39話 PSYCHO-LESS
「マリィちゃん、買いすぎ~!」
「良いのよこれくらい。70レベルは実質Bランクなんだから、見栄えはこれぐらい良くしておかないとね?」
私たちはコーカサスの街から戻ってきて数日が経ち、今はエトワールで買い物をしています。
マリィちゃん、財布のヒモがちょっと緩いかな……。
「それにしても、いつからこんなに人気者になったのかしらね?
私に関しては、エトワールではずっと避けられてたはずなんだけどさ」
「それはマリィちゃんが頑張ったからだよ~」
「私を散々バカにしてた癖に、今度はチヤホヤしてくるなんて気持ち悪いったら無いわね。
はぁ……悲しいわ。何のために強くなったのかしら……スミレなら分かってくれるわよね?」
「うんうん。私を守ってくれるためなんだよね~?」
「そ、そうよ……!」
さっきは2人組の男にナンパされたが、マリィちゃんに追い払わせた所だった。
Cランクになったことを喧伝すればこれぐらいは予想出来ていたことだったけど、実際現れるとウザいな……。
「まぁ、1週間でCランクにもなれば、多少はね?
受け入れるべきことだとは思っているわ」
「養成学校で惨めに泣いていたマリィちゃん~~」
「その話はしないで!!」
ふふっ。面白いのに。
「これで【ライオット・リリー】のデビューは鮮烈に決めたと言ってもいいわ。次にやると言ったらアレよ。スミレは勿論分かってるわよね?」
なんだろ。いやあれだ。
Bランクになろうと言うのだろう?
「えぇ~…………何だろ~?」
「私の相方なんだから、しっかりしなさいよねっ……!」
「ふぇぇ~……」
「それは勿論、Bランクになることよっっ!!」
「なっちゃうの~?」
「当然よ。こうなったら行ける所まで行こうじゃないの。私達は、二人で伝説を作るのよ!!」
「三人で、だよ?」
「……そうだったわね」
聞き捨てならないところだけは修正させておく。
そう、私のクローバーちゃんのことだ。
初めての出逢いは思い起こせばシャドウエルヴスが襲ってきたあの時からなんだろうけど、私の前に姿を現したのは多分Eランクに上がった日の、夕暮れ時だ。
緑妖精は植物に上手く擬態していたが、私はあの子の整った綺麗なお顔を見て……。
思い返せば、一目で恋に落ちていたのかもしれない。
だけどそれは、まともな理由を探したら、だ。
本音はもっと別のところにある。
初めは確かに怖かったけど、部屋にまで乗り込んできた妖精さんに敵意が無いのはすぐに分かった。災害級なんて呼ばれているのは、きっと対話をしようともしない人間が悪いに違いない。
だから、一番協力な手を打った。
目を瞑ってお澄まし顔を決め込んでいた彼女に話し掛け、口づけをすると迫ったのだ。
実際彼女が目を開けなかったら本当にキスをしていたけど、目を開けた瞬間から暴れ出して、殺されるかもしれないことも覚悟はしていた。
だから目を開けた彼女の表情を確かめた瞬間、私は賭けに勝ったことを確信したのだ。
(妖精さん……クローバーちゃんはあの時何も喋らなかったけど、彼女の心は手に取るように分かった。だからあの時はまだ単純に、手懐けよう、ぐらいに思っていたの)
それから私は身に付けた【魔獣察知】で、彼女がずっと近くに居ることが分かっていた。レベルも前のめりに上がっていって、裏で何かやってるんだろうなあと薄々感じることが何度かあった。
それからトントン拍子に強くなるにつれ…………私の心には、悪魔が宿ったのだ。
「それにしても【サルビア・サルベイ】さんが協力してくれて本当に助かったよね。まぁ、実際に一緒にお芝居したのはロイちゃんだけだったけど」
「あれには私も驚かされたわよ。
まさかスミレが、妖精さんとお近づきになりたい、なんて言い出すんだから!」
私は、ずっとクローバーちゃんと接触する機会を考えていた。
だからバレバレの変装で同じパーティーでクエストに行くという話になった時、彼女を籠絡する作戦を思い付いたのだ。
やられるフリをすれば、未知の強さを持った彼女がおのずと前に出てくるはずだと思