守護者編 ハロウィンに向けて!の巻!
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混沌の闇の中で唯一人戦うのは「托塔天王」チョウガイだ。
「覚悟しろ!」
チョウガイが手にした黄金の剣を振り抜けば、生じた光の一閃が闇の彼方まで斬り裂いた。
百八の魔星の守護神たるチョウガイは、魔を降伏する不動明王の眷属でもある。
はるかな虚無での孤軍奮闘、それは現世の人々の幸せとなって現れる。
「願わくば子どもの喜びが永遠の形である事を……」
チョウガイは闇の彼方を見据えた。
最高の一瞬が、永遠の感動となる事を願う。
たとえば技芸の達成、恋愛の成就。
その最高の一瞬を永遠の感動にできる者が、満足して死ねるのだと。
チョウガイは今現在に世界を襲う苦難の正体が見えた。
混沌の波動は、さほど遠くない未来から来ている。
それは人類を滅ぼす悪意に満ちていた。
そして、チョウガイは宇宙の真理を思い出す。死は全ての人々に訪れ、更に人間は死後に生前の全ての行いを見せられる。
自分を裁くのは自分であるのだ。
「わからぬ、何もわからぬ事が恐ろしい……!」
チョウガイは人間が認識できぬ虚無の中で戦慄していた。
未来はどうなるのだろうか。
地球温暖化による水位の上昇、そこに大地震が起これば、世界規模での大洪水になるかもしれない。
それは旧約聖書に記されたノアの箱舟の再来か。
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今年もハロウィンが近づいていた。
ハロウィンの守護者「レディ・ハロウィン」ローレンは、戦いに備えている。
そして天機星「知多星」ゴヨウは、マイマイの部屋にお邪魔していた。
「合鍵渡したのに全然来ないじゃない」
黒髪の美女マイマイはゴヨウに愚痴をこぼす。
場所はマイマイの部屋の浴室だ。マイマイはゴヨウの背を洗っていた。もちろん全裸だ。湯気が邪魔だ。
「いや、その……」
ゴヨウはマイマイに背中を洗ってもらいながら、尚もビクビクしていた。
理由は幾つもある。マイマイが実は人間ではなく、向こうの世界からやってきた女妖魔であるというのが一つ。
二つ目は日々の苦難の中で自信を失いかけている事。男の魂の危機かもしれぬ。こんな状態で女に会えば、あっさりと見捨てられるだろう。
三つ目に、合鍵で部屋に入ったら別の男がいるという展開には耐えられない……
とまあ、知多星ゴヨウにも迷いはあるのだ。
「週に一度は来てよ」
マイマイはゴヨウの背をシャワーで洗い流した。
ゴヨウとマイマイの二人が浴室から出て、ダイニングに戻ると、一人の女性がお茶を飲みながらテレビで相撲を観ていた。
「誰その女?」
ソファに座った美女は「蛇遣い座の女神」であった。
宇宙創生の十二星座の女神、その裏に隠された十三番目の女神である。
彼女は一度死んだゴヨウを体内で再生させた経緯から、母親のような感情を抱いていた。
ゴヨウにとって蛇遣い座の女神は自分を産み出した二人目の母だ。
「誰この女?」
マイマイはバスタオル一枚羽織った姿で、ゴヨウをにらんだ。
目が真剣だった。
「ゴヨウ、こんな女を彼女にするのか? はあ〜……」
「ゴヨウ、そんな女と知り合いなの? ハァ……」
蛇遣い座の女神、マイマイ、揃ってゴヨウに失望したらしい。
二人の美女はゴヨウに関心を向けず、唐突に現れた謎の女へ殺意を向けた。
「年増のオバサン、あんた人間じゃないわね」
「生意気な小娘、お主も人間ではないのう。わらわのゴヨウに近づくでない」
「私の勝手よ」
「わらわの勝手じゃ」
マイマイと蛇遣い座の女神、二人の女心が火花を散らす。
ゴヨウは生きた心地もしない。
日々の消耗から癒しを求めて女の元に訪れれば、そこに待つのも女地獄。
消え入りそうな意識の片隅で、今年のハロウィンはどうなるのだろうと、ぼんやりと考えた。




