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桜田探偵クラブ  作者: さとしひかる
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怪しいクラブ

 転校初日の授業が終わった放課後、僕は上杉先生に呼び出されて、職員室に向かっていた。


「えっと……天堂さんはなにしに職員室に行くの?」

「なにって、日向が職員室に行くっていうからついてってるだけだよ」


 僕が職員室に行こうと鞄を手に持った時、隣の天堂さんが、「一緒に帰らない?」と声をかけてきたのだ。僕が職員室に行こうとしていることを伝えたら、「私も行く」と言って、ついてきた。天堂さんは、僕がクラスの人たちにいっぺんに話しかけられて困っていた時に、僕とみんなの間に入って仲介役になってくれたり、授業中に教科書を見せてくれたり、色々と世話を焼いてくれた。クラス委員長なのかと思ったが、本人に聞いたらそういうわけでもないらしい。


「ていうか、天堂さんじゃなくて、明楽でいいって」

「うん……あ……明楽……」

「そうそう。なんか友達って感じするでしょ?」

「う、うん……」


 まだ知り合ったばかりなのに、いきなり名前で呼ぶのは抵抗があった。以前の学校でも殆どまともに友達と呼べる人はいなかったのに、いきなり知り合ったばかりの子を下の名前で呼ぶのは違和感があった。


「それにしても、先生は日向に何の用なんだろうね~?」

「わ、分からない……大体のことは説明受けたと思う……けど……」


 教科書のこと、集団登校のこと、その他いろいろなことに関しては、入学前に父さんと話を聞きに行った。


「そういえば、日向はどこに引っ越してきたの?」

「ぼ、僕? 僕は……えっと」


 答えようとして言葉に詰まる。この辺りの地名をまだちゃんと覚えていない。


「確か……桜田商店街の近くなんだけど……」

「え? 私も! 桜田商店街!」


 明楽は顔を僕の近くに寄せて目をキラキラと輝かせている。


「え? 天堂さ……じゃなくて。あ、明楽もあの近くなの?」

「そうそう! うちの親が商店街でお花屋さんしてるの! たぶん私たち同じ登校班だよ!」

「そ、そうなんだ……」


 ほかにも、学校の委員会の話や、授業の話、係の話など、明楽からいろんな話を聞いているうちに、職員室の前に着いた。


「失礼します」


 部屋のドアをノックして、中に入る。視線をさまよわせると、職員室の奥の方で上杉先生が作業をしている姿が目に入った。上杉先生もこちらに気づいたようで、ドアの前までやってきた。


「ごめんな〜放課後に呼んで。引っ越しの跡片付けとか大変だろうに」

「い、いえ、大丈夫です。ある程度は終わってるので」

「そうか、偉いなあ。お、天堂もいるのか」

「いますよ〜! 日向の友達第一号です!」

「二人とももう仲良くなったのか~」


 僕たち二人を見て、上杉先生は嬉しそうに笑った。


「えっと……僕に何か用があったんじゃ……?」

「あぁ、そのことなんだけどな。奥山にクラブのこと説明し忘れてたんだよ」

「クラブ?」

「そう、基本的には毎週金曜の六時間目にやってるんだけど、君にもクラブに参加してもらわないといけないんだ」

「クラブって……なにがあるんですか?」

「まあ聞くより見た方が早いかな」

 

 上杉先生は一枚の紙を僕に手渡した。そこにはドッジボールクラブ、囲碁将棋クラブ、卓球クラブ、科学クラブなど、様々なクラブとその活動内容が書かれていた。


「いっぱいあるんですね……」

「すぐに決めなくてもいいよ。今日は水曜日だからね。気になるクラブがあったら、金曜日のクラブの時に見学させてもらえばいいさ」

「見学してもいいんですか?」

「もちろん! 転校したばかりだし、いきなり決めろっていう方が難しいだろ?」


 プリントを見ながら、どのクラブが良いか考える。前の学校では囲碁将棋クラブに加入していた僕だったが、あのクラブは何となく気楽そうだったから入っただけで、囲碁将棋自体に興味は無い。他のクラブにしようかと思ったけど、グループ内で何かをするクラブはあまり入りたくない。それと僕は運動が苦手なので、極力運動系のクラブも避けたい。


