そうだ買い物に行こう③
―― トモヤ ――
「課長……」
俺の前には元上司、元先輩の木更津アオイが居た。
紫がかったロングヘア、縁なしの眼鏡、薄く化粧をしている。青いブラウスに黒のスカート、シンプルながらも抜群のスタイルは高校時代から変わらず、この人は本当美人だなと思わせる。
まさに十人が十人が振り向く美人、それがアオイさんだ。しかし目にクマが出来ている、そういえば俺が部署異動してから連絡もあまり取っていなかった。もしかすると俺が居た頃より業務が大変になって疲れが溜まっているのかもしれない。
「お久しぶり……です」
「う、うん……」
コーデリアはトイレに行きたいと言い出し女子トイレへ行ってしまった。待っている間にまさかアオイさんと遭遇するとは。
困った、昨日電話を無視してしまったし、元上司で本当にお世話になった人なので、逆に会社を辞める事も相談出来なかった。きっと止められると思った。
昨日の電話もそうに違いない。
「元気……?」
「え、ああ……なんとか」
「びっくりしたよ、トモヤ君が辞めちゃうなんて思ってなかったから」
「すいません……」
「何を謝る事があるの。逆にごめんなさい。あなたの悩みに気づけなくて……」
何だかプライベートで出会うアオイさんは会社や高校時代に感じた印象を大分違う。人を寄せ付けないオーラをいつも放っていた彼女ではない、むしろ優しい感じがした。
もしかするとこちらが本当のアオイさんなのかもしれない。
アオイさんが髪をかき分け耳にかける、凄く色っぽい。学生時代には無かった大人の魅力という奴か。コーデリアも可愛いがアオイさんはまた別タイプの可愛さ。
しかし彼女の目が少し腫れている気がする。
「大分、お疲れのようですね」
「え! えええ……? 私変な顔してる?」
「いや、そういう意味じゃなくて……ちょっと疲れている顔をされているので」
しまった。
女性に言うセリフじゃない。
「た、確かに昨日、ちょっとショックな事があってあんまり眠れなかったのよ」
「そうなんですか?」
「ええ……目の前の男のせいよ」
アオイさんが何かを呟いた、最後の方はうまく聞き取れなかった。
「え? 今なんと?」
「いい! こっちの話!」
アオイさんが両手を俺の前に出し、バタバタと手を振る。何と言ったのだろう。
「か、買い物?」
「はい、食材が無くなっちゃたんで買い物に来ました。課長もですか?」
「え、ええ! 私もそうなの!」
「そうですか」
「課長」
「そ、その課長ってやめてよ! もうトモヤ君会社辞めちゃったし!」
「あ、そうですね……すいません。ダメですね……つい癖が抜けなくて」
アオイさんが顔を背け、身体を縮めもじもじしている。トイレでも我慢しているのだろうか。
「あ、すいません。引き止めちゃって……」
「あ、あのトモ……!」
アオイさんが何かを言いかけた時、誰かが後ろから話しかけて来た。
「トモヤ様! お待たせ致した!」
「え」
「おかえりコーデリアさん、場所わかった?」
「はい! 少し戸惑いましたが何とかなりました! お待たせして誠に申し訳ありません!」
コーデリアがトイレから帰って来た。
「しかし! 便器から音が流れてきて凄くビックリしましたぞ! それと蛇口を捻らずとも水が出てきてこれにも驚きました! つくづく日本とは凄い国だと思わされました!」
「また大袈裟な……」
「あ、あの……! トモヤ君!」
コーデリアと少し話をしていると後ろからアオイさんが話かけて来た。しまったアオイさんが何かを言おうとしていたのに、それを無視してしまった。
「は、はい。すいません」
「そ、そそ……そっそそそそちらの方は……まさかトモヤ君のこ、こ……」
「え、えっと……」
「お初にお目にかかる、私はコーデリア・ラディエスと申す。私はロスガレ……」
「ちょおおおおおお! コーデリアさん!」
「は! えーと! 私はトモヤ様の遠い親戚……です!」
「し、親戚?」
「そ、そうなんです。遠い親戚で、昨日突然俺の家に来たんですよ」
親戚だと言う事以外に嘘はない。
さすがに異世界から来たと言っても誰も信じてもらえない。買い物に出掛ける際に俺の親戚である設定で行こうとコーデリアに話していた。
まさかこんなに早くそれを使う事になるとは思っていなかったが。
「そ、そう……。私は木更津アオイ」
「会社の元上司で高校生の時の先輩でもあるんだ」
「おお、アオイ殿はトモヤ様の先輩であるか! ならばきっと強いのであろうな!」
「へ、強い?」
「コーデリアさん……!」
俺はコーデリアの腕を掴み後ろ向かせる。
「この世界で強いとは弱いとはそういう事言うんじゃない」
「え、そうなのですか!」
「日本は平和な国なの。間違っても魔法とか魔力とか言わないように」
「な、何をコソコソしている?」
「い、いえ! 何でもありません!」
急にアオイさんが間に入って来た。俺は焦りその場を取り繕う。コーデリアが異世界の人間だなんて説明しても到底理解して貰えると思えないし、俺でさえまだすべて信じ切っている訳ではないので、それがバレると色々面倒な事になる。
「か、彼女が急に来たもので、食材が足りなくなったんですよ」
「な、なるほど……コーデリアさん、おいくつ?」
「十七歳になったばかりであります」
「わか……」
アオイさんが目を丸くした。
コーデリアは十七歳、俺より九つ下だったのか。女子高生じゃないか。どおりで若く見えたはずだ、実際若いのだが。
十七歳で異世界へ来る度胸は本当に凄い。
「私はヨーポッペ出身です!」
「よ、ヨーポッペ……?」
またややこしくなるような事を!
確かにそういう設定にしようと俺が言い出したのだけれど、今言わなくてもいいじゃないか。相手を選べよ。
「ヨーロッパの事……? イギリスとか……?」
「そ、そうだ! 私はヒギリシュの出身だ!」
「そ、そうなんだ。日本語上手いわね……」
「ニホンギョはわからないが、魔法を使った」
「こここコーデリアさん!」
「あ、違う! ヒギリシュで勉強したのだった……」
「そ、そう……。どうして日本へ……」
「トモヤ様に会いに来たのだ! 私はトモヤ様と一緒に……」
「ええ……そ、それはどういう意味……」
このポンコツが、喋れば喋る程話がややこしくなる。
「あああああ、えと今日は買い物に来たんだよね! ね、コーデリアさん!」
「お? そうだ、買い物だ。私の恰好では何かと目立つと言う話なので何か着れる物を!」
そういう事をいちいち言わなくていいんだよ。
「あ、そうだったのね」
アオイさんが少し俯いて俺をチラリと見た。
「あの、良かったら私手伝おうか?」
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