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噂は誇張したわけではなく本当だったのだと、セシリアは只々呆然とする。


メーガンの恐ろしい金銭感覚を聞いた後、何だか彼女を庇う気にもなれずレナードにもう一度聞いた。

「アミール殿下には本当に婚約者として紹介するだけなのですか?」

「はい。本当は、アミールには婚約破棄してからなら会っても構わないとは言ってたんだけど・・・」

「やはり会わせるつもりだったと・・・」

「いや、婚約破棄した後ならご自由にって事。でも、アミールが煩いんですよ。会わせろって」

てっきり婚約破棄の為に会わせるのかと思っていたのだが、違うのかとセシリアは首を傾げた。

「アミールの奥方達として宛てがわれた女性は可哀そうな事に、みんな国や家から売られてきたようなものなのです」

聞けば彼女らの出身国は、あまり裕福ではない所ばかり。

「国家間でお金が絡んでいるので、彼女らも離婚はできないし逃げることもできない。でも、アミールは何とか歩み寄ろうと頑張っていたらしいのですが・・・」

彼女らは自国ではすでに婚約者がいたのにも関わらず、強制的に破棄され売られてきたのだという。

アミールも結婚当初は、可哀そうな彼女らに歩み寄る為に気を使っていたらしい。

だが彼女らからすれば、自分以外にもどんどん増えていく、妻。

一人の男を共有する事に耐えられない事もだが、そこまでして女性を他国から買わなくてはいけないものなのか・・・と、不信感から彼女等は心を開いてくれなかったのだという。

「アミールとしては、頼まれたから手を差し伸べただけだと思っている。俺から見れば、別にその対価が女性でなくてもいいのではないかと思うのだけど。でも、ユーリン王国のお国柄とでも言うのか、常識とでも言うのか・・・アミール自身も気づいていないのです」

「レナード様は、それをアミール殿下にお話しされました?」

「勿論。ですが、最後まで理解してもらえませんでした。思考が凝り固まっているんですよ。あそこは砂漠に囲まれた国でオアシスの上に国がある。他国から商人が訪れるようになったのも、まだ百年も経ってない。だから、かなり(いびつ)な常識を持つ保守的な国なのです」

「それが何故、メーガン様に会いたいと仰るのですか?」

「はじめは、女性には全く興味を示さなかった俺が、突然婚約したという驚きからみたいだったのですが」

「え?レナード様は、これまでお付き合いされた方がいらっしゃらなかったのですか?」

突然、セシリアが食い気味に反応を示した。

「え・・えぇ、まぁ・・・この年で女性経験が皆無というのは、お恥ずかしい限りなのですが・・・」

本当に恥ずかしそうに頬を掻くレナードに、またも食い気味にセシリアは「いいえ!」とその身を乗り出してきた。

「男の方がどう思うかはわかりませんが、私は嬉しいです!何人もの女性とお付き合いされたという話を聞くよりも、私は嬉しい!」

「そ・・そうですか。そう言ってもらえると、俺も嬉しい。生まれて初めて愛した女性がセシリア様で、俺はとても幸せです」

気を抜けばすぐにでも桃色の空気が漂い始める二人だったが、お互いハッとしたように咳ばらいをし、染まる頬を誤魔化すかのように居住まいを正した。


「話を戻しますが、アミールは自ら望んで嫁いでくれる人を探しているんです。それがどんな理由であっても」

「自ら?」

「彼には兄がいて王太子なのですが、無駄に顔だけは良いのです。そして売られてきた女性たちは皆、彼の後宮を希望すると言われています」

アミールと同腹の兄弟は王太子である兄だけ。あとは異母になる。

兄とアミールの母は王妃なので、王位継承権は二人にしかない。だが二人はすこぶる仲が良いらしい。アミール談だが。

例え王妃が亡くなっても、側室は王妃にはなれない。無駄な争いが起こらない様、そこらへんはとてもはっきりしていた。

だから、誰の側室になるのか、売られてきた女達にとってはこれも重要な事だった。


アミールは他国では大変モテた。

レナードよりも黄色味が濃い金髪に茜色の様な瞳。そして、適度に鍛えられた体躯を魅力的に見せる褐色の肌。

留学先では入れ食い状態だった。

レナードを娼館に誘ったのもアミールなのだ。

既に側室は居たが、関係は改善される事なく、留学先に連れて来る事もなかった。

きっと自分が国に帰る頃には、みんな兄の側室になりたいと自分の許から去っているはずだから、と。

だからなのか、アミールは依存するかのように女を抱きまくっていた。

一時とは言え、自分を望み身をまかせてくれるのだから。

ならば、その中から妃を選べばよいのでは・・・とも思うのだが、王太子に会ったとたん心変わりするであろうことが容易に想像できるからこそ、遊びどまりだった。


「彼の兄である王太子は、まるで妖精の様に美しく優雅な方です」

不本意な事に、レナードと兄である王太子の雰囲気がどことなく似ていた為、アミールは顔を合わせる度、いちゃもんを付けていたらしい。

「お会いしたことがあるのですか?」

「一度だけ。学園を卒業する時に、アミールを自ら迎えに来ていました」

その時見た光景は、未だに忘れられない。

彼が馬車から降りた瞬間、先ほどまでアミールに縋り付いていた女性たちが皆、王太子に群がったのだから。


あの時のアミールの顔を、今も鮮明に思い起こすことができる。

なんの感情も浮かべる事無く、他人事の様にただそれを見つめていたのだから。


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