「何か気になるクラブあった?」


 明楽が僕の顔を覗き込む。僕は返答に困った。今のところ、特に惹かれるクラブは見つかっていない。どのクラブも、僕にはピンとこなかった。


「うーん。まだよく分からないや……」


 科学クラブは少しだけ気になるけど、全然知らない人たちと協力して実験するのは抵抗がある。そういうのよりも、一人でできる作業の方が得意だ。


「ん……?」


 クラブの紹介文が書かれた紙を眺めていると、見慣れない名前のクラブを見つけた。


「桜田探偵クラブ……?」


 プリントの左下にポツンと書かれたクラブ。紹介文の脇には狸のように見えるかわいい動物のイラストが描かれていた。頭には学生帽を被っている。


「先生、なんですか? このクラブ」


 クラブの紹介文にはこう書かれていた。

『好きなあの子への思いの伝え方から、テスト勉強の仕方まで! あなたのお悩み何でも解決! 依頼は校門のポストか、二階の研修室まで! いつでも依頼まってます!』


「ああ、桜田探偵クラブね」


先生は困ったように笑って明楽の方を見た。明楽はなんだかニヤニヤしている。


「そこに目が行くとはさすが日向ね!」

明楽はなぜか得意げな表情だ。いったい何がさすがなんだろう?

「え、えっと……どういうこと?」

「よくぞ聞いてくれました! お悩みあれば探偵あり! どんなお悩みも一発で解決! それが、桜田探偵クラブだよ!」


 そういいながら、明楽はなんだかへんてこなポーズをとった。


「……え、えっと……なに?」

「桜田探偵クラブの挨拶」

「はぁ……?」

「こらこら、その辺にしておけ天堂。奥村も困ってるじゃないか」

「いや先生! 日向なら、桜田探偵倶楽部のメンバーにぴったりだよ!」


 なんだか、さっきから明楽のテンションがおかしい。


「えっと……桜田探偵クラブって、何をするクラブなの?」

「そこに書いてある通り、生徒や先生からお悩み相談を受けて、それを解決するのがクラブ活動なの」


 話を聞く限りだと真っ当なクラブに聞こえるが、さっきの明楽の言動を思い返すと、どうしても怪しさが拭いきれない。


「まあ、気になるなら見学してみればいいさ」


 先生はなんだか面白そうに言った。確かに、気になる。ほかのクラブはどこの学校にもあるようなクラブだけど、桜田探偵クラブは、ほかのクラブとは違う気がした。この狸みたいなイラストとか、さっきの明楽の言動とか、気になる点が多い。


「見に来てよ日向! 今日は教科書とか見せてあげたでしょ!」


 もしかしたら、明楽は僕をこのクラブに誘うために、声を掛けたのかもしれない。そう思えるくらいに、明楽は僕を必死に勧誘してくる。


「……分かりました。僕、見学してみたいです」


 明楽の勢いに負けて、僕は迷いながらもそう言ってしまった。


「そうか。じゃあ、顧問の篠崎先生にも話を通しておくから、金曜日のクラブの授業は明楽に付いて行くといい」

「はい、ありがとうございます」


 少しの不安はあったものの、この学校で唯一の知り合いが加入しているクラブなら、他のクラブよりも少しは安心感があった。


「やった! 新しいメンバーが増えた! 早くみんなに伝えなきゃ!」


 となりで明楽が大はしゃぎしている。メンバーが増えることがそんなに嬉しいのだろうか? クラブというと、普通人数は十数人はいるもんじゃないのかな。この学校は生徒の人数が少ないわけでもないのに。


「メンバーって、何人くらいなの?」

「えーっと、私と日向を入れて三人だよ。あと篠崎先生も入れれば四人だね! すごい!」


 なにがどう凄いんだろう。上杉先生の方を見ると、呆れたような顔をしていた。


「僕、まだ入るって決めてないよ……」

「いや! 日向は絶対入るよ! 私の直感がそう言ってるもん」


 なんだか、明楽から強制的に参加させようという意思を感じた。

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