異世界からの刺客②
俺はコーデリアから聖剣トワイライトを受け取り、とりあえず布で包む。このまま持ち歩けば不審者だと通報されてしまう。
そして二人で外に出た。昼間は暑かったが日差しが無くなり少しだけぬるい風がアルコールで火照った顔を冷やした。辺りはすっかり暗くなっており、街灯の灯りが俺たちを照らしていた。
コーデリアがキョロキョロと見回し近所の高台の方へ歩き出す。俺はその後に続く。アオイさんを家に残しておくのは不安だが家を出る際に鍵は掛けておいたし、眠っていたので少しの間であれば大丈夫だろう。
「コーデリア、魔族……このドロッとした感覚が魔族だと言うのかい」
「はい、奴らは魔の力を有しております。人間に災い為すもの。この世界の人間が感じられるかはわかりませんが、先ほどトモヤ様が感じられたのは恐らく聖剣トワイライトに触れ覚醒されたからかと思われます」
コーデリアはそういうと話を続けた。彼女の額には滝のような汗が流れていた。
「昨日も申しましたが我々ロスガレスの人間は多かれ少なかれ魔力を有しております。魔力はお互いを引き寄せ、干渉し合います。魔力量の多い者、純度の高い魔力を有す者、それらは魔族を感知する能力があるのです」
なるほど、魔力を持つ者ならばこの得も言われぬ感覚が感じられる訳か。
「魔族は生まれながらに魔力量が多く、個々の能力は我々人類を遥かに凌ぎます」
コーデリアは身体を震わせ言った。
「勿論、私よりも……」
魔族。
この感覚が魔族。
「つ、つまり……これは……」
「断定は出来ません……。もしかするとこの世界に魔力を有している者が居て、この近辺に現れただけなのかもしれません……」
その可能性もあるのか。
「しかし、もしそうでないなら……」
「なら……?」
「魔族がゲートを使い、こちらの世界にやってきたと言う事です」
やはりそう来たか。
正直、この感覚に鳴れていない俺にはこれがどちらなのか全くわからない。しかし彼女の反応を見る限り後者。魔族の可能性が高いように思える。
彼女はロスガレスで魔族と戦った経験があると言う。その彼女が魔力を持つ人間と魔族を間違う可能性の方が低いのではないか。
「ゲート……そんなに簡単に開くものなのか?」
「わかりません。魔力の使い方に関して、奴ら魔族は我々人間を遥かに超えております」
昨日、彼女からそれは聞いていた。
人間対魔族、一対一の戦いになれば圧倒的不利な状況である。それは魔力の使い方が抜群に上手い。さらに奴ら魔族は魔力量も多く人間が長年修行をして辿り着く境地を生まれながらに持つ種も居ると言う。
また魔族は高い回復力も備えており、傷の治りも早い。
彼女は階段を駆け上がり、俺もその後を追う。
階段を上り、高台の公園まで登って来た。コーデリアは振り返り街を見下ろす。俺もつられて振り返った。
俺が住む街、千葉市の夜景が視界に入る。
高い建物はそれ程多くないが、いくつか高層マンションが立ち並ぶ。その下には店の看板、車のヘッドライト、街灯、遠く海側には千葉のポートタワーが見える。
都会では無いが田舎という訳でもない、最寄りの駅は快速も止まるし東京に一時間もかからない。神奈川県や埼玉県ほどお洒落な県ではないが住み慣れた風景がそこにあった。
「コーデリア……」
「あっちの方角から感じます」
コーデリアが指を差す。東、千葉市の中でも人口密度が最も高い中央区の方だ。
「トモヤ様、飛翔は可能でしょうか」
「空を飛ぶって事か……? そんな事出来る訳がないだろ……」
「トモヤ様ならすぐ可能になると思います」
コーデリアが真っ直ぐ俺を見つめてくる。一切疑いの無い強い意思を持った純粋な眼差し。それが本当に辛い。
勢いよく家を飛び出したものの、俺には魔族と戦う覚悟も勇者の生まれ変わりである事さえまだ半信半疑なところがある。それはそうだろう。生まれてから昨日に至るまで普通の家庭で育ち普通に暮らしていたどこにでもいる一般人だ。
異世界の事も勇者の事も魔族の事も昨日少しだけ認識をしただけだ。
しかしそんな俺の思いとは裏腹に彼女は本当に俺を真っ直ぐ見つめてくる。
どうして俺をそんな目で見つめるのだ、何故俺が勇者の生まれ変わりだと疑わない。どうしてそこまで俺を信じられるのだ。
自分自身すら信じられない俺を何故そこまで信じられる。
「見ていてください」
コーデリアがそういうと俺から少し離れる。そして彼女は目を閉じた。一体何を始めるというのだ。
彼女は片手を広げ上に上げた。
「顕在! グランタイン!」
彼女がそう大きく叫ぶとなんと空中から突然剣が現れた。俺は我が目を疑った。確かに何もない場所から突然剣が現れたのだ。
彼女は剣を握りそのまま軽く振り下ろす。片手で持つように細身で鍔の部分から柄の先まで拳を覆うナックルガードが付いており、ゲームの世界でよく見るレイピアという武器に凄く似ている。
特徴的なのがその刀身の色である、形こそゲームやアニメで見る刀身の色は黒と赤、こんな色の武器は珍しいと言えるだろう。
「ある程度魔力を有する者はこうやって武器を顕在させる事が出来ます」
「顕在……?」
「はい、我々トゥーリアの国に伝わる魔力操作方法の一つで、武器や防具を自分の中に潜在させておき、場合により顕在させます」
「ど、どういう原理だ……」
「原理まではわかりません……」
原理がわからないとそれを真似する事も学ぶことも出来ないじゃないか。
しかし昨日多少魔力というものに少し触れた、ではその魔力とは何かを誰かに説明しろと言われてもかなり難しい。
例えるなら先天的に目が見えない人間に『色』を伝えるようなものだ。色というモノの概念が無い人間がそれを認識する事が出来ないように、魔力を持たない人間は魔力を感じる事は無い。コーデリアが原理を説明する事が出来ないのは何となく理解出来る。
つまり『そういうもの』という認識が先祖代々伝わっているのだろう。
とはいえ、俺にはまだ『そういうもの』の認識が完全ではない。この世界では彼女より十歳年上でもロスガレスではまだ生まれたての赤ん坊のようなものだ。
コーデリアから『潜在化』と『顕在化』について簡単に説明を受ける。『潜在化』自分自身の心の中に武器を隠し普段は見えないようにさせておく、そして『顕在化』これにより実体化、具現化させる。
心の中、実に意味不明な説明だ。
「それがわからない」
「トモヤ様ならすぐに理解可能となることでしょう」
「どうしてそこまで俺を信じられる……」
そんな時、東の方向で小さな爆発が起こった。
「な、なんだあれ……」
「行ってみましょう!」
コーデリアはそういうと空中へ浮かび上がる。目の前で人間が空を飛んだ、これも魔力が起こせる奇跡か。
「確認しにいかなければ……ロスガレスと同じようにこの世界が破壊されてしまいます!」
「お、おい!」
コーデリアはそういうと爆発のあった方向へ飛び立って行く。みるみる遠ざかる彼女の姿を目で追う。
まだ俺は空を飛ぶどころか魔力操作の方法もすらわかっていない。俺にどうしろというのだ。
「くっそ!」
ただ茫然と暗い夜の公園で佇む、俺がここに居ても出来る事は何もない。とにかく彼女を追わなければいけない。そう考えた俺は彼女が飛び去った方向へと走り出した。
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