第1話
よろしくお願いします。
「ゴブリンに気を付けるんだよ!」
母が、洗濯に川へ行こうとしたアタシにいった。
でもアタシを本当に心配しているワケじゃない。
働き手が1人減ったら困るからだ。
それは母の投げつけるような口調でもわかる。
赤切れの手は沁みるけど、友だちのルナと話ができるので、洗濯は好きだ。
洗濯場に着くと、ルナはもう来ていた。
「おはよう!」
「ドミンガ、遅かったじゃない!」
少し拗ねたように、ルナがいう。
「ごめん! 弟が食事の片付けのジャマするから遅れたの」
「ロペ?」
「今日はパト! めんどくさいったらないわ! キツくいったら親に叱られるし」
「アンタのトコ、男の子には甘いからね~」
「ホントよ! アタシも男に生まれたかった」
たわいもない話をしていると、村の男の子たちが3人で歩いてきた。
そのうちのバス―ラが、声を掛けてくる。
「ルナ!」
「何? アンタら畑仕事に行かなくていいの?」
「今日はいいんだよ。それよりルナに話があるんだ」
「?」
バス―ラは、ルナの耳元に口を寄せた。
「オレたち、村を出て冒険者になろうと思ってるんだ」
「え?」
「明日の朝、村を出るつもりなんだ。良かったらオマエも来ないか?」
「あんたら剣なんて使えないじゃない」
「何いってんだ! セルドもドロテオもすごいんだぞ!」
バス―ラは、他の2人を見ながらいった。
「ただの決闘ごっこでしょ。実際の戦いとはちがうわ」
「バカだな。同じだよ」
「うぬぼれ屋ね」
「オヤジたちみたいに、このまま村でくすぶってるような人間じゃないんだよ、オレらは!」
「ふ~ん、好きにすればいいんじゃない?」
「え? オレたちと来ないのか?」
「行くわけないでしょ」
「オマエだって、こんな村で一生を終えるつもりないだろ?」
「アンタらと行くなんてイヤだわ」
「なんだよ! つまんねえ女だな!」
アタシは、ずっと話を聞いていた。
そうして、決心した。
「アタシが、行く」
ルナが驚いて、いった。
「え? 本気?」
「うん、本気」
ルナが耳打ちする。
「やめなよ。アイツらバカなんだから、一緒に行ったってロクなことないよ」
「このまま村に居たって同じだよ。ロクなことないよ。弟と家事で人生終わるなんてつまんないよ。それにドロテオが…」
「ああ…」
ルナには話したことがあったけど、アタシはドロテオのことが好きだった。
ドロテオがいないこの村で、生きていたって意味がない。
ドロテオが何か言いたげにアタシを見ているのに気付いた。
一緒に来て欲しいんだ…
ルナにはわからないけど、アタシにはわかる。
ドロテオもアタシのことが好きなんだ。
でも言い出せないんだ。
恥ずかしがり屋だから…
バス―ラがいった。
「ドミンガか… まあいいや。仲間は多いほうがいいからな。明日陽が昇る前に一本杉の所に来いよ」
バス―ラたちが去った後も、ルナはアタシを説得しようとしたけど、アタシは気持ちを変えなかった。
そしていつものように弟の世話をして、夕食を作り、後片付けをした。
決意を秘めて…