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49話 首を取るのはいつでも出来る


 ファイヤードラゴンの上で。


(ぎゅう、ぎゅう)


 私達は前からマリィちゃん、クローバーちゃん、私の順で背中を連ねて、前の人に掴まる体勢になっていた。

 クローバーちゃんは手が浮いてしまってとても掴まっているとは言い難かったが、それは私がもうなんの遠慮も無しに後ろから押し詰めて、抱き付いているからだろう。


 そう、これは逃がさないという私の意思表示なのだが……。

 事を急いてはならない。


 今、このクローバーちゃんの首筋にかぶりついて血を啜ることはもう出来る。

 だけど、それは早計というものだ。


(何も今日達成しなければならないことじゃない。じっくり時間をかけて……クローバーちゃんを私のモノにするのだ。マリィちゃんと、キューちゃんと、クローバーちゃん……ふふっ。私、こんなに独占欲が強かったなんて)



 だからこそ、クローバーちゃんから喋り出すのをずっと待っていた。

 逃げようとする彼女の魚心を捕まえるのに、わざわざ掬いにいく必要なんてないのだから。



「えっと、その……」


 彼女はやがて網に掛かる。


「ギルド【ライオット・リリー】に入れてもらう話のことなんだけど……」

「あら? アナタのために席は空けてあると言っておいたハズなんだけど?」


 マリィちゃんが背中越しに答え、私もすかさずそれに乗る。


「クローバーちゃんはもう私達の一員だよっ、もしかして、まだ遠慮してるんだ~?」

「あああぁううう……!」



(うーん……やっぱり無茶苦茶効いてるよね……。

 クローバーちゃん、私達のこと好き過ぎるでしょう……?)



「あ、あのっ、マリィちゃん!」

「私?」


「さっき、トログロダイトに囲まれたことなんだけど、ボクって結構敵が多くて……。だから、ギルドに入れてもらうのは嬉しいんだけどっ、一緒に居るのは良くないと思うんだ……!」


「確かに目の敵にされてたわね……」


「だから、これまで通り、ボクは見えない所で見守ってたほうが良いと思うんだけど……どうかな?」


「そうねぇ、確かにいちいち喧嘩を売られるのは面倒だわ……」



 ああもう、マリィちゃんがさっそく丸め込まれようとしているし。

 私は手札を切りに行く。



「そっかぁ~~確かにさっきも、私とマリィちゃんがイチャイチャしてたのを、ずうっと見守っていたよねぇ……?」


「「……!?」」


「スミレっ、なんでっ……! いや、クローバーさん、見てたの……??」


 マリィちゃんがすぐ咎めに来るが、バツが悪そうに矛先を変える。

 そうだよ、クローバーちゃんはずっと私達のことを監視していたんだからね。



「……」


「えっと、その、……ごめんなさい……」


「大丈夫だよ。クローバーちゃんも、ここに居て良いんだからねぇ~?」

「うぅうー……」


 私はクローバーちゃんに居場所を与える。

 これが第一歩だ。


 彼女の提案通りに、距離を置いて見守ってもらっては困る。



「クローバーちゃん、邪魔になんて思ってないよ。ならないよ。

 ねっ、マリィちゃん~?」


「ん……そうね。私達が腫れ物扱いするようで良くなかったわね、ごめんなさい。

 クローバーさん、不愉快に思わないでね?」


「……ッ!」


「でもそうなると……妖精族(エルヴス)と一緒に居る問題は解決しないわよね……。

 また特別扱いになっちゃうけど、ここは黒ローブを羽織ってもらうぐらいの所で、妥協して貰わないといけないんじゃないかしら?」


「あ、うん……その辺が落としどころだと思う……。

 いや、やっぱり一緒に居るのはボクまだ申し訳なさすぎて、」


「ねぇ~~~~!!」


 私は大声で遮る。


「このまま、キューちゃんに乗ってエトワールの街に乗り込んだら、どうなるんだろうね~~~~????」


「「!?」」



 これがもう一枚の手札、マリィちゃんの()()()()()()、だ。

 さっそく反応してくる。



「ふーん……それ、良いわねぇ……?」

「あ、あの、マリィさん……?」


「あらクローバーさん。()()()()()()、でしょ?」

「ううう」


「Bランクに昇格した私達っ、ファイヤードラゴンに乗って街に帰還っ! さらにっ、討伐指定されているハズの妖精族(エルヴス)までその背中には乗っているっっ!! 良い、すごく良いわっっ!!」


 早速火が付いた。

 私もどうなるか分からないけど、マリィちゃんはやっぱりこうじゃなきゃね?


