ジャージとポテチ
コーデリアがポテチを食べながらキラキラした目で俺に語り掛けてくる。
「これ……まことに美味しいでござるな!」
どこの時代の人間だ。
彼女曰く魔力が回復しない為、言語変換がうまく出来ていないらしい。その影響で昨日の戦いも全力が出せず苦戦を強いられたと言っていた。
流れ出る魔力を抑える方法があればいいのだが。
「なあ、コーデリア」
「何でござるか!」
「君の魔力はどうやって回復するんだ?」
「それは私にもわからぬでござる……。ロスガレスだと睡眠で大抵全回復するのだが、いくら寝ても微々たる量しか回復しないでござった!」
武者か、君は。
つまり彼女の魔力が回復しなければずっとこの変な話し方という事か。それはそれで色々と困る。ちょっと面白いけど。
「でも睡眠で少しは回復するんだよね?」
「御意!」
「なるほどね……」
「しかしながら、あふれ出す魔力を止められぬのである。今も魔力が流れ出ているのがわかるぞ! あ!」
「な、なに」
「食事でも回復するのであった!」
「食事と睡眠ね……まぁそこらへんは普通の体力や集中力と同じか」
「うむ! この世界の人間には魔力という概念が無いからわからぬことだろうが、拙者たちロスガレスの人間にとって魔力はごく当たり前にある力なのでござる!」
そうだろう、ロスガレスでは生まれてから魔力を得るのではない。生まれ持ったものなのだ。その理屈は少しだけ理解出来た。
昨日、彼女を救うために聖剣トワイライトの力を借り俺は二回目の覚醒があった。一昨日の夜とはくらべものにならない程の力を感じた。
魔力操作はまだ不慣れだが、空を飛ぶ事も出来るし、何なら魔族が放った魔力弾やコーデリアが展開させた防御壁を作り出す事も出来そうだ。
昨日の魔族は実に呆気なく倒す事が出来た、聖剣トワイライトで触れた瞬間に奴の身体は弾け跡形も無く消え去ってしまったからだ。
やはり俺が勇者アイレギアの生まれ変わりというのは本当らしい。
「でも少しわからない事がある」
「何でござる?」
「俺も魔力を得た。けれど俺はその流れ出す感覚が無い。どうしてだろう?」
「うーむ、詳しくはわからないでござるが、恐らくトモヤ様は元々この世界の人間だからではなかろうか?」
「と、いうと?」
「転生する前はロスガレスの人間であっても、トモヤ様は転生後ずっとこの世界で生きて来たでござる。この世界に順応しているのではなかろうか!」
「つまり、自然と流れださない方法を身に着けていると事?」
「是!」
なるほど、そう考えれば辻褄が合う気がする。
とりあえず俺はいいとして、彼女の魔力放出を止める方法か全回復する方法を探さなきゃいけないと言う事か。
俺は『うーむ』と頭を抱えた。
「この世界に魔力が存在しない。それでどうやって魔力の放出を止められるのか……」
「うーむ!」
「コーデリアは何かないのかい?」
「わからぬ! 今でも必死に抑えようと試みておるが全く止まらぬ!」
コーデリアはそういうとポテチを頬張った。説得力無い子だな、本当に。
「正直、申し上げるとロスガレスに帰ればすぐに全回復する。しかしこの世界は私の魔力を拒否しているように思える!」
「どういうこと?」
「私の魔力と言うよりも、魔力自体の存在というものに否定的な気がするのでござる」
「つまり、そんなモノ存在しないから、世界が魔力を消そうとしているって事か?」
「たぶん!」
確かに考えてみれば彼女の言う事も一理ある。
魔力という存在はあったらいいなと思っていても、『そんな事ありない』と頭で判断している。俺だって彼女が現れなければ一生魔力というものは、アニメや映画、小説や物語の中の空想上のもので、絵空事だと思っていたに違いない。
実際目の前で魔法を使われてそれを信じる人間が、この世界に一体何人居るのだろうか? トリックや手品だと言う人間が殆どじゃないか?
ましてやSNSやインターネットでそれを目の当たりにしたら、CGや加工したものだと言う人間しかいないと思う。『よくできたCGだな!』と言われるのがオチだ。
「この世界が魔力を認めなければ、魔力は常に空っぽという事か」
俺は少し感傷的になった。
何も知らない異世界に突然一人で来て、本来の魔力の消費も抑えられず、魔族との戦闘。さぞ心細い事だろう。
自分ならそんなことが出来るだろうか。如何に使命感がある人間でも異世界へ行けと言われて『はい、そうですか』と来られるだろうか。
なんとしても彼女の魔力消費を抑える方法を見つけ出さなければ。
俺はコーデリアを見つめた。
「もぐもぐ……」
肝心の彼女はキラキラした目でポテチを頬張っている。実に可愛らしい満面の笑みを浮かべている。何で俺が感傷的になっているのに、こんなに明るいのだろう。その明るさを少し分けてほしいね。
しかし目の前で落ち込まれても、今の俺には何の力にもなってあげられない。明るい方がまだいい。もしかするとわざと明るく振舞っているのかもしれない。
コーデリアが指をペロペロと舐めだした。指についたポテチの塩味が余程気に入ったようだ。
「そんなに美味しい?」
「うむ! ロスガレスにはこのような美味なものは無かった! 塩ぐらいは勿論あったが、根本的に塩の味が違う気がするでござる! ロスガレスの塩は少し苦いのだ!」
塩が苦い?
それは精製方法が悪かったり、高濃度じゃないと言う事だろうか。
「この世界の食べ物は味にこだわって作られているものばかりでござる!」
確かにそうかもしれない。
「ロスガレスでもトモヤ様のように調味料を多く持っている人間など限られた一部の者だけだろう。私の屋敷で働いている調理人たちですら、この国の料理には敵う事は無い。で、ござる」
「調味料が多い?」
「はいです! 昨日買い物に出掛けた際に多くの驚きがあったが、その中でも調味料の多さには心底驚かされたでござる!」
「ふむ」
「この世界は平和で争いも少なく、魔王ガレオンのような厄災も居ない。本当にこの世界は素晴らしいでござるよ。もし生まれ変わるなら私もこの世界に生まれ変わりたい」
この世界に生まれ変わりたい、俺は彼女のセリフを一生忘れないだろう。
俺は嫌だ、学校では学力で競わされ、会社では馬車馬のように働かされる。こんな世界のどこが素晴らしいというのだ。
出来るなら早く異世界に行きたいと俺は思い出していた。
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