42話 ベビードラゴン
私達は背の高い茂みを見付けて、草伏せの体勢になっていた。
「そろそろかしら……?」
沼地のほうを見れば、もうトログロダイト達も陣容を構えている。中央に20匹ほど。私達に近い左翼に位置する場所に40匹の部隊が来ているハズなのだが、どうやら沼に隠れていて姿が見えないようだ。
なるほど、と感心する。私達の手伝いはもしかして要らないかもしれないなぁと思った。
まぁそれはマリィちゃんが怒るから言わないけど。
「来たわよ、スミレ」
マリィちゃんの声で視線を戻すとスケルトンの集団が目に入って来た。
確かにぞろぞろと数が並んでいて、100匹以上はいるように見える。
その中には何やら色違いの骨やら、宙に浮かぶボロい布切れのような魔獣が……。
「マリィちゃん、あの飛んでるのは?」
「んー……レイスかしら? 後衛がいるのは厄介ね……」
「色違いのやつは?」
「スケルトンにスカルナイトが混じってるようね。
ちょっと待って……レイスにも色違いがいるってことは、あれはスペクターかもしれないわね……」
死霊達の集団には、それぞれ上級クラスが混じっているようだった。
ともすれば、油断出来ない相手であるのは間違いないのだけど……。
「マリィちゃんあれ……こっちの岩場の陰なんだけど……」
その時岩場に隠れる位置にいた、一匹の別の魔獣が目に入った。
「ベビードラゴン??」
「あの子、気付いてないみたい。
巻き込まれちゃうよ……」
ベビードラゴンはちょうどスケルトンの集団の進行方向に居て、差し迫る危険に気付いていない様子だった。
「なんでこんなところにベビードラゴンがいるのよ……?」
「マリィちゃん、助けてあげないと」
「何言ってるの。今出て行ったら、スケルトンが全部こっちに来ちゃうじゃない!」
「で、でも……」
私は岩場に向かって飛び出した。
どうしてこの時私は助けようと思ったのか分からない。
けれどそのせいで、私達は絶体絶命のピンチに陥るのだった……。
「あ、あと少し近付けば使役出来るから。
わたし、行ってくる!」
「あっ、ちょっと、スミレ!?」
私は有効距離まで近付くと、ベビードラゴンに向けてスキルを使った。
(使役……っ!)
効いた。
私は心の中で命令を伝える。
(そこは危ないの、そこから逃げてっ!)
(キュウウ……?)
「スミレ、気付かれたわ! スケルトンがこっちに向かってくる!!」
(ああ、もう!)
私は前へと駆け出し、ベビードラゴンを抱きかかえた。
「ほら、行くよ?
マリィちゃんの後ろまで行けば安全だから」
私は身を切り返し、走ってマリィちゃんへ向かって突っ込む。
そして私と交錯するように、マリィちゃんの魔法が放たれる!
【隕石炎弾】!!
ガァアアアァン……!
私が身を翻すと、それに遅れてスケルトンの集団から派手な炸裂音が聞こえた。
燃え盛る隕石はスケルトンをまとめて弾き飛ばしたようだったが、マリィちゃんは思った成果を上げられなかったことを告げてくる。
「チッ! 案外素早いわね。こうなったら大魔法で……!」
私はベビードラゴンを下ろし、マリィちゃんを諫める。
「待ってマリィちゃん! もう追いつかなくなるよ!」
「今ならまだっ……!」
「トログロダイトさん達が動いてない、私達のためには動かないってことだよ!!」
「踊れ火炎よ、灼熱の宴よ! 息吹を灯せ、命を燃やせや、」
「ダメだよ、もう!」
(マリィちゃん、ちょっと無理しすぎ!)
私は強引にマリィちゃんの両足の間に右手を突っ込んで、肩から一気に持ち上げた!
「きゃあぁああああ!? 何するのよスミレッ!?」
「おとなしくして~!」
マリィちゃんはジタバタと暴れるが、STRが60まで上がった私の拘束は抜けられなかった……ああもう、そんなことはどうでもいい。今は急いで逃げないと。
(ベビードラゴンも、ついてきて!)
スケルトンの集団をトログロダイトの中央の陣にぶつけなければ、色々面倒なことになる。
だから私はマリィちゃんを担いで、戦場を横切ることにしたのだった。
しかし逃げるのが、間に合うかどうか分からない。
「スミレ、もう目の前まで来てる!
ファイヤーランンッ♡……あぁもう、スミレッ、集中出来ないからぁっ!!」
「今は逃げるのが先!
ほら、もう合流出来るからっ、」
――――きゃっ!?
私達はリーシアさんが陣取っている目の前まで逃げて来られた。
だがそこで、地面のぬかるみに足を取られた。
その衝撃でマリィちゃんを投げ出してしまい、二人とも泥にまみれてしまう。
「ごめん~~!!」
「いたっ……最悪よ……っ!」
私達が転んだのを見て、トログロダイト達が一斉に動き出す!
「行クゾッッ!!」
「「「ウゥオォオオーアアーーー!!!」」」
まだ挟撃するには早いのに!
もしかして私達を助けるため?? と思った束の間、マリィちゃんが叫ぶ!
「スミレッ!! 後ろっっ!!」
「えっ?」
振り返ると、スケルトンがその骨の手に持った剣を振りかぶって、下ろそうとしていた。
私は嵌った足が抜けなくて、とっさに手で顔を庇ってしまう……!
ザァッ――!
嫌な音が聞こえて。
――きゃぅ……っ!?
かすれた声が響いた。




