70話 女は処女を隠せない
お嬢様ドラゴンのステータスを確認した僕の心には、暗雲が去来している……。
もっとも不安な項目は、レベルだった。
「ねぇ、このレベルなんだけど……」
ドラゴンの進化体系はベビードラゴンが30レベル以上で何らかのきっかけ(この子は進化のきのみを与えた)で火や氷、リザードマンのような亜種もあるが進化し、以降はレベルによって進化する……とされている。
詳しいレベルは分からないが、生息域などと照らし合わせてみるとレベル80ほどで第3段階に進化するはずだ。
だがこのキューちゃんことお嬢様ドラゴンは一つ段階をすっ飛ばして、焔龍に進化しておられる……レベルも105である。
「でもクローバー様は……お強いんですね」
「これ、誰にも言わないでね。
ステータスは誰にも知られないようにするものだし」
「解りましたわ。強き者には従いましてよ。
けれどママには、」
「言わないように」
僕は彼女の首元で、念を押しての口封じをする。
何故なら……レベリングの成果を、目の当たりにした気がするからだ……。
(集落からは然程離れていなかったし、パーティーを既に組んでたとして、スミマリちゃんが倒した100体近いシャドウエルヴス……の経験値がここに居るだけで貰えていたのだとしても、経験値にボーナスは付いてないはず……単純にドラゴンがこれだけ上がったのだとしたら……)
その先を考えるのが怖くなる。
彼女達は10倍、実に1000体ぶんのシャドウエルヴスを倒したことになっているはずだ。
自分の経験から言えば10倍でもレベル130あたりから上がりは鈍くなった覚えがあるが……。
僕は考えるのをやめた。
それに替わる話題を振る。
「習得スキルに【言語】とか【飛行】ってあるけど……。
もしかして、飛べるようになったの?」
「そうなんですの?
まぁ確かに、空は飛べるような気がしますわ。
乗せてよいものか、若干不安ですけど……」
首に跨った感じはやや熱い気もするが大丈夫かな、と思っていると下からスミレちゃんが呼び掛けてくる。
「ねぇ~! どうだったの~?」
「あぁうん、大丈夫だからー!」
「そっか~!!」
(ねぇ、よろしいかしら?)
お嬢様は僕にだけ話があるらしく、足元に居る二人には聞こえないように首元で話を始めた。
「クローバー様……あなたの秘密主義には困ったものですわ。
それで、ママとスミレ様の恋を応援してるようですけど、どうするおつもりなんですの?」
僕は何を言われたのか一瞬理解出来なくて、ぽかんとしている。
「この村で大人しくしていましたけど、そこらに居る猫娘たちがこぞって「結婚指輪を作るんだ、あいつらは愛し合ってるんだ」と騒ぎ立てていて……あなたたちが特別な関係を築いているのは背中に乗せていたからなんとなく解っておりますけど、ここはちゃんとしたところを教えていただきたいですわ……」
僕は一瞬で、顔が真っ赤になってしまった。
ただのペットだと思っていた獣が急に喋り出して、主人達を辱めに来たッ!?
しかも「まぁ、スミマリだわ! 今度結婚するんですって?」などと村の女の子達で話題の百合になっているのは大変ありがたいことなのだが、「お相手はあのエルヴスよ! お可愛いわね!」なんて言われてたら僕は、僕は……!
コイツが今までスミマリちゃんの前であたふたしている僕を、観測していた事実も黙認しがたいぞ……ッ!?
「どどどどどどどうもしないよっ!?
指輪は多分スミレちゃんが結婚するんだって勝手に言っててボクは全然そんな気ないからっマリィちゃんからスミレちゃんを奪おうだなんて全然そんなことなくてむしろボクは二人とも抱いて守ってあげなきゃで二人もボクのことを受け入れてくれてアアアアアアッッ!?」
「クローバーちゃん、真っ赤だ~?
クローバーちゃんも、進化しちゃうの~~??」
スミレ御大!!
ボクにやましい気持ちなど、一つもありませんからねっ!?!?
「今ので、なんとなく解りましたわ……」
「何が分かったの!?」
即座に噛み付いた僕だったが、お嬢様はむしろその心を冷やしているかのようだった。
「……これは質問ではなく、確認でしたの。
だってあなたたち、雌の匂いがしますもの。
鼻もそうですし、わたくしの龍の眼も曇っていませんの。マリィママ様とスミレ様の腰つきが冒険者のものから、乙女の腰つきになったことにお気付きでして?」
コイツ、スミマリちゃんをそんなエロい眼で見てるのかッ!?!?
だがしかしッ、ボク達は一線を越えたッッ!!
あのえっちな腰づかいに関しては、否定のしようもないッッ!?!?
「こう、あまり下品な言葉は使いたくありませんけど……。
あなたが食べたのなら、わたくしも一安心という所ですわ」
「そ、それ以上はやめろ……ッ」
事実だけが僕を苛んでいる。
スミマリちゃんを食べた……食べてしまったんだ……!
最善の選択肢を選んで来たと思っていたけれど、改めてこうして言葉にされると、酷く愚かなことをしたようにしか聞こえないのだ……ッ!
「い、痛いですの。あまり野蛮なことはなさらないでください……」
「あ、ごめん……」
つい首を掴む手に力が入っていた。
いや、このままお嬢様を縊り殺すという先を見ない選択肢をどこかで取りたいと思ってしまうのは、ボクの性分では仕方の無いことなのだ……!
「あなた達が愛し合っているのなら、わたくしがとやかく言うことではありません。皆さんの意思を尊重致しますわ」
「そうですか……」
「それで、湿地帯で途方に暮れていたわたくしに付ける名前は浮かびましたの?」
僕がスミマリちゃんと寝たことを確認すると、お嬢様は思いのほかあっけらかんとしていた。
スミマリちゃん最優先の僕とは違って、お嬢様はもう自分のことへと頭が向かっているようだ。
僕もあまり追求されたくはなかったので、名前のことを考える……。
(この子、湿地帯で拾われたのか?
確かに僕が駆けつけた時、苦しそうに倒れていた気がする。
そうだ。ベビードラゴンの時は、リザードマンに進化しそうなカエルみたいな顔をしてたっけ……)
名前が浮かんでくる。
湿地帯のカエルみたいな、キューちゃん……
「キミは今日から……ラナンキュラス、なんてどうかな……?」




