9話 仁義なき戦い
翌朝。
「よく寝たわねぇ……!」
マリーゴールドが起きると手狭なベッドのせいか、その手がスミレの身体に触れてしまう。
「あっ、ゴメンなさいスミレ……悪気があった訳じゃないの……!」
「すー。すー……」
「良かった、まだ寝てるわね……」
スミレはまだ寝ていた。マリーゴールドは知らないが、深夜に少し起きていたからだ。睡眠時間の差が、彼女に幸せの時間を作り出している。
「な、何だか、や、柔らかかったわね……?」
そう言うと、彼女はもう一度そこに手を伸ばした。
ふにゅ
「い、いずれ私のモノになるのだから、これぐらい良いわよね……??
うん、そうよ……。起こさないようにすれば大丈夫なんだからっ……」
(うわぁぁああぁぁ、新境地だぁぁああアアアア!?!?!?)
悲しいかな、フォレストアイはまだ天井に張り付いたままなのである。
(スミマリちゃん親衛隊の皆さまにお伝えします。マリィちゃんはガチでした。もう一度言います。マリィちゃんはガチです。ボクたちは選ばなければなりません。これから新興派閥マリスミ家のエージェントとの派閥抗争が起こりますが、ボクはスミマリ派の代表として最後まで戦線に立つつもりです、どうかよろしくお願い致します)
ふにゅ、ふにゅ。
「んっ、ん~……」
(撤退! 今すぐ撤退ッッ!!
それ以上は抑えきれないッッッッ!!!!!!)
「あっ、そろそろ起きちゃいそうね……?」
「ふにゃ? ふわぁぁぁ……」
「ほらスミレ、起きなさい。もう朝よ」
「んん~っ……おはようございます、マリィちゃん~」
「下に降りて朝ご飯にしましょ」
「んん~……?
妖精さんはどこ~?」
「何寝ぼけてるのよ、ほら」
「わっ、わかった~……?」
スミレはマリーゴールドに引っ張られて、部屋を出て行ってしまった。
さて、大変な事実が判明してしまいました。
マリーゴールド様はただの恥ずかしがり屋のツン、だと思っていたのですが、どうやら正統派のツンデレを修得したヒロインだったようでございます。
今見ましたか? 彼女がデレに振り切った瞬間を。
ええ、勿論見ましたよね。
という訳で、これから戦争です。マリスミ家のエージェントと血で血を洗う抗争の、始まりとなることでしょう……!
僕が一人で架空の勢力との戦いを決意していると、二人は宿屋の娘を連れて部屋まで戻って来た。
「だから……そんな置物、ウチには置いてませんよー?」
「少し魔力も宿っていたし、間違いないわ」
ドタドタと足音を立てて、彼女達は部屋に入ってくる。
声を上げたのはマリーゴールドだ。
「あれっ……?
確かに昨日、ここに緑色のよく分からない魔法の置物が置いてあったのよ。
ねえ、スミレは覚えているでしょ?」
「……ん~……どこ行ったんだろうねぇ?」
「どうなってるのよ……?」
「きっと妖精さんのイタズラだったんだよ~。
それでふっと、居なくなったんじゃないかなぁ?」
「ちょっと、やめてください!
ウチの宿屋に変な怪談話を作らないでくださいー!」
「シャーリーちゃん、ごめんね~~!!」
(うん、それってボクのことですよね……)
宿屋の娘にはどうやら、大きな借りを作ってしまったようだった。僕は君に必ず女の子を見つけてくると、ここで固く誓ったのだった…。
それから彼女達は宿で支度をして、今日の冒険へと繰り出す。
まず最初に向かうのは、相談して決めた冒険者ギルドだった。
僕は中には入れないので、外で待機している。
「あら。随分寂れているわね……?」
「ホントだ。人、少ないね~」
「まぁ、いいわ。掲示板を見に行きましょ」
ギルドの中はいつもの活気が無く、人の姿もまばらだった。
そしてそれは、祭りの後だという理由がある。
「ちょっとこれ……どうなってるのよ……?」
「なんか、全然クエストが張り出されて無いよ~?」
「そうか……近郊の魔獣を全部狩り尽くしたから……!
見て、討伐クエストがほとんどないわ」
「バウアー山脈って、めちゃくちゃ遠かったよね。こっちのも。
エトワールで受けるクエストじゃないのしか無いみたい」
「あるのはFランクのおつかいとか、そういう遠方のクエストしか残ってないわ。
困ったわね……」
「あ、待って。マリィちゃん、一つだけあるみたい」
「ホント? どんなやつ?」
「Eランクの推奨レベル30、オークの討伐だって。報酬もすごく良い。
場所はベルナールの丘みたい」
「いきなりそれは……」
マリーゴールドはしばらく考え込んだが、やがてまとまった考えを伝える。
「……ううん、贅沢は言ってられないわよね。
いや、むしろ30レベルのクエストなら目一杯の贅沢と言えるのかしら?
ベルナールの丘はここより少し離れているから、私たちの強さを見咎められる可能性は低いとは思うわ。スミレはどう思う?」
「うーん……妖精さんが付いててくれたら大丈夫だと思うんだけど……」
「まだ寝ぼけてるの?」
「そうじゃないよ~……
うーん、ちょっと待ってね……?」
スミレは一呼吸置き、目を閉じて何も言わなくなる。
何秒かの時間が経ち、それが30秒を越えた時、マリーゴールドはさすがに不安になって声を掛けた。
「……ちょっと、スミレ?」
「あ、うん。妖精さん、まだ近くに居てくれるみたい。
マリィちゃん、私は賛成だよ。やろ~、そのクエスト!」
「あなた、一体何と交信して決めてるのよ……?」
「えへへ~……まだ内緒~♪」
マリーゴールドは不安を抱えながらも、クエストを受諾することになった。
しかし、スミレには何の不安も無かった。
「私たちには、幸運の四つ葉があるんだから大丈夫……っ!」




