守護者編 未来から来たエネルギー!の巻!
**
某大学応援団長の剴。
彼の正体は、百八の魔星の守護神チョウガイだ。
人間から半神半人の存在となって四千年、チョウガイにも忘れられぬ事がある。
妹の死の悲しみ。
そして生涯最大の敵との死闘。
あの悲しみと戦慄をチョウガイは忘れる事はない。
だからこそ人間の意志を保ち続けられるのだ。
人間としての最高の体験が、チョウガイを人間たらしめている……
「行け、天導百八星よ…… 人類の未来を守るために!」
チョウガイは黄金の剣で、戦うべき敵を指し示した。
混沌という滅びのエネルギー生命体との戦いは、人間の意識の及ばぬ世界で繰り広げられている。
剴と同じ大学で生徒会長を務める翔。彼は剴の遠い親戚(祖父同士が兄弟)だ。
その正体は百八の魔星の一人、天間星「入雲竜」ソンショウだ。彼もまた、人類の未来を守るために戦う。
即身仏の修行を成し遂げたソンショウは、己の力だけで人間を超えた存在である。
今のソンショウは現世と死界を自在に行き来する――
「……今年のハロウィンどうすんだよ」
ソンショウは背中合わせに寄り添う女性に呼びかけた。
「あたしはやるべき事をやるのよ」
翔の背に自身の背を貼りつけている美女はギテルベウスだ。
緑色の髪を持つギテルベウスは、人間世界でたこ焼き屋の移動販売を営んでいる。
が、ギテルベウスの正体は「向こうの世界」からやってきた女妖魔だ。彼女が「死者の書」を開けば、無数の死霊が現世に現れる。
かつてハロウィンの夜には「この世」と「あの世」がつながり、無数の妖魔が現れた。
人間型、動物型、昆虫型、機械型、不定形型といった正体不明の魔物達を総称して妖魔と呼ぶ。
ハロウィンのパレードは、無数の妖魔が地上を闊歩する様子に他ならぬ。
「だ、だって、あたしは……」
「あー、そのー、なんだ。ハロウィンは一緒に行かねえか?」
「あ、あんた次第よ!」
ソンショウとギテルベウスは背を貼りつかせたまま、尚も話しこんだ。
本来ならば敵対するはずの彼らが惹かれあうとは。
これも男と女の不思議である。いや宇宙の神秘にして真理といったところか。
ゴヨウの魂は蛇遣い座の女神に召喚されていた。
人の意識の及ばぬ虚無の世界で、ゴヨウは蛇遣い座の女神の手の平に立ち、彼女の話を聞いていた。
「混沌の正体は…… 未来から来たエネルギー生命体?」
「そうじゃ、ようやく奴らの正体がわかった。混沌らは未来から来たのじゃ」
蛇遣い座の女神はゴヨウに告げた。
宇宙創生の「十二星座の女神+1」。
本来ならば誰にも知られる事のなかった超越の存在だ。
天の機を知る宿星に産まれた天機星「知多星」ゴヨウは、彼女の存在を知覚した。
人間の認識できぬ世界で混沌と戦うゴヨウと、蛇遣い座の女神は、どこか似ている。
だからこそ互いに良き理解者と感じているのだろう。
「数年前の星辰の乱れ、この星を包んだ病魔、海からの試練、食への感謝、全ては人類への試練だが、遂に限界を迎えたようじゃ」
「限界?」
「この星が一人の人間…… いや、一人の女だとしたら、どうじゃ? 人類を許せるか?」
蛇遣い座の女神は、手の平に立つゴヨウをじっと見つめた。
「許せるわけないよね……」
ゴヨウは冷や汗を浮かべて、力なく苦笑した。
人類は大地を汚し、海を汚し、我欲に突き動かされて生きている。
まるで共食いする餓えた化物であった。
地球が一人の女性だとしたら、人類に愛を示すだろうか?
散々に地球を傷つけ汚してきた人類が許されるだろうか?
「混沌は未来からやってきておる…… 意味を考えよ、知多星ゴヨウ」
蛇遣い座の女神の声も姿も遠くなる。
ゴヨウは深い闇の中に漂った。
並の人間ならばあっという間に孤独感に包まれて精神崩壊する、虚無の闇。
その闇に在ってゴヨウが自意識を保てるのは、彼が死より辛い体験を経てきているからだ。
一度崩壊した自分の精神を、自らの意志で新たに作り直す。
それを成し遂げたからこそ、ゴヨウは今ここにいる。
そして百八の魔星の守護神チョウガイに選ばれ、宇宙創生の女神+1蛇遣い座の女神にも選ばれた。
ゴヨウは更に考える。どうして未来から混沌のエネルギーが流れこんでくるのか。
未来には何があるのか、未来の人類は何をしているのか。
「ま、まさか……」
ゴヨウは恐ろしい想像をした。だが敢えて口には出さぬ。
混沌は人類を滅亡へ導くが、同時に成長もさせている。
成長した魂が知恵と勇気と理解を示せば、あるいはこの地球も――




