50話 人族最強
「おい、止まれ!!」
「グルルルルル……!」
エトワールの東門を守る衛兵が、大音声で呼び掛けて来た。
キューちゃんは何も言わずとも止まる。
「と、止まったな?? 暴れないよな??」
「さあ、お兄さん次第じゃないかしら?」
マリィちゃんが地上から怯えるように見上げてくる門番の衛兵を、わざわざ高みから煽り立てる。
それだと逆効果じゃないかな……?
「お、お前達! ま、まさか街に魔獣……ドラゴンを入れようって言うんじゃないだろうな!?」
「そのまさかよ。まだ登録してないから、ギルドに行くんだけど」
「ちょっと待ってくれ! いや、待ってください……!」
言葉遣いまで謙虚になっていく衛兵さんが少し可哀想だったが、彼は職務だけは忠実にこなそうとしていた。
「登録が済むまで、ドラゴンを入れることは出来ん……!
だが、ここに繋いで置かれても、暴れない保証がない!
だから、ここを通すわけにはいかないぞ!!」
「困ったわね……」
マリィちゃんは考え込むと、後ろに向いて話し掛けてくる。
「……通るには、一人で行くしか無いわね。どちらかが残らないと。
クローバーさんとファイヤードラゴン達をここに残して行ったら、大変なことになりそうじゃない?」
「衛兵さんに我慢してもらうってのは~?」
「無いわね」
即座につっぱねられる。
もとより無理に通ればそれはテロ行為に等しい。
「キューちゃんはともかく、やっぱりクローバーさんはすぐには受け入れられないハズだから」
「ゴメンね……ボクのせいで」
「いいのよ。じゃあ……どちらにしましょうか?
使役獣の登録は、獣剣士であるスミレの方が行くのが自然なんだろうけど、ここに一人で残ってこの子達の面倒を見るのは、正直自信が無いわ……私としては、自分が行きたい所なんだけど」
確かにマリィちゃんをここに残して行くのは多大な心配が発生する……。
そのため、私は提案をそのまま受け入れることにする。
「それでいいよ~、マリィちゃんが行ってきてくれる~?」
「分かったわ」
マリィちゃんはそう言うと、キューちゃんからフッと飛び降りる。
「私が登録に行くわ。お兄さんはそこで震えて縮こまってでも居なさい」
「わ、分かりました……!」
マリィちゃんは門番の許可を得て、街の通用門をくぐって行く――行こうとすると、ちょうどそこから出て来た人物にぶつかった。
「きゃ!」
「ファイヤードラゴン? それに……」
通用門から出て来たのは、騎士風の格好をした人物だった。
体格が2メートルはあろうかというような巨体で、その分厚い胸板でマリィちゃんも堪らず弾き飛ばされて、尻もちをついてしまっている。
その大人物はこちらを見上げながら、静かに殺気を放っている……。
「緑妖精ゥッッ……!!」
そう口に出すと白銀の剣を抜き、その刀身を光に反射させた。
空気が瞬く間に緊張に包まる。
「ちょっと、痛いじゃない!」
「ヘイダルトン家の背負った悲しみに比べたらァン……!」
「まさかっ、アンゼルモ=ヘイダルトン!?」
マリィちゃんが大声を上げるが、男(?)の剣先はずっとこちらを捉えて揺らがない。
どうやら、一番出会ってはマズイ人物に会ってしまったようだ……。
私も大声を上げる。
「待って! 敵意は無いからっ!」
「悪いけど、人質を助けられる保証は出来ないわヨォ?!」
あれっ、私人質になってる??
「緑妖精の言いなりになった時点で、死を覚悟するのよォンッ!!」
「火の怒り! ぐつぐつと煮え滾って、我が刃に宿れ!」
【御釜斬り】ッッ!!
ヘイダルトンは人類最強を思わせる堂々たる迫力で刃を振って、火の斬撃を飛ばしてきた!
私達はそれに反応できなくて飲み込まれてしまう……と思ったが、それは私達に届くことはなく、キューちゃんに当たって火が霧散していった。
「くっ! まさか弱点の火を克服するためにファイヤードラゴンを従えたのっ? 小癪~~……!!」
「コイツ、殺していいの?」
物騒な発言をしたクローバーちゃんを私はすかさずロックする。
「ダメダメ~~! 待って、えっと、どうしよ~~??
とにかくクローバーちゃんは動くの禁止!!」
「い、イエスマム……!」
問題点はただ一つ、クローバーちゃんは討伐指定されているということだ。
使役獣登録する前に街で暴れたら、取り返しがつかなくなる。
ここは、逃げの一手!
「マリィちゃん、私達、いったん逃げるよ~~!!」
「あぁ、もう! しょうがないわね!
って、調子に乗るんじゃないわよ、この人類最強がぁっ!?」
新たな技を繰り出そうとしているアンゼルモに、マリィちゃんが詠唱を重ねる!
「氷の刃よ! 我が勃剣の振るいを静め、」
「詠唱省略――【焔狼】!!」
マリィちゃんの立てた火柱がアンゼルモの視界を遮り、氷の刃を振らせない。
妨害を受けたアンゼルモは怒り散らす。
「邪魔よぉ~~、小娘ッッ!!」
「それはこっちのセリフよ!」
マリィちゃんはアンゼルモに言い捨てながら、こちらに向かって走ってくる。
「アンタなんか、あと半年もすればレベル追い抜いてやるんだから!!
いつまでも最強と思わないことねっ!!」
「あら~ァン?」
「覚えておきなさいっ!
アンタを追い抜くのはギルド【ライオット・リリー】のマリーゴールド、エトワールにその名を轟かす虹色の魔女なんだからねっっ!!!!」
キューちゃんはその掌でマリィちゃんを拾うと、そのまま手に持って、踵を返して走り出す。
私達はそうして、揃って逃げ出すことになってしまった。
後ろからの追撃を心配したが、どうやら見逃してくれたようだった……。
「なかなか骨のある娘じゃなぁいンッ……??」




