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桜田探偵クラブ  作者: さとしひかる
11/27

遠足のしおり

 校門へ着くと、そこでは毎朝聞こえる喧騒はすごく小さなものになっていて、耳をすませば小鳥の鳴き声が遠くから聞こえてきた。


「静かでいいね」

「そう? まだ学校は騒がしいよ」

「前に住んでた場所と全然違うよ」


 そんな会話を交わしながら、目的のポストの前までやってきた。少し派手なオレンジ色で、分かりやすい場所に設置されていた。


「じゃあ、奥村君に開けてもらおうかな」


 篠崎先生に鍵を渡され、恐る恐るその鍵を受け取る。ポストの裏側にある鍵穴を確認し、渡された鍵を差し込み、回すと、カチャリという音を立ててポストが開いた。


「なにか入ってる?」


 明楽は少し落ち着かない様子で期待の眼差しを向ける。僕はポストに手を入れ、一枚の紙を取り出した。


「入ってた」

「中身確認しよ!」

「はいはい、それは部屋に戻ってからね」

「お前はもう少し落ち着け」

「わかってます〜!」


 明楽は神山くんと篠崎先生にたしなめられた。なんだか二人が明楽の保護者みたいだ。


「ん? どうしたの? 日向」

「いや、えっと……何だか親と子供みたいだなって」

「ええ!? 日向にまでそういう事言われたくないー!」


 嘆く明楽を先生と僕で宥めながら、僕らは研修室へと戻った。


「じゃあ、早速開けるわよ」


 研修室に戻った僕らは、机の真ん中に手紙を置き、それを取り囲むように席に座っている。

 篠崎先生は手紙の封を破り、中身をみんなに見せるように広げた。


「じゃあ、読み上げるね」

「は〜い」

「は、はい」

「……」


 三者三様な反応を見せながらも、僕らは篠崎先生の声に耳を澄ませる。


「桜田探偵クラブの皆さんへ。もうすぐ二年生の遠足があるのですが、その遠足のしおりの作成を手伝ってもらいたいです。もしよければ、職員室の沢口のところまで来てください」

「遠足のしおり? 僕達が手伝って良いんですか?」

「沢口先生が手伝ってくれって言ってるんだし、いいんじゃないかしら」

「やった〜!! 楽しそうな依頼だ!!」


 明楽はすでにやる気満々のようで、研修室を飛び出そうとする勢いだ。


「じゃあ、明楽もやる気満々みたいだし、職員室に行こっか」


 僕らは篠崎先生のあとに続き、職員室へと向かった。

 篠崎先生は職員室に入り、沢口先生らしき人と一緒に出てきた。見た目は温厚そうな印象だ。廊下の蛍光灯に反射して頭が光っていた。


「わざわざ来てくれてありがとうね」

「こちらこそ! しおり作るの楽しみです!」

「じゃあ早速だけど、パソコン室で作業するから移動しようか」

「は〜い!」


 終始元気そうな明楽を先頭に、僕らはパソコン室へと向かう。篠崎先生は「作業が終わったら研修室に戻ってきてね〜」と言って、一人研修室へと戻っていった。


「篠崎先生は一緒に作業しないんですね」

「篠崎先生も色々と忙しいんだよ。他の学年もそろそろ遠足の時期だしねえ」

「そうなんですね」

「遠足良いな〜! 去年の春は桜山に登ったよね~」

「あぁ、春になるとあそこの桜は凄いからね」


 その桜山という山にまだ登ったことがない僕は、話についていけなかった。学校から見えるあの山は、遠目から見ただけでも結構な存在感を放っている。体力がない僕は、あまり登れる気がしなかった。


