72話 桃園
「ふーん……?」
マリィちゃんが手に持ったそれを、矯めつ眇めつしている。
やがて検め終わると、所見を述べる。
「中央の魔石が、周囲の魔力を吸い上げてる。この誂えられた、蒼い鱗からね。
つまり、この指輪には……冷熱効果があると見ていいわね」
僕達はAランクになった報酬としての証しを受け取ったその足で宿屋へと戻って来ていた。
すでに部屋で寛いでいて、今は、もらった指輪の話をしている……。
「ひんやりするってことー?」
「冷気と……恐らく熱耐性もね。
実用性を兼ねた、素晴らしい一品だと思うわ」
おお、それはすごい。
僕も賛辞を挟む。
「良い物なんだね。良かったね二人とも!」
「んんー?」
スミレちゃんが食い入るように覗いてくる。
急に心臓を掴まれたような気がして、大変居心地が悪くなる。
「三人、お揃いの指輪だよ?」
「あ、えっと、ボクはAランク試験を受けた訳じゃないし……」
三人の婚約指輪だと言うのだろう?
勿論分かっている、だが僕は迫りくる婚約の台詞から逃れるために、抵抗なぞをしてみる。
「何遠慮してるのよ。
アナタのぶんもあるに決まってるじゃない?」
もとより逃げ場など無いことを教えるかのように、マリィちゃんが即座に包囲してくる。
そして攻撃役は、スミレちゃんが担当するようだ。
「あ、わかった……。
うんうん、そういうの、大事だよね~?」
何がわかったのだろう?
しかし僕の左腕はもう掬い上げられてしまって、迫ってくるスミレちゃんを直視出来ない……。
「私達が、えっと……【ライオット・リリー】が、いつまでも仲良しで――
ずっといられるために」
スミレちゃんが誓いの言葉を口にする。
それはスミレちゃんらしくて……嫌味のない、気持ちのいい言葉だった。
「じゃあ、嵌めるね……?」
「まっ、…………」
流れるような動作で、あっという間に追い詰められる。
僕は右手で口もとを抑えて、そっぽを向いている。
砂のような甘い何かが、口から止めどなく溢れ出していた。
だけど、手だけで抑えられるはずもない。
だってそれは、形のない感情、そのものだったから。
「………………」
指輪は僕の左手の薬指に嵌められ……
その後マリィちゃんがスミレちゃんのおててを取って、マリッジリングは無事に嵌められて、二人は結婚しました。スミマリちゃん完。
二人の結婚を見届けることこそ、僕の使命だった。
それが今日、果たされた。
だがそこに、僕という不純物が混じっている……。
しかしどんなに取り繕っても、僕は一度足を踏み外している。
傍観者気取りは、もう終わりだ。
僕は仲人役などではなく、そう、我らは生まれた日は違えども、死する時願わくば同日同刻を願う義理の姉妹にでもなったのだと頭で割り切って……歩いてきたこの道を、受け入れることにしたのだ。
だから僕がマリィちゃんの手に優しく添えて、同じ様、流れのままに。
「…………」
僕達にもう、言葉は要らなかった。
これから永い、本当に永い時間が始まる。
お互いのことを信頼し、何百年と顔を突き合わせ……僕達は永遠の存在になる。
(二人が愛してくれるよりも、ボクが愛するべきだと思ったから)
だから僕からスミレちゃんの唇を求めて――――
「ふぅ……」
「もう限界~……!」
「アナタたち、まだやるの?
私はもう、体が保たないわよ……」
三人が距離を無くしてから、どれほどが経っただろう?
いや、時間の上では、日を跨いだぐらいしか経ってない。
愛し合った時間は、無限のように思われた。
けど、それはただ濃密で、濃厚で……魂に刻む儀式のようなものだったのだから、時が長く感じたのは自然なことだったように思う。
だが――……。
三人で寝泊まりするのが今日で最後になるだなんて、いったい誰が分かっていただろう?




