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桜田探偵クラブ  作者: さとしひかる
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山田くんと神山くん

 準備体操を終え、体育の授業が本格的に始まった。まず始めにパス練習。これも二人一組になって行うようで、僕と神山くんは無言のままパス練習を始めた。


 運動音痴の僕は、ボールを真っ直ぐ蹴ることも、転がってきたボールを足元で止めることもままならなかった。一方神山くんは、僕とは違ってスムーズにボールを蹴り、きれいにボールを足元で止めていた。僕が見当違いなところにパスを出しても、神山くんは難なくそれを受け止めた。


「あっ……ごめん」


 僕が蹴ったボールは高く宙を舞い、神山くんを飛び越えてさらに向こうへ飛んでいった。


「取ってくるよ!」


 僕は走ってボールを追いかけた。ボールは弧を描きながら、僕達の反対側でパス練習をしていた生徒の頭にぶつかった。


「いってーな。何すんだよ」


ボールが頭にぶつかった生徒は、ボールと僕を順番に睨みつけた。そこで僕はその子の顔を見て思い出した。彼は確か同じクラスの山田くんだ。


「ご、ごめん……」


 僕は慌てて山田くんに頭を下げた。すると突然肩に衝撃が走り、僕は簡単に尻餅をついてしまう。何かと思い顔をあげると、山田くんは僕を嘲笑うかのように広角を上げていた。その表情を見た瞬間、僕は山田くんに突き倒されたのだと悟った。


「どんくさいなぁ」

 

 山田くんはぶつかったボールを拾い上げ、僕の前に差し出した。

「ほら」

「……ありがとう」


 僕は山田くんに差し出されたボールを取ろうとした。すると山田くんはボールを乗せた手を引っ込め、そのままボールを僕に投げつけた。僕は咄嗟にボールを防ごうとして手を前に出す。ボールは僕の手に弾かれて、別の方向へ飛んでいってしまった。


「次は気をつけろよ〜」


 山田くんは何食わぬ顔でサッカーの練習を再開した。僕のことはもう忘れてしまったみたいに。


「……」


 僕は陰鬱な気持ちになりながらも、ボールの行方を追いかける。ボールを追った僕の視線の先には、神山くんが立っていた。手にはボールを持っている。


「おい、山田」

「何だよ」

「奥村は謝ってただろ。なんでわざわざボールをぶつけるんだ」


 神山くんは、庇うように僕の前に立ち、山田くんを睨みつけた。山田くんを見る神山くんの目は、とても同学年とは思えないほどの迫力があった。


「お前には関係ないだろ」


 山田くんは神山くんの言葉を無視してサッカーの練習を再開しようとした。僕達とは反対の方向を向いた山田くんの肩に、神山くんは手をかけた。


「奥村に謝れよ」


 そう言いつつ、神山くんは掴んだ肩を思い切り引っ張った。山田くんはバランスを崩し、尻餅をつく。


「なにすんだよ!」

「お前が奥村にやったことだろ」


 僕はハッとして神山くんを止めに入る。これ以上神山くんを放っておいたらまずい気がした。


「か、神山くん、もういいよ。僕は大丈夫だから」


 神山くんの表情がなんだか険しくて、気後れしながらもなんとか神山君の肩に手を触れる。しかし、神山くんは僕の手を払いのける。


「今はこいつと話をしてるんだ」


 そう言うと神山くんは山田くんの体操着を掴んで無理やり状態を起こした。首が閉まったのか、山田くんは苦しそうに呻き声をあげる。


「おい、やめろよ神山!」


 それを見かねたのか、山田くんの練習相手だった生徒が大声を出しながらこちらに走ってきた。周りの生徒も先程からパス練習が上の空になりながらもこちらの様子を伺っているのがわかる。


「何やってるんだお前ら!」


 異変に気付いたのか、北島先生がこちらに向かって走ってきた。このままでは大事になってしまうかもしれない。


「神山くん!」


 僕は不安な気持ちを抑えて、もう一度神山くんに呼びかけた。神山くんの腕を強く握ると、神山くんはハッと驚いたような顔をして、山田くんの体操着から手を話した。


「わ、悪い……」


 バツが悪そうな顔で俯く神山くんに、北島先生が声をかける。


「神山、またお前か」


 北島先生は呆れたような顔をしている。何か誤解があるような気がして、僕は思わず口を挟んだ。


「ち、違うんです先生、神山くんは僕のことを……」


 うまく言葉が出てこない。すると横から山田くんの声がした。


「神山が俺をいきなり突き飛ばしてきたんだ」


 山田くんは僕の言葉を無視して、北島先生に一部の事実だけを伝えた。僕が異論を唱えようとする前に、北島先生は少し苛ついたような表情で神山くんに言った。


「神山、何度言ったら分かるんだ。お前は暴力しか知らないのか」


 神山くんは何も言い返さない。僕は北島先生の態度や発言から、以前にも同じようなことがあったのかと、なんとなく想像した。


 しかし、神山くんは悪気があって山田くんを突き飛ばしたのではない。僕のためにそうしてくれたんだ。それを伝えられるのは僕しかいない。


 僕は勇気を振り絞り、口をゆっくりと動かした。


「あの……神山くんは僕のために……」

「残りの二人で授業を続けなさい。山田と神山はちょっとこっちに来い」


 北島先生は僕の言葉を遮って、二人を連れて離れた場所へ移動してしまった。その場には、山田くんと組んでいた人と僕の二人が残された。


「何言っても無駄だよ。神山だし」


 山田くんと組んでいた生徒が僕に話しかける。名前はわからない。多分三組の生徒だ。


「……どういう意味?」

「まあ、お前も神山にはあんまり関わらないほうがいいってこと」


 なにか意味深なことを言われたが、僕には何も理解できなかった。

 訳のわからないまま、体育の授業は終わりを迎えた。


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