僕の居場所
――あれから一ヶ月が経過した。山田くんとの騒動以来、彼は僕達にちょっかいを出すことはなくなった。先生からの説教がよっぽど応えたのかもしれない。今までの悪事がばれなかった分の罰が当たったのだろう。そのおかげで平和な学校生活を送っていた僕と明楽と武の三人は、今日も相変わらず研修室でダラダラと時間を潰していた。
「なあ、そもそもなんで『探偵』なんだ?」
武は唐突にそんな事を明楽に聞いていた。確かに、僕はこのクラブを結成した経緯をよく知らない。明楽が武を一人にしないために作ったっていうのは、何となく聞いていたけど、名前の由来とか、そういうのは聞いていなかった。
「僕も、それ気になる」
「もー。二人ともしょうがないなぁ、特別に教えてあげる」
明楽はそう言いつつも、にやけたような顔を隠しきれていなかった。聞いてほしかったのだろうか。
「――探偵ってかっこいいでしょ!」
「……は?」
「……」
僕と武は唖然として、何も言えなかった。
「……それだけ?」
「あやちゃんと一緒に考えたんだけど、武はカッコいい名前の方が好きかなって思って」
「俺が入ること前提で考えてたのかよ……」
「それはそうよ。私の予想は大体当たるの」
僕の時も、明楽は僕がこのクラブに入ると確信していたみたいだし、案外明楽の直感は信頼できるのかもしれない。
「嫌だった?」
「いや、そういうわけじゃねえけど……」
上目遣いで尋ねる明楽に、武は言葉を濁していた。
「武って、なんだかんだ明楽に優しいよね」
「そうか……?」
「あら〜。もしかして私に惚れちゃってるのかしら?」
明楽は調子の良い声で武を茶化した。
「ちげえよあほ。同じクラブだし、そう見えるだけだろ」
「確かに、それはそうかもね。日向と武だって、私から見たら仲良しって感じだし。ていうか、二人はいつの間に名前で呼ぶようになったの?」
「なんだっていいだろ。そんなこと」
「あの時から、武が名前で呼んでくれたから」
あの日は何度も殴られて、とても辛い思いをした。けど、それ以上に大切なものを貰った。
「ありがとう、二人とも。おかげで今とっても楽しいよ」
「ありがとうって言うの何回目だよ。俺だってあの時は助かったし、お互い様だろ」
武はぶっきらぼうに答えて僕から目をそらした。僕もなんだか照れくさくなって、顔をそむけてしまう。
「ちょっと、二人でイチャイチャしないでよ。私だって二人にはいつもありがとうって思ってるし」
明楽はふてくされたように頬を膨らませていた。
「イチャイチャはしてねえだろ」
「してるもん」
「まあまあ二人とも。そろそろ篠崎先生が来る時間だよ。また依頼が来るかもしれないし、静かに待ってようよ」
僕が二人にそう言うと、二人はじっと僕のことを見つめた。
「……な、何?」
「なんか、日向って最近大人っぽくなってきたよな?」
「うん、今の言い方とか、完全に保護者っていうか、先生だった」
「そうかなあ……」
以前にも、似たようなことを二人に言われた。この二人と喋っていると、偶に言い合いになる。篠崎先生がいないときは、僕が仲裁に入ることが多い。
「三人とも集まってるー?」
唐突に、研修室のドアが開いた。篠崎先生が、気怠そうにいろんなプリントを持って研修室に入ってきた。
「あ、あやちゃん! 依頼は来てたの?」
明楽が食い気味に訊ねた。
「慌てないの。依頼は来てたわよ。というか、来てるわよ」
そう言って、篠崎先生は一人の人物を部屋に招き入れた。
「よう、お前ら」
そこには、樫田君が僕らに手を挙げて立っていた。
「樫田くん? どういうことですか?」
僕はいまいち状況が分からずにいた。明楽と武も、首をかしげている。
「つまり、樫田君が今回の依頼主って事よ」
「樫田が?」
「そうなんだ。なあ奥村。この前にさ、お前を野球チームに誘っただろ?」
「そういえば、そうだったね。あ、もしかして依頼って」
「ああ。実は、隣町と野球の試合をすることになったんだ。それで、メンバーが足りなくて」
「つまり、俺たちに試合に出てほしいって事か?」
「ああ、そうなんだ。この前は奥村に断られちまったけどさ、チームに入らなくても良いから、ちょっとだけ臨時で試合に一緒に出てくれないか?」
僕は以前、チーム競技が苦手なことを理由に樫田君の誘いを断った。でも、今はあの時と違う気持ちだ。たとえチームワークが要求されても、明楽と武が一緒なら、何でも出来そうな気がした。
「それはもちろん!」
そう言って、明楽が自信満々な表情を僕と武に向けた。武はやれやれといった表情で頷き、僕は笑顔で二人に応える。
「桜田探偵クラブにまかせてよ!」
拙い文章でしたが最後までお付き合いいただきありがとうございました。
次回作いつになるかわかりませんが、また何か書けたら投稿したいと思うのでその時はよろしくお願いします。




