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風呂場でいきなり美少女

 突然の部署変更、それまで順調だった仕事に勢いが無くなったきっかけの一つ。会社員であるから部署変更は仕方ない。

 新しい部署でも俺は頑張った。けれどいつも空回りしてミスの連発。なんとかミスを取り戻そうと頑張ったものの、それも空回り、毎日遅くまで残業し、人一倍頑張った。

 けれど結果は散々だった。上司や同僚に怒られ、後輩からも冷たい目で見られるまで、そう長く時間は必要無かった。

 まだ頑張れる、そう周囲の人間は言っていた。けれどもう限界だ。

 結局、俺は七年勤めた会社を辞めた。


 会社での評価は悪くなかった、勤めて二年で係長に昇進し、周囲からは期待の新人などともてはやされていたものの、部署を変更した途端俺の人生は転落した。

 つまり俺は特別仕事が出来た訳じゃなく、環境に恵まれていただけだったのかもしれない。


 俺は簡単に部署へ挨拶を済ませ会社を後にした。

 寿退社でもない俺に同じ部署の人間たちの視線が刺さる。『神崎くんならどこでもやっていけるよ』と気休めを言う部長、どいつもこいつも俺を見送る視線は冷たい。

 女性社員から小さな花束を貰い駅についた途端ネクタイを外し、それをゴミ箱に捨てた。


 俺は駅の構内で電車を待つ。

 大きく背伸びをしてため息を吐く。しばらくして電車がホームにやってくる、この電車にも当分乗る事は無いだろう。

 あいにく席は空いておらず、俺は吊革を片手で持つ。すると前に座る若い女性が『あの、大丈夫ですか?』と声をかけてきた。俺は何の事かわからず何も喋らずに居た。

 電車が地下に入った瞬間、正面のガラス窓に俺の姿が映し出された。


 俺は何故か涙を流していた。


 自分の感情がわからず、俺はたまらず別の車両に移動した。それでも涙は止まらず、結局扉と座席の小さな空間に身体を押し込め、誰にも悟られないように泣いた。


 電車を降りる頃には涙も止まり、駅を降りると周囲は暗くなっていた。

 俺が住む家までは駅から歩いて十五分、家の近辺にはコンビニがある為、コンビニに立ち寄る。店内は明るく綺麗に陳列されている。

 俺は弁当コーナーに直行し弁当を物色する。

 唐揚げ弁当、幕の内弁当、大盛のスパゲッティ、うどん、ラーメン、蕎麦など夕方だった為、陳列棚は賑わっていた。


 唐揚げ弁当が俺を呼ぶ声が聞こえる。今日の晩御飯は唐揚げ弁当に決まりだ。俺は唐揚げ弁当とペットボトルのお茶を手に取りレジ前に並ぶ。並んで待っている間におばちゃんの店員が話しかけてくる。


「今日は唐揚げ弁当かい? ちゃんと栄養バランス考えて食べないと倒れちゃうよ」

「あはは……」


 俺は愛想笑いをしてその場を過ごす。おばちゃんはレジに移動し、俺の前に居る人がそのレジに移る。良かった、またおばちゃんに話しかけられたらどうしようと思っていたところだ。

 少し待つと別のレジが空いた。俺は弁当とお茶をカウンターに置き、目の前の若い女性店員がバーコードを読み取る。


「お弁当、温めますか?」

「い、いやそのままで大丈夫です」

「レジ袋は付けますか?」

「いや、そのままで」


 俺はレジで支払いを済ませ、持っていたマイバッグに弁当とお茶を入れ、足早にコンビニを後にする。コンビニを出て俺は腕時計を見る、『七時五分』いつもならまだ仕事をしていた時間帯だ。こんなに早く家に帰るのは何ヶ月ぶりだろう。


 コンビニから歩いて五分程で自宅に着いた。

 風呂、トイレ別の1LDK、綺麗好きという訳ではないが、家具をあまり持っていないので広々と使えて結構気に入っている。

 キッチンに備え付けられているテーブルに鍵と弁当とお茶が入ったマイバッグを置き、スーツを脱ぎ俺はワイシャツと下着となって脱衣所へ向かう。

 ワイシャツと靴下を洗濯機に放り込み、バスルームのドアを開ける。

 シャワーで浴槽の汚れを簡単に洗い流し、栓をしてお湯を溜める。


 退職祝いに湯船に浸かろう。


 ジャバジャバと音を立ててお湯が溜まっていく、俺は下着姿のままリビングに向かい、脱ぎ散らかしたスーツをクローゼットにしまう。その際にポケットにしまっていたスマートフォンに通知のサインが見えた。

