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桜田探偵クラブ  作者: さとしひかる
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消えない痛み

「私、ちょっとトイレ行ってくるから待ってて」


 明楽は僕にそう言い残しトイレへと向かっていった。一人になった僕は、明楽を待ちながらボーっと廊下の壁を見つめていた。


 神山くんに謝ろう。神山くんは僕を助けてくれた。今日会ったばかりの僕を。

 それに引き換え、僕は神山くんに対して何もしてあげられなかった。神山くんが山田くんに言いがかりをつけられたとき、僕は何も言えなかった。


「はぁ……」


 思わずため息が出た。それと同時に、後ろから声がかかる。


「なあ、ちょっと話があるんだけど」


 振り返ると、そこには山田くんが立っていた。山田くんの後ろには、何人かの生徒が控えている。たくさん居るうちの、何人かの生徒は見覚えがあった。見たことがある人たちは同じクラスの人だ。その他にも、体育の授業で山田くんとペアを組んでいた人もいた。


「山田くん……?」

「ついて来いよ」


 山田くんは僕の腕を掴み。強引に引っ張っていく。目的地はわからない。だが、僕の経験が訴えている。このままじゃまずいと。


「うっ……!」


 腕を振りほどこうとするが、山田くんはそれ以上の強い力で掴み続ける。


「ど、どこ行くの……? 話ってここじゃだめなの……?」


 僕は若干震えた声で山田くんに尋ねた。山田くんは僕の言葉を無視して周りの人と会話を始める。


「どこ行く?」

「体育館の裏でいいんじゃねえの? 誰も来ないだろ」


 僕はもう一度、山田くんの腕を振りほどこうと必死に力を入れる。しかし、山田くんは僕の腕を掴みながら、拳に力を込めていた。


「いちいち動こうとするなよ」


 次の瞬間、お腹に強い衝撃が走った。胃を圧迫されるような痛みに吐き気がした。僕は思わず、お腹を抑えてうずくまる。


「さっさと立てよ」


 今度はお尻に軽く蹴りを入れられた。僕はよろめきながら立ち上がり、周囲の顔を見渡す。誰もが僕に対して威圧的な態度だということが一瞬で感じ取れた。それ程に、目の前の一人ひとりの目は冷たかった。


「ほら、行くぞ」


 また腕を掴まれながら、今度は抵抗することなくそのまま体育館裏へと連れて行かれる。トイレの方を振り返っても、明楽が出てくる様子はなかった。


 しばらく引っ張られ続け、やがて体育館裏へついた僕と山田くんたちは、向かい合うようにして並び立った。


「お前、何でここに連れてこられたか分かるか?」

「え……えっと……」


 心当たりは一つしかない。僕が体育の授業中にボールをぶつけてしまったからだ。そんなことでと思ったが、それ以上の理由は思い浮かばない。


「ボールを……ぶつけたから……?」


 僕は山田くんから目をそらしながら答えた。


「そんなことどうでもいいんだよ」


 山田くんの表情は見ていないが、声だけで苛立っていることはなんとなく分かった。


「お前、神山と仲いいんだなあ?」

「それは……」


 なんと答えていいか迷った。今日知り合ったばかりの相手だ。仲が良いとは言えない。


「今日知り合ったばかりだし……」

「じゃあ、もうあいつと喋るな」

「?……なんで……?」


 今度は足を蹴られた。ふくらはぎに鋭い痛みが走る。


「お前は黙っていうこと聞いとけばいいんだ」


 周りを見渡しても人影は見当たらない。この場には僕達しかいないようだ。


「僕は……」


 続きの言葉が出てこない。僕がここでうんと頷けば神山くんは僕のことをどう思うだろうか。逆に、山田くんの言うことを聞かなければ、僕は今ここで目の前にいる彼らに痛い目に合わせられるに違いない。


「……」


 何も言葉を発しない僕に苛立ったのか、山田くんの右隣に立っていた生徒が口を開く。


「なんとか言えよ!」


 今度は頭を強く押され、よろめいてしまう。膝は小刻みに震え、呼吸も荒くなる。


「なあ、そろそろ天堂が探しに来るんじゃねえか?」


 先程から周りを気にしていたもうひとりの生徒が、ソワソワした様子で山田くんに訴えかける。顔をちらりと見ると、体育の授業で山田くんとペアになっていた人だ。


「しょうがねえな……」


 そろそろ見逃してくれるのかと顔を上げると、山田くんは僕を見てニヤリと笑った。次の瞬間、お腹に山田くんの拳が飛んできた。


「うっ……」


 地面に膝を付き、うずくまる僕の上から山田くんの声がかかる。


「じゃあ、今日はもうこれでいいや。もう神山と喋るなよ」


 山田くんたちは、僕に背を向け歩き去っていく。僕はお腹の痛みを堪えながら、なんとか立ち上がる。


「なんで……」


 なんで僕はいつもこうなるんだ……。


 殴られた時の痛みはまだ残っていたが、我慢しながら明楽と別れたトイレへと向かう。このまま一人で帰ろうかとも思ったが、僕を友達と呼んでくれる人を蔑ろにするのは嫌だった。


「あっ! 日向!」


 明楽はトイレの前で落ち着きがない様子でいた。僕を発見するなり小走りで近づいてくる。


「どこ行ってたの!?」

「ごめん……えっと……」


 咄嗟に言い訳が出てこなかった。明楽はそんな僕の様子を見て不審に思ったのか、心配そうな目で僕を見る。


「どうしたの?」

「いや……ちょっと先生に呼ばれてたんだ」

「先生に……?」


 明楽はまだ納得できていないようだが、無理やり話題を変えようと試みる。


「そういえばさ、クラブ活動って明日なんだよね?」


 明楽は僕のことを心配そうに見ていたが、クラブの話題を出した途端に表情が明るくなった。


「そうね! 武と私でみっちり活動について教えてあげるから! 覚悟しといてよね!」

「う、うん」


 明日はクラブ活動だ。しかし、クラブには神山くんが居る。さっき言われた山田くんの忠告。

 ……もう何も考えたくなかった。


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