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桜田探偵クラブ  作者: さとしひかる
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繰り返し

 それからは、僕の学校生活はひどくなる一方だった。誰も味方をしないとわかったクラスの人たちは皆、僕を無抵抗なサンドバッグと同じように、散々痛めつけた。僕は何もできずに、だんだんと憔悴していった。いつの間にか、健も僕のいじめに参加していた。僕のことをあざ笑う健を見ながら、もうこの学校に僕の居場所はないのだと絶望した。


 学校でのいじめのことは、お父さんには絶対に話さなかった。僕に残っているのはお父さんだけだ。これ以上誰にも傍を離れてほしくなくて、お父さんに対しては、必死に笑顔を取り繕った。


 しばらくして、僕はお父さんと都外へ引っ越すことになった。理由はいじめのことではなく、お父さんの仕事の関係でだ。


「急ですまないな……。健君と別れの挨拶はしたのか?」

「うん……もう大丈夫だよ」


 学校でのお別れ会は、みんな形だけの拍手を僕に送ってくれた。先生に学校での思い出を喋れと言われたが、特に何も言うことを思いつかなかった僕は、ただ黙っていた。先生はそんな僕の様子を見て、別れを惜しんで涙をこらえていると勘違いしたらしい。僕は心底この学校にうんざりした。


 こうして僕は、誰にも別れを惜しまれずに東京を出た。唯一の心残りはお母さんの行方だけだったが、それも東京を離れてしまえば次第に薄れていった。僕は結局、何のためにいい子であろうとし続けたのだろうか、いい子であろうとした結果、いろんなものを失った。僕の心に残ったのは、深い絶望だけだった。


 転校先の学校では、なるべく目立たないようにふるまった。なるべく静かに、なるべく声を出さないように。


「ねえ、どこから引っ越してきたの?」

「……」

「家族は? 兄弟とかいるの?」

「……」


 僕は何も答えなかった。最初はいろんな人に話しかけられたが、僕が何も答えないでいると、誰も僕に声を掛けなくなった。そうだ。それでいい。誰ともかかわらなければ、僕は平穏な学校生活を送れるんだ。僕はそう確信していた。


 しかし、物事はそう単純には進まなかった。学校で全く喋らないでいると、今度はいろんな人に気味悪がられて、嫌悪された。その時ようやく、ただ黙っているだけでは駄目なんだとわかった。


 それから僕は、勇気を出していろんな人に話しかけようとした。しかし、それはとても遅すぎた行動だった。


「あ、あの……」

「なに……?」

「えっと、その……。つ、次の授業って」

「喋れたんだ。ていうか何なのその喋り方。気持ち悪い」

「っ……!」


 僕は喋ろうとすると、声をどもらせてしまうようになっていた。そのせいで、人に話しかけるたびに、気持ち悪いとか、気味が悪いといわれた。挙句の果てには、前の学校と同じように、根暗というあだ名をつけられ、散々馬鹿にされた。


 そうして一年が過ぎ、僕は結局一人も友達ができないまま、その学校を転校することになった。理由は、またしてもお父さんの仕事の都合だった。


「何度もすまないな……」


 お父さんは、申し訳なさそうに僕に謝罪した。


「大丈夫だよ。次の学校も楽しみだなあ」


 この学校に何の未練もなかった僕は、一周回ってすがすがしいくらいの気持ちでそう言った。お父さんは少し心配そうな顔で言った。


「仕事であまり学校のことは見てやれてないが、本当に大丈夫か? 友達に別れの挨拶はしたのか?」

「……だから、大丈夫だって」


 だって、僕は友達いないから。



 なんで、いつもこうなるんだ……。


 以前の学校でのことを思い出し、涙腺に震えが走る。


「あ〜あ、先生に言わないとな。奥村が島田のチューリップ潰したって」

「ぼ、僕は……何も……」

「喋るならはっきり喋れよ!」

 

 山田くんの拳はまたしても僕のお腹に直撃する。僕はまたうずくまった。


「こいつ、ダンゴムシみてえ」

「そのままここでずっとそうしてろよ」


 最後に山田君からお腹に蹴りを入れられ、僕は嘔吐いた。


「じゃあな。またみんなで遊ぼうぜ。奥村くん」


 そう言い残し、山田くんたちは校舎の中へと消えていった。僕は一人取り残された。僕の傍らには、つぶれてしまったチューリップの芽が転がっていた。僕は起き上がることもせずに、一人でひっそりと嗚咽を漏らした。


 チャイムが鳴り、校庭から聞こえてきていた喧騒は徐々に小さくなる。僕は痛む体を何とか起こして、つぶれてしまった島田さんのチューリップを拾い上げる。


「……」


 どうせ今頃、教室で山田君たちがチューリップのことを先生に話しているだろう。僕が潰したと嘘をついて。僕は痛むお腹を押さえながら、チューリップを持って教室へと戻った。


「奥村、何してたんだ」


 先生が土だらけの僕の顔を見て声を掛ける。僕以外の生徒は全員席に着いていた。僕はみんなの視線を受けながらも、持っていたチューリップを先生に差し出す。


「すいません、これ……」

「これは……」


 先生は少し驚いた様子で僕とつぶれたチューリップを交互に見た。


「な! 先生! 俺らの言ったとおりだろ!」


 山田くんは得意げな表情をしていた。あの様子だと、やっぱり僕が戻る前に先生に話をしたんだろう。


「奥村がやったのか?」


 僕は無言でうなずいた。先生は驚いた顔で、僕に言った。


「これ、誰のチューリップかわかるか?」

「……島田さんのものです」


 僕は、島田さんの席まで行き、つぶれたチューリップを本人に見せた。


「し、島田さん……ごめんなさい……」


 僕は声を震わせながら、島田さんに謝った。


「う、うん……大丈夫だよ」


 元気のない島田さんの声を聞いて、僕はまた泣きたい気持ちになった。胸の底から目元まで、ジンと熱が伝わってくる。。


「奥村。チューリップはもう大丈夫だから、先に顔を洗ってきなさい」

「……はい」


 僕は遅い足取りで教室を出た。その時一瞬山田くんと目が合った。山田くんは見ていて不快になるような、にやにやとした表情を顔に張り付けていた。

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