレビで相撲を観ていた。


「誰その女?」


 ソファに座った美女は「蛇遣い座の女神」であった。


 宇宙創生の十二星座の女神、その裏に隠された十三番目の女神である。


 彼女は一度死んだゴヨウを体内で再生させた経緯から、母親のような感情を抱いていた。


 ゴヨウにとって蛇遣い座の女神は自分を産み出した二人目の母だ。


「誰この女?」


 マイマイはバスタオル一枚羽織った姿で、ゴヨウをにらんだ。


 目が真剣マジだった。


「ゴヨウ、こんな女を彼女にするのか? はあ〜……」


「ゴヨウ、そんな女と知り合いなの? ハァ……」


 蛇遣い座の女神、マイマイ、揃ってゴヨウに失望したらしい。


 二人の美女はゴヨウに関心を向けず、唐突に現れた謎の女へ殺意を向けた。


「年増のオバサン、あんた人間じゃないわね」


「生意気な小娘、お主も人間ではないのう。わらわのゴヨウに近づくでない」


「私の勝手よ」


「わらわの勝手じゃ」


 マイマイと蛇遣い座の女神、二人の女心が火花を散らす。


 ゴヨウは生きた心地もしない。


 日々の消耗から癒しを求めて女の元に訪れれば、そこに待つのも女地獄。


 消え入りそうな意識の片隅で、今年のハロウィンはどうなるのだろうと、ぼんやりと考えた。

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