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桜田探偵クラブ  作者: さとしひかる
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怒りと衝動

 そんなつまらない学校生活を送っていたある日のこと。昼休みの間、俺はいつものように一人でボーっと空を眺めていた。そんな時に後ろから突然大きな声が耳に飛び込んできた。


「おい、何すんだよ」


 大きな声のおかげで、先ほどまで眠りかけていた俺の脳が覚醒した。重たい頭で俺は声のする方を振り返る。地味な顔をしたやつが、山田と対面していた。確か名前は高橋という名前だった気がする。どうやら山田が先ほどの声を出したみたいだ。山田は不機嫌そうに顔をゆがませている。


「崩れたじゃねえか」


 山田の机の上には、中途半端にトランプが散らばっている。トランプでピラミッドを作っていたのだろうか。


 山田とその周りにいたやつらが、高橋を取り囲むように立ち上がった。俺は少し悪い予感がして、体を横に向けて椅子に座りなおした。視線を山田たちの方に向けてその様子を見守る。


「え? ご、ごめん!」


 高橋は驚きつつも頭を下げた。高橋の声で、何人かの生徒が俺と同じように教室の後方を見た。


「おまえ、今わざとぶつからなかったか?」

「え……わ、わざとじゃない!」

「本当か? なあ、おまえらも見てたよな?」


 山田は、周りのやつらに白々しく問いかけた。聞かれた奴らは、山田の顔色を窺うように、口をそろえて言う。


「あ、あぁ、確かに」

「こっち見てたしな」


 高橋の表情は、見る見るうちに硬くなっていった。


「やっぱり、おまえ嘘ついてるな」


 そう言って、山田は高橋の肩を強く押した。高橋は体のバランスを崩し、高橋の後ろにある机にぶつかった。


「おわ! いきなり何すんだよ!」


 その机を使っていたのは、山田とよく一緒につるんでいたやつだった。名前は忘れてしまった。


「おまえなんなの? 俺たちの邪魔したいの?」


 山田は高橋に一歩詰め寄り、顔をじっと見た。


 今ここで俺が高橋を助けたら、俺は高橋と仲良くなれるんじゃないか。そんな考えが俺の頭をよぎった。


「むかつくなあ」


 そう言うと、山田は高橋の顔を軽くビンタした。大した威力には見えなかったが、高橋の目には涙がたまっていた。


 俺は衝動的に椅子から立ち上がり、山田のもとへ走った。友達という言葉にすこしの期待と希望を胸に抱きながら。


 俺は山田と高橋の間に立ち、山田に向かって言った。


「さっきから聞いてたけど、全部おまえの言いがかりじゃないのか? 高橋は悪気があったわけじゃないだろ」


 山田は俺の顔を見て、めんどくさそうに溜息をついた。


「なんだよいきなり。おまえには関係ないだろ」

「そうだ、すっこんでろよ」


 山田ともう一人のやつが俺を睨みつける。山田の席を囲っていたやつらも、俺を敵視するように見ていた。


「おい山田、高橋に謝れよ。ビンタしたこと」

「……は?」

「だから、謝れって」


 次の瞬間、山田は俺の胸倉を掴んだ。俺と山田は鼻先が触れそうなくらいにお互いの顔を近づけた。


「お前さっきからうざいな。いい加減にしないと、どうなっても知らないぞ?」


 俺はすこしイラついて、山田の腕を強めに叩いた。山田は「いっ……!」とうめき声を出し、俺の服から手を離した。


「何すんだよ!」


 山田はさっきまでの不機嫌な顔を一変させ、怒りを隠すことなく声を荒げた。周りの生徒たちは、俺と山田のやり取りをただ黙って見守っている。


「高橋にビンタした分をやり返しただけだ」


 高橋は、俺の隣で目を泳がせている。山田は俺に向かってこぶしを振り上げた。その瞬間、教室の扉から北島先生が入ってきた。


「おい! 何やってんだ!」


 北島先生は俺たちの様子を見て、慌てて駆け寄ってきた。山田は振り上げたこぶしをさっと引っ込め、俺のことを指さして言う。


「こいつが、高橋のことを突き飛ばしたんです」


 俺はその言葉を聞いた瞬間、怒りが込み上げてきて、思わず叫んだ。


「はぁ!? おまえがやったんだろ!」


 傍にいた高橋は、俺の声を聴いて肩を震わせた。その様子を見た先生は、高橋に向かって訪ねる。


「そうなのか? 高橋」


 高橋は黙ったまま俯いている。俺は高橋を庇うように先生の前に立ち、声を荒げて言う。


「俺はやってません! 山田が高橋を……」


 先生の間違いを正そうとした時、割り込むように山田が口を挟んだ。


「俺、神山を止めようとした時に腕を叩かれました」


 山田は先生に自分の腕を見せた。俺が叩いた所はまだ仄かに赤くなっている。


「神山。何があったかは知らないが、暴力はダメだ」


 先生は山田の話を信じているらしい。俺は高橋に本当のことを先生に言ってもらおうと声を掛けた。


「違うよな、高橋。山田がやったんだよな」


 高橋は俺の声に同調することも、否定することもなかった。その代わり、ほんの少し顔を上げ、山田の方を見た。その後高橋は視線を俺に向け、小さな声でぽつりと呟いた。


「神山くんにやられました……」

「え……」


 高橋のその一言で、俺は体中から変な汗が出た。訳が分からなかった。どうして高橋は嘘をついたんだ?


 北島先生は俺の方へ向き直り、険しい表情を作った。高橋は俺から顔をそらしてしまう。


「違います! 山田が高橋を……」

「これ以上嘘をつくな! 高橋本人がおまえにやられたって言ってるんだ! 高橋に謝りなさい!」


 先生は俺の話を聞こうとせず、怒鳴り声を上げた。その瞬間、教室の空気は硬直した。

この教室にいるすべての人が、俺の一言を待っていた。たったの一言。ごめんなさいという言葉を。


 この場で俺が謝れば、すべて丸く収まるのか? 山田は高橋に手を出さなくなるのか? 俺は先生に誤解されたままでいいのか? 高橋はそれで満足なのか?


「俺は……」


 思考はまとまらないまま、口が動こうとする。俺はもう、考えることを止めた。


「俺は……やってない!」


 次の瞬間、俺は山田をぶん殴っていた。

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