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公園とサンドイッチ②

 何なのこの二人。


「ウィッチ! ウィッチ!」

「騒ぐな!」

「ひん!」


 いきなり現れてサンドイッチを親の仇のように見つめる女の子とそれを引きはがす男性。しかも女の子はわけわからない事を連呼しているし。これどういう状況。


「ほら謝りなさい!」

「ひん! ごめんなさいでござる!」

「え、あ……いえ……」


 男性が女の子の頭を鷲掴みにして下げさせた。

 私も慌てて頭を下げる。そして顔をあげると丁度男性の顔をしっかりと見る事が出来た。


「あ……」


 何、この感覚。

 私は彼の目を凝視したまま、時間が止まったかのような感覚に襲われる。少し寝癖のついた髪、剃り残しのある髭、ブランドものではない安物っぽい白いシャツ、少し丈の短い黒のズボン、どこにでも売っていそうなシューズ。

 歳の頃は、私よりも少し上の二十代後半ぐらい、身長も高くないが低くも無い、体格は少し細身、これがアニメやゲームならモブキャラの様相。どこにでもいる男。

 そんな彼に私は目を奪われた。


 何か彼には私を釘付けにする魅力を感じる。まさか、そんなこんな男性、私の好みでも何でもないのに、どうして目を離せないのか。合った目線を外す事が出来ないのか。


「あ、あの……」

「あ! ああ!」

「うちの子が申し訳ありません」


 彼にまた話しかけられた。その声に私は我に戻る。

 私は慌てて顔を逸らし、下を俯いた。

 ヤバい。


「あの、大丈夫ですか? 顔が真っ赤だ……」

「!」


 彼の言葉がまた私を赤くさせた。


「耳まで真っ赤だ……熱でもあるのでしょうか?」


 彼が手を差し出し、私のおでこを触ろうとしてきた。それはヤバいって!

 どうしちゃったっていうの、私。こんなどこにでもいる男にまさか、まさか、まさか、まさか、まさか!


「大丈夫です!」


 私は彼に背を向けて糸身を閉じる。落ち着けいすみ、落ち着くのよ。

 そんな事なんて在りはしない。確かに誰かに恋愛感情を抱いた事は少なかったけれど、あれはないでしょう! あんなモブキャラに!


「じー……」

「!」


 何故か私の顔を見上げるように先程の女の子が目の前でしゃがみこんでいた。

 思考が追い付かない、いつ私の後ろに回って来たのだ。


「トモヤ様、この者、顔が真っ赤だ。これはいわゆる……ひと…」

「うわわわわわあああああ! 何言っているの! ほ、ほら私のサンドイッチあげるから黙って!」

「ひと……人見知りかと思ったが、どうやら違うようであーる! わーい」


 人見知り! とんだ早合点。悔しすぎて唇を噛み締める。

 女の子の残ったサンドイッチを渡すと、彼女が目をキラキラさせながら嬉しそうに頬張った。なんて表情をするのだろう。はじめて食べる食材のように食べるその姿に少しだけ私は心を奪われた。

 いや、さっきから色々なモノ奪われ過ぎているけれど。


「イッツアミラクル! ふぉおおおお! ファンタスティック! ふぉお! ララリラ! ララリラ! まことにこれは美味なり!」

「あ、あの、ありがとうございます。お食事を邪魔してしまった上に、せっかくの昼食を頂いちゃって……」

「い、い、い、い、いいええええ……」


 彼の声が後ろから聞こえる、しかし振り向けない。恥ずかしい、なんて声をかければいいのかさっぱりわからない。

 どうしちゃったのよ、いすみ。

 サンドイッチを頬張る彼女の反応がとてつもなく激しいけれど、そんな事に気を使っている余裕はない。


「あ、あの……」

「は、はい! な、なな、なな、なんでしょう!」

「ななななー」

「やめい!」

「ひーん」


 彼がサンドイッチを頬張る彼女を宥める。まるで小動物を飼っているようだ。


「この子、俺の親戚なんですが、ついこの間外国からやってきまして…・・・・日本に来てまだ日が浅くて、日本の食べ物が珍しいみたいで……。本当にご迷惑をおかけしました」


 彼が頭をペコリと下げていた。私も慌てて彼に向き合い、頭を下げた。


「と、とんでもない! か、か、あ……」

「か?」

「か、彼女さんじゃないんですね」

「あはは、この子はまだ子供なんで、俺が手を出したら犯罪になってしまいます」

「トモヤ様、失礼でござるな! 私はこう見えても心も体も大人でござるぞ!」

「色々誤解のある言い方はやめい!」

「本当だぞ! トゥ……私の母国では十五歳になれば成人なのだ!」

「日本じゃまだ子供だ」

「あは……。なんか兄妹みたい」

「あー、そうかもしれません。手のかかる妹のようなものです」

「おお! トモヤ様が私の兄上になるのか! それは素晴らしい!」

「もういちいち反応しないぞ」


 二人が笑った、何故か私もつられて笑ってしまった。

 いきなり現れたおかしな女の子と凄く魅力的な男性、今日はなんて日だ。こんなに胸が高鳴るのはいつぶりだろう。

 ひとしきり笑った後、私は口を開いた。


「あ、あの……私、成田いすみって言うの」

「神崎トモヤです。彼女はコーデリア」

「コーデリア・ラディエスと申しますですござるだす!」

「あははは、そのおかしな日本語なんなの?」

「これは日本語への変換がうま……」

「コォオオオデリア!」

「ひひーん……と、トモヤ様に日本語を教えてもらったのだ!」

「え?」

「え?」

「いや、おかしいだろ! 俺がいつ侍のような口調で喋った!」

「え、えと……寝言で……」

「わけわからん事を勝手に作るな!」


 本当に仲の良い二人だ。幸いカップルじゃなくて内心ほっとした。

 子の胸に高鳴りは、尋常じゃない。これは認めざるを得ない。私誰にも聞こえない程小さく彼の名前を口にする。


 私は彼に、神崎トモヤに。


「神崎トモヤ……さん……」


 一目惚れしたのだ。


この度はお読み頂き、本当にありがとうございますm(*_ _)m


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またレビュー、ご感想などありましたらこちらも合わせてお願い致します


皆様が面白いと思える物語に仕上げて参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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