73話 スミレちゃんが3人いれば
僕達は立てた予定通り、エトワールへと向かった。
キューちゃん改めラナンキュラスを集落に預け、将来を誓い合った僕達はエトワールの北門に着くまでに色々対策を話し合っていたのだけれど、僕だけは雑念に見舞われたりして、能天気にも世界平和などを考えていた。
「ええ~? それじゃあ私、誰と相談すればいいの~?」
「そりゃ自分とでしょ。スミレが怒ってる姿、見たことないし」
「私も怒る時は怒るんだよ? ぷんぷん!」
はあ……可愛すぎか。
ぷんぷん可愛すぎか。
どうも、クローバーです。
今見ましたか? スミレちゃんぷんぷんですって。
あらゆる争いの怒りが消失霧散するかのような振る舞いでしたね。
ところで聞いてください、アレ、ボクの彼女なんですよ……??
(怒り散らすスミレちゃんと、ボクが手を取り合っていれば世界は皆、平和。
人類はその愚かさに気付く日はすぐ目の前だろう、この光景を見ればな!)
「……!」
「実際のスミレちゃんのほうが何倍も可愛いよ!」と念じながら、彼女の手を握る。するとスミレちゃんも気持ちを込めて、握り返してきてくれる。
「~♪」
うんうんそうか。そうだよねスミレちゃん!
この不肖の僕でも、手を握るだけでスミレちゃんの思考が、気持ちが、文字通り手に取るように伝わってくる。
今僕はそう、脳内のスミレちゃんとお話しているのだからっ!!
さて、真面目な話をすると……
エトワールで人と妖精族が手を取り合えることを伝えるために、いくつか取り決めをしました。
「相手にどう思われるかを常に考えなさい。決して短気を起こさないこと。もし相手の心無い言葉に憤慨し、怒り狂いそうになっても……頭の中のスミレと相談して決めなさい。それは怒って然るべき内容なのかと」というマリィちゃんのご高説を賜り、さっそく実践していたのだ。
まぁ、僕は雑念だらけだった気もするが……そうこうしているうちに、見えて来た。
目的地であるエトワールのその北門、城壁の守りが。
エトワールの北門。
見えた時から、異様な気配を感じていた。
城門こそ見たところ特段変わった様子は無かったが、例えば城壁の上の警備の兵だったり、例えば城壁についている窓から視線のようなものを感じたり……いうなれば、城壁全体がこちらに圧をかけてくるような威容を見せていたのだ。
「変じゃないかしら……?」
マリィちゃんもその異質さに気付く。
だけどその答えまでは至らず、僕達は歩みを止めなかった。
そうして近付くと……その答えが示される。
ブワッ――!
ヒュン、ヒュン、ヒュン――
「……!?」
僕は咄嗟に前に出た。
スミレちゃんとマリィちゃんに危害を及ぼす物が迫っていたからだ!
僕はスキル【森羅万象】で直径3メートル級の大きな樫の木を即座に生やして遮蔽物を創るとともに、スミレちゃんとマリィちゃんを両脇に抱えて、巨木へと張り付いた。
「弓の一斉射っ!?」
「う、手厚い歓迎をしてくれるみたいだね……」
陰になって見えないが、巨木の表側には矢がたくさん刺さっているだろう。
それは僕たちから後背にかけて地面に突き刺さっている矢の数が物語っている。
200本か……それ以上だ。
「あれぐらいなら、大丈夫そうだったのに~」
「えっ?」
スミレちゃん? もしかしてもうそんなにお強くなれ遊ばしたのですか??
いやでも姫は守られてこそ本分でありマリィちゃんも打たれ弱いのだから僕が守って然るべきとああ僕は姫を守る一本の剣なんだ、今まさにその役目を果たしてるっ!? と、そのように僕が感無量になっていることなど一切無駄な思考なのだと告げるかのように、高らかな声が響いてきた。
「残虐非道でこの世の害獣である緑妖精に告ぐ――!
今すぐ人族二人を解放し、即座に立ち去るが良い――」
顔は見えないが、城壁の上から声が聞こえてくる。
それに対して、マリィちゃんが木の陰から躍り出た。
「私達、喧嘩しに来たんじゃないんだけど!?」
「問答無用――!」
ヒュオッと弓が再び飛んできて、僕は慌ててマリィちゃんの手を引いた。
少し乱暴にしてしまったがマリィちゃんは「ありがと」と短くお礼を言ってくれる。
「洗脳された疑いのある二人の言葉を聞くつもりはない――
緑妖精はすぐさま二人を解放しここから立ち去るか――
もしくは死を選ぶが良い――」
「こ、コイツら……!」
聞く耳を持たない上からの物言いに僕はブチ切れそうだったが、その怒りは両手の花たちが宥め、吸収してくれる。
「落ち着いてクローバーちゃん。約束」
「ああ……うん、わかってる」
本当は分かってない。
スミマリちゃんに手を出したことは万死に値するし、今すぐわらわらと集まった兵士共を使って北の城壁を血で新しく塗りたくってやろうと思ってたし、それならスミマリちゃんに手を出した大罪人の僕が真っ先に絵の具になるべきだったのだが……脳内のスミレちゃんが僕に制止を掛けてくれる。
(落ち着いてクローバーちゃん。そんなに怒ることじゃないよ。
わたし達は、仲良しだもんね?)
ピィィィン……!
僕は新たな閃きを得る。
(現実のスミレちゃんと脳内のスミレちゃんが同時に僕を説得してくれているッ!?
これは、スミクロスミッッ?!?? 架空電脳空間にのみ存在するという、概念体スミレサンドイッチ!!)
嗚呼、僕はスミレちゃんのことが特別好き過ぎて新たな領域に手を掛けようとしていたのだが、そんな妄想はこの場面、クソの役にも立たないのだ!