「二年生はどこに行くんですか?」


 明楽の質問に、沢口先生は陽気に応える。


「今年は、動物園だよ」

「良いなぁ〜! また行きたいな~!」

「動物園があるの?」

「うん。桜田動物園って言って、像とかキリンとかいろんな動物が見られるよ」


 明楽は懐かしむように教えてくれた。僕は動物園に一回しか行ったことがないから、とても興味が湧いた。


「あとは、隣町とかにもプラネタリウムとか、水族館とか。少し距離はあるけど、結構遠足にうってつけな施設がそろってるんだよね」


 へぇ……田舎と言っても、意外と色々あるんだな。そんなことを思ったが、口に出すと明楽に怒られそうなので、心の中で留めておいた。


「着いたよ。ここがパソコン室だ」


 沢口先生はポケットから教室の鍵を取り出し、扉の鍵を開けた。中には当然誰もおらず、物静かな部屋にパソコンとモニターがずらりと並んでいて、少し不気味に感じた。


「じゃあ、さっそく作業に取り掛かろうか。君たちに手伝ってほしいのは、このページなんだけど」


 沢口先生は慣れた手つきでパソコンを操作し、カラフルな画面が浮かび上がった。そこには、作成途中の遠足のしおりが映っている。


「天堂さんと神山君は、以前に動物園に行ったことがあるよね? その経験を生かして、このスペースに行った時の感想とか、動物園で注目すべき点とかを書いてほしいんだ」

「なるほど! 任せてください!」

「俺はこういうの得意じゃないんだけど……」


 明楽とは対照的に、神山くんはあんまり乗り気じゃなさそうだ。明楽はそんな神山くんを見て呆れたように言う。

「もう〜! 何言ってんのさ! なんでも解決するのが探偵団でしょ!」

「あーもう! 分かった分かった!」


 明楽に背中をバシバシ叩かれ、観念したように神山くんは両手を上げる。


「あの……僕は何をすれば」


 一度もこの町の動物園に行ったことがない僕は、何も書けることがない。沢口先生はその事をちゃんと分かっていたようで、僕に別の仕事を言い渡した。


「奥村くんには、このページの空いたスペースに、動物の絵を描いてほしいんだ」

「動物の絵ですか?」

「そうそう。色鉛筆で紙に描いてもいいし、このパソコンを使って描いてくれてもいい」

「じゃあ、パソコンで描きます」


 普段パソコンを触ることがないせいで、反射的にそう答えていた。僕は溢れる好奇心を抑えながら、パソコンと向き合う。


「日向って絵描けるの?」

「描けなくはない……と思う」


 今まで美術の成績に三角をつけられた事はなかった。二重丸もなかったけど。


「じゃあ、うさぎ描いてよ」

「うさぎよりも、もっとカッコいい動物の方が良いんじゃねえか?」

「え~何でよ~」

「男はライオンとかの方が興味あるだろ」

「じゃあ、両方描くよ」


 意見を交わしつつも、出来る限りの絵を描いていく。

 隣では、明楽と神山くんが動物園の紹介文を書き始めていた。


「これ、うさぎのことしか紹介してないだろ」

「他の動物はこれから書くの」

「他の動物って言ったって、このままじゃ半分以上うさぎの紹介になるぞ……」


 会話内容から明楽の暴走ぶりが伺えるが、今は自分の作業に集中する。うさぎの数だけ少し多く描いておこう。


 それからしばらく作業を続け、時刻は午後四時半を超える頃になった。僕は動物の絵を描き終えて、明楽と神山くんの方を見る。二人は意見をぶつけ合いながらも、どうにか紹介文を完成させたらしい。


「やった〜! 出来た〜!」

「やっと終わった……」


 明楽は両手を上げてガッツポーズを作り、神山くんは机に肘をついてグッタリしていた。


「日向の方はどう?」


 明楽はそう言いながら、僕の目の前にあるパソコンの画面を覗き込む。


「一応出来たけど……あんまり上手く描けなかった」


 僕は描いた絵を明楽に見せた。明楽はしばらく画面を見つめたあとにポツンとつぶやく。


「なんか、ピカソっぽい」

「………うん」


 なんとなく、褒められてるとは思えなかった。神山くんは明楽の影に隠れて口を抑えている。笑いを堪えているようにしか見えなかった。


「これがうさぎ? ちょっと他の動物より多い気がする」


 明楽は僕が書いたうさぎを指さして言う。


「うさぎは動物園に沢山いるかなって思って……」


 明楽のために描いたと言うのが少し恥ずかしくなって、適当な理由をつけてごまかした。


「可愛いね」


 全然うまくかけた気はしなかったけど、明楽が喜んでくれたならそれで良しとしよう。


「味があって良いと思うよ」


 沢口先生は、少し苦笑いしながらも、優しい言葉をかけてくれた。気を取り直した僕は、隣のパソコンで作業をしていた明楽と神山くんの書いた動物園の紹介文を見た。


「どう? よく書けてると思わない?」


 おそらく明楽が書いた文章なのだろう。自信満々に胸を張っている。


「確かに。よく書けてるね」


 沢口先生は満足そうにその紹介文を見てうなずいている。


「おまえ、俺が口を出さなかったら桜田動物園の紹介じゃなくて、うさぎの紹介になってたぞ」


 文章の内容はうさぎだけではなくきりんやゾウなど、様々な動物のことが書かれていたが、それは神山くんの努力の結果みたいだ。でも、文章自体を考えたのは明楽らしかった。とても読みやすくて良い紹介文だと沢口先生は褒めていた。


「みんな、今日はありがとうね。おかげで遠足のしおりは良いものが出来そうだよ」

「いえいえ! こちらこそ楽しかったです! ぜひまた桜田探偵団に依頼をよろしくおねがいします!」


 そう言うと、明楽は綺麗にお辞儀をした。僕と神山くんも少し遅れてお辞儀をする。


「本当にありがとうね」


 顔をあげると、沢口先生が柔らかな笑顔を僕達に向けていた。僕はその笑顔を見て、心の底がじんわり暖かくなった。


「じゃあ、行こっか」


 明楽は僕と神山くんの手を引っ張り、三人で篠崎先生の待つ研修室へと向かった。


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