「アワワワワワ……!」

「クローバーさん、胸を張りなさい! あ、私と同じで無い胸を張るって意味じゃないのよ。堂々としなさいってことね。アナタはとりあえずファイヤードラゴンと一緒に使役(テイム)したってことにしとけば大丈夫だから」


「マリィちゃん、それどっちも嘘になってるよ~!」

「おとなしくしてれば分かってくれるわよ。まぁ嘘が無いほうが良いんだろうけど。試しにクローバーさんにスキルをかけて見なさいよ」


「ええっ!?」


 マリィちゃん、ナイス!

 これならごく自然を装うことが出来る。……まぁ、50レベルの時に一度黙って掛けたのだが。



「えいっ!」


使役(テイム)!)


「掛かんないよ~?」

「困ったわねぇ、まぁ試しただけだから良いんだけどねー」


「……」



 私達のまくし立てに、クローバーちゃんは黙り込む。

 これは危険な踏み込みではあるのだが、まぁ言葉も通じるしなんとかなるはずだ。


「えっと、うん……ボクは使役(テイム)されたってことで良い……よ。

 レベル差があるから、掛からないだろうし」


「えっ? 私達、80レベルなんだけど?」

「……」



 そういえばクローバーちゃん、何レベルなんだろう?



使役(テイム)って……どのくらいの差までいけるの~?」

「上は確か、プラス5ぐらいだったはず……先輩テイマーが言っていた気がするわ。

 いやでも、クローバーさんの動きは尋常じゃ無かったわね……90レベル帯、Sランク冒険者が束になっても止められなさそうだったもの」


「90レベルの先って、1レベルの重みが違うって聞いているわ。

 人族(ヒューマン)最強の冒険者、アンゼルモが95レベルから96レベルになるのに、3年はかかっていたはず。どのくらい強いのやら……」

「ふぅん……」

「……」


 そこで会話が途切れてしまう。

 マリィちゃんも流石に遠慮するところかな。まぁ、それなら私が聞き出しちゃうけど。


「ねぇ、いくつなの?」

「……」


 クローバーちゃんは答えない。

 マリィちゃんにも緊張が走るが、お構いなしだ。


「レベルいくつ? スミレに教えて~?」

「……誰にも言わない?」


「言わないよ~!」

「……約束だよ? 広まってもロクなことにならないと思うけど、二人には内緒にしたくないから……」



 なんていじらしいんだ。

 クローバーちゃんかわいい……。



「えっと、レベルは……168なんだ。もう上がらないと思うんだけど……」

「ひゃく、」

「ろくじゅーはち……」


 私達は絶句する。

 80レベルで人類の上位2%には入ろうかというのに、その倍以上……?


「そ、それはすごいわね!

 私、クローバーさんのこともっと大事にするわねっ!?」

「やっぱり大事にされちゃうんだボク……」


 マリィちゃんは早くも媚びようかという所だったが、私は別の考えを持つ必要に迫られる。



(クローバーちゃん……私達で、本当に制御出来るの?

 使役(テイム)も効かない、彼女の好意だけでこの先、ずっと傍に居られるの……?)


 その先の考えを振り払う。

 考えをまとめるには……時間が必要だった。



「さぁ、もうエトワールに着くわよ!」

「アワワワ……やっぱりボクこのまま連れてかれるの……?」


「もう諦めておとなしくしてなさい。

 アナタに勝てる人族(ヒューマン)なんか居ないから、大丈夫よ!」


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