 俺はリビングのソファーに座り、スマートフォンを覗き込む。


『着信一件、木更津アオイ』


 俺を指導してくれた上司からだった。

 歳は俺より一つ上で、高校時代の先輩。彼女の勧めで会社へ入り奇遇にも同じ部署で仕事を教えてもらい本当に有難かった。けれど部署異動で結局俺は退職してしまった為、彼女に合わせる顔が無い。

 優しい彼女の事だ、きっと俺を気遣って電話をかけて来たのだろう。


 俺が異動を言い渡される前、一人で残業したことがあった。その時家の鍵を忘れたとか言ってアオイさんが会社に戻って来た。


「神崎くん! いつまで仕事しているの!」

「え、ああ……えっと……この書類だけは今日中に仕上げたくて……」

「バカ! 私は残ってまで仕事をしろと言ったか!」

「い、いや……」

「全く……早くその仕事を片付けて帰るわよ」


 彼女はそういうと俺の隣の席に座り俺が仕事を終えるまでずっと待っていてくれた。その後二人で近所にある居酒屋で残業した事を叱ってくれた。


「全く……神崎くんは無理をし過ぎる。私が会社に戻らなかったらまだ仕事していたんじゃないのか?」

「は、はあ……」


 ぐうの音も出なかった。人一倍頑張りたかったし、これといって趣味も無い。何よりアオイさんの役に立ちたかった。


「わ、私は……神崎くんがす……し、心配なんだよ!」


 この日のアオイさんは珍しく酔っぱらって何か言いたげだったけど、とにかく俺を心配してくれていた。アオイさんがずっと俺の上司なら、俺も会社を辞める事は無かったと思う。それぐらい素晴らしい上司だった。


 俺はスマートフォンの画面を閉じ、風呂場に向かう。


「おし、今日は退職祝いで入浴剤でも入れてみるかな」


 俺は下着姿のまま、洗面所の戸棚に置いてある粉の入浴剤を湯船に入れた。入浴剤を入れた瞬間に湯船は緑色の染まり、柑橘系の香りが落ち込んだ気分を和らげてくれる。


『……れギア』

「ん?」


 今、誰かの声が聞こえた気がした。俺は脱衣所を見回すも勿論誰も居ない。部屋の鍵も閉めているし、誰かが居る気配も感じられない。


「気のせいか……」


 俺は脱衣所で裸になり浴室の扉を開ける、シャワーで軽く汗を流しそのまま湯船に浸かる。


「ああ……気持ちいい……」


 ここ数ヶ月湯船に浸かる事も忘れて仕事に没頭していたので、疲れた身体が癒されていくのがわかる。柑橘系の香りがまた気分をリラックスさせ実に気分がいい。

 俺は肩までゆっくりと身体を浸からせる。


「これは……至福ですな……」

『アイ……ギア……』


 またあの声が聞こえる、お風呂場の換気口から聞こえてくるのだろうか。確か換気口は各部屋とも繋がっていて、声が聞こえる事があると聞いたことがある。

 なるほど、でも何か日本語では無い気がする。


「外国人なんて、このアパートにいたっけな……」


 と思いつつも、そんな事がどうでもよくなる程湯船が気持ちいい。湯船に口まで浸けてブクブクと息を吐いてみた。なんか面白い。


「ふう……そろそろ上がって弁当食べよ」


 俺は湯船から上がり脱衣所にあるバスタオルを引き寄せる。あらかた身体が吹き終わる頃、湯船がまだブクブクと音を立てている事に気が付く。


「え? なんだこれ……」


 湯船のブクブクは次第に大きくなりあっという間に湯船全体がブクブクと音を立てて浴槽からお湯が飛び出してきた。


「な、なんなんだ?」


 俺が湯船を見つけているとブクブクの中に何か髪の毛らしきものが浮かんできているのが見える。


「ええ! なんじゃこりゃあああ!」


 次の瞬間、異国の服を着た美少女が浴槽から現れた。


この度はお読み頂き、本当にありがとうございますm(*_ _)m


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またレビュー、ご感想などありましたらこちらも合わせてお願い致します


皆様が面白いと思える物語に仕上げて参りますので、これからもどうぞよろしくお願い致します。

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