風呂場でいきなり美少女②
俺の目の前には浴槽にもたれかかり顔を出す美少女が居る。混乱する俺は思考を巡らす。
(新しいドッキリか何かか? いやそれでも何で俺にドッキリを仕掛ける! 俺にはこの街に知り合いらしい知り合いは居ない。それに実家は大阪だし、ここは千葉だぞ! 千葉まで遠路はるばる来てわざわざこんな手の込んだドッキリを仕掛けるのか! 落ち着け、落ち着け……)
俺は少し深呼吸をして気持ちを落ち着かせる、浴槽から柑橘の香りが漂っている。少し気持ちが落ち着いていく気がした。
(いや、落ち着かん! これって非常にまずい状況なんじゃないのか? 俺は裸だしずぶ濡れの美少女……! しかも若い!)
見たところ、歳の頃は二十歳よりか下、高校生かもう少し下かもしれない。そんな子が俺の風呂場で一体何をしているのだ。
男の風呂場を覗く趣味でもある子なのか、俺は天井を見上げた。
そこには換気扇がある通気口があるのみ、壊された様子も無ければ人が出たり入ったり出来るスペースなど無いように思えた。
俺はびしょ濡れの美少女を観察する。
「か、可愛い……」
気を失っているのか目を閉じている。長いまつげに整った眉、お風呂の熱気でほんのり赤く染まる頬、艶やかな唇、濡れた赤い髪の毛が顔に張り付き凄く色っぽく感じる。
「う……ん……」
俺は彼女が唸るのを聞くと同時に自分の恰好が非常にまずい事に気が付いた。
バスルームを飛び出しとりあえずパンツを履いて、シャツと近くにあった短パンに着替える。
(もしかして……風呂で見てしまい変な夢を見たのかもしれない)
そして恐る恐るバスルームに近づいた。
やっぱり居た。まだびしょ濡れのままだ。どうやらこれは夢じゃないらしい。
「はぁ……何この子……」
俺はため息を吐いた。そんな時彼女の身体がピクリと動く、彼女がバランスを崩し浴槽の中に入ってしまいそうになる。
「やば!」
俺は彼女を抱き止める。彼女を受け止めた事で俺はびしょ濡れになったがそんな事を気にしている余裕は無い。このまま浴槽に浮かべておくわけにもいかず彼女を持ち上げた。
彼女を持ち上げると俺の身体に彼女の身体が。柔らかい感触が俺に触れる。
「落ち着け……落ち着け……ん?」
浴槽から持ち上げた彼女が何かを握っている、浴槽にぶつかりコツンと音がした。
「と、とりあえず……」
俺は脱衣所からバスタオルを持ち出し、彼女を持ち物ごと包んだ。
包んでいる最中にまた柔らかい部分に触れた気がしたけれど、これは不可抗力だと自分に言い聞かせた。
何枚ものバスタオルでぐるぐる巻きにして彼女を再び持ち上げる。『女の子ってこんなに柔らかいのか』それは決して卑猥な意味じゃなく、彼女の腕も腰もそのどれもが柔らかった。細身で若干筋肉質な俺とは全く別の生き物。
彼女の意識が戻るまで、どうしようもない。
困った俺はとりあえず彼女をリビングに運び、ソファーに横に寝かせる。
「はぁ……何なんだこの子……」
本当なら服を着替えさせた方が良いのだろうけど、俺にそんな勇気はない。
冷蔵庫に向かい水の入ったペットボトルを一本取り出す、キャップを捻り勢いよく水を喉に流し込む。
足元を見ると脱衣所からずぶ濡れの彼女を運んできた為、リビングもびしょ濡れだった。俺は静かにソファーに近づき彼女の顔を見る。
「めっちゃ可愛い……」
アメリカ人、フランス人、ロシア人、色々は人種の想像を膨らませた。しかしそのどの人種とも違う気がする。どことなく日本人のような顔立ちだが、日本人にしては目鼻立ちが整い過ぎている。まるでアニメから出てきたような完璧な顔。
「ン……」
俺が思考を巡らせていると彼女は目を覚ました。彼女は大きな瞳を開け俺と目が合う。
赤く吸い込まれそうな物凄く綺麗な瞳、アニメか漫画から出て来たような美少女が俺を見つめていた。
「あ、あの……君は……」
「アイレギア……」
「アイ……レギア……?」
「アイレギア、イウニュカンペダ!」
彼女が立ち上がろうとして身体を捩る、バスタオルでぐるぐる巻きにしていた為、バランスを崩してソファーから転げ落ちた。その時彼女が持っていた布に包まれた長細い物体が地面に落ちる。
しかし彼女はそんな事は気にせず立ち上がり、俺に抱きついてきた。
「ちょちょちょちょちょちょ!」
「アイレギア、イウニュカンペダ!」
彼女はその言葉を繰り返し、俺をギュッと抱きしめる。彼女の柔らかな身体が薄着の俺に触れ、年甲斐もなく鼓動が高鳴った。
「ちょっと! わけがわからないんだけど!」
俺は抱きつく彼女の両肩を掴み、彼女を引きはがす。
「アイレギア、イウニュカンペダ!」
「いやそれはわかったから、日本語喋れない……? ニホンゴワカリマスカ? ニホンゴ!」
「ニフォンギョ……」
彼女は小首を傾げ、『?』を浮かべた。いちいち可愛い。
「そう、日本語! わからなかったら英語でもいいけど……」
「ニフォンギョ」
彼女はそれを繰り返すのみで、とりあえず濡れた服をなんとかしないといけない。このままでは風邪をひいてしまう。
俺は彼女の手を引いて、脱衣所にまで連れていき着替えるように説明した。
とりあえず女性ものに服は無いので、俺がいつも着ていた安物のシャツと短パンを用意した。
「着替える! わかる? とりあえず着替えて!」
「キ゚ギャエル……」
「そう、着替える! そのままじゃ風邪ひいちゃうから。とりあえず話は着替えてから!ね?」
「マイハ!」
俺はボディランゲージでなんとか『着替える』事を教え、彼女もそれを理解してくれたようで何度も頷き服を脱ぎだす。
「ぬあああああああああ!」
「マ?」
俺がまだ居るでしょうが!
俺は急いで脱衣所の扉を閉め顔に手を当てる。湯船に浸かったからか、それとも彼女の裸を一瞬見てしまったからなのか、俺の顔はきっと真っ赤になっていただろう。
扉越しからゴソゴソと衣擦れの音が聞こえる。意味はちゃんと伝わったらしい。
俺は飲みかけのペットボトルを手に取ると、再び水を喉に流し込んだ。
「な、な、な、何なんだあの子……」
彼女を包んでいたバスタオルを拾いびしょ濡れになったリビングを拭く。フローリングなので水気はすぐふき取れた。しばらくすると脱衣所の扉が開く音が聞こえた。
俺は振り返る。
「あ……」
俺の顔はまた真っ赤になったに違いない。
目の前には俺がいつも着ていたシャツと短パンに身を包んだ彼女が恥ずかしそうに立っていた。
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