神山くんの決心
俺は奥村の姿を見送ってから、明楽のところへ行こうと足を進めた。おそらくまだ教室にいるか、研修室にいるのかもしれない。そういえば、奥村は研修室の方から走ってきたな。もしかしたら、明楽と奥村の間で何かあったのかもしれない。さっきの奥村の様子は少し変だった。とても家の用事で急いでいる奴の顔には見えなかった。
研修室の前まで来ると、部屋の電気がついているのが分かった。中から女子の高い声が聞こえてくる。この声は明楽の声だ。俺は迷わず研修室のドアを開けた。
「えっ、武?」
中には、明楽と、その友達の島田と岡島がいた。
「さっき、奥村とすれ違ったけど、何かあったのか? あいつ、何か様子が変だったぞ」
明楽が驚いた様子で俺の顔を見ている。それもそうだろう、今日はクラブの時間じゃない。俺がここに来る理由は本来無い。
「それが、実は……」
明楽は事情を一から俺に説明した。奥村が山田から嫌がらせを受けていること、それを奥村に問い詰めたらはぐらかされたこと。それに対して島田がキレたこと。そしたら奥村が声を荒げてここを立ち去ったこと。
「あんな日向、初めて見た……」
明楽は珍しく落ち込んでいた。こいつがここまで落ち込むなんて、その時の奥村はどれだけ普段と違っていたんだろうか。
「奥村、ちょっと気になること言ってたよね」
島田が思い出したようにつぶやいた。
「気になることって、なんだ?」
「なんか、友達を信用できないとか、なんとか」
「信用できない?」
「あの……正確には、友達を信用してても、友達に頼ってても、結局みんな僕を裏切るんだ……です」
「ああ、確かにそう言ってたかも」
岡島は記憶力がいいみたいだ。一字一句丁寧に奥村の言葉を再現しているように感じた。
「それってどういう意味だ?」
「分からない……それに、健って言ってた……いったい誰のことだろう」
明楽は考え込むように顎に手を当てている。健……俺も聞いたことがない。この学校の生徒じゃないんだろう。
「もしかしたら、前の学校で何かあったのかもな」
「それって、日向が桜田町に来る前って事?」
「ああ。で、その健っていうのが、前の学校の生徒だったとか。まあ、予想だけど」
仮にこの予想が当たっていたとしても、肝心の「引っ越す前の学校で起こった何か」が分からない。これはもう、奥村本人に聞くしかないだろう。
「明楽。おまえ、奥村にもうちょっと話を聞いてみろよ。健ってやつのことも気になるし」
「……うん、そうだね。私、もう一度日向と話をするよ」
明楽はさっきまでの暗い顔から、少しだけ明るい表情を取り戻していた。
「武はどうするの?」
「俺は、ちょっとやることがある」
俺は山田の顔を思い浮かべて、こぶしを握り締めた。




