51話 静かな森の湖畔の陰から
「お風呂入りたい……」
「同感ね……」
湿地帯からの帰りで身体の目立った泥こそは落としたものの、身体に不快感は残っている。
流水でもなければ、身体を清めることは出来ない。
「マリィちゃんの魔法でえいっ!、とこう温泉なんかを……」
「私でも流石にそこまでは出来ないわよ。
水を出して、火で……火に燃えない容れ物でもないと」
「それもそっか~……」
門前払いを喰らってしまった私達はエトワールの街を迂回して、北へ向かっていた。
仕方なくという感じなのだが、一応次の目的地でもある。
「妻せ山……猫娘族の住まう地ね。
私達も女の子だし、お風呂ぐらい貸してくれるわよ」
「うんうん」
「綺麗好きだし、それは大丈夫だと思うよ。しかしめあわせ……ふむ……」
クローバーちゃんが何やら考え込んでいるが、めあわせ山というのはこの高レベル帯で住まう猫娘族を娶るために、賢狼族の雄がこの山を目指すという由来から名前が来ている。
めあわせ山は野生のオウガが徘徊していて、70レベルを超えた冒険者パーティーでもなければ命がいくつあっても足りない危険な土地で、標高が高くになるにつれてドラゴンまで棲み付いているのだが……そういえば全然襲われない気がする。
「モンスターは?」
「恐れをなして近付いて来ないのかしらね?
流石にもう上限解放と一緒に次のレベルキャップまで上がるとは思えないし、そろそろ狩っておきたいところなんだけど」
「あっ、レベル上げするなら手伝うよ?
ボクが眷属を召喚するから、経験値10倍でそれを倒せばいいし……」
「あれ? クローバーさん、何で知ってるのかしら??」
「あっしま……」
クローバーちゃんは何やらしどろもどろになり始める。
……そういえばピアスをくれたお婆さんも、見たことある黒ローブだった気がしてきた……。
「ま、まぁ、心配しなくていいよ! なんたってボクがついてるんだからね!
わっはっはっ……!!」
「ふぅん……?」
「そ、それよりさぁ、良かったの?
街には入れなかったし、ボク迷惑かけてばっかりで……」
「いいのよ、もう。なんなら、めあわせ山で先にAランクになれば良いんだし」
確かにこの世界はレベル偏重の実力主義社会だけど、Aランクの名実だけで本当に大丈夫なのかな……と一抹の不安を抱えるが、思えば私はまだいくつか不安を抱えていたことを思い出した。
「クローバーちゃんを、私のモノにするには……」
「えっ……」
私はまた考え込み始めてしまい、自分の声が漏れていることに気付かなかったが……この場はマリィちゃんによって進行する。
「この丘を越えたら……あっ!!」
マリィちゃんが叫ぶ。
「見て! ……湖があるわよ!」
見れば、山の一地形が周りから窪んでいて、そこに水が溜まっていた。
湖は結構広く、向こう岸までは数キロはあろうかというような距離だ。
「これはもう禍を転じてなんとやらね。早速水浴びしましょ!」
「賛成~!」
ようやくサッパリ出来そうなので、私も元気よく返事をしたが、何故かクローバーちゃんは無言の気配を放っている……。
「クローバーちゃん?」
「あっ! ボクここで待ってるから、行ってきていいよっ!」
そう言うと、彼女はキューちゃんの背中から飛び降りた。
「あっ、もう……逃げられちゃったかな……?」
ルクレールの湖畔にて。
私達を乗せて長い距離を歩いていたキューちゃんは、湖のほとりで転がって休んでいる。
一番頑張った功労を労って、休ませてあげる必要があるだろう。
という訳で、私達は長い休息を取り始めていた。
「クローバーちゃん、逃げられちゃった~」
「まぁ、彼女も遠慮したんじゃない?
これから、裸の付き合いをするんだし」
マリィちゃんはそう言いながら、躊躇いもなく素っ裸になっていく。
今マリィちゃんの裸を見ているのは、私と、キューちゃん……それと、多分クローバーちゃんもだ。
「まぁ、いっか~……。
マリィちゃんの裸見るのも、久しぶりだね~」
「改めて言わないでよ……」
マリィちゃんは堂々と立っていたのに、急に胸やらを隠し始めて恥ずかしがっている。
相変わらずというか……可愛い友人なのである。
「ふぅっ……」
「スミレ、またデカくなったわね……」
「ほら、いこ~」
私はマリィちゃんの手を取って、湖へと足を踏み入れて行く……。
そうして腰が浸かるぐらいの浅瀬まで行くと、二人でそこに座った。
「まだ、クローバーさんのこと考えてるわね?」
「えへへ~……マリィちゃんにはお見通しだねぇ~」
「何を悩んでるの?
やっぱりギルドの顔として立てることに?」
「あっ、そうじゃないよ~」
「じゃあ何なの?」
「えっと……」
答えるべきか。
いや、本心ははぐらかす……。
「クローバーちゃん、あっちの森の、もう一つ向こうの岩陰に隠れてる」
「毎度思うけど、よく分かるわね?」
「だって、視線がスゴイから……今も、私達の裸を目が飛び出るほど必死に凝視してるよ……」
「えっ……それって何か誤解のある表現じゃない……?」
「ううん、それがちっともなんだよ。
クローバーちゃん、実は……」
私は溜めて、これだけは漏らすことにした。
「実は……私とマリィちゃんがイチャイチャしてるのが好きで、近付いて来たみたいなんだよ……」
「な、なんですって!?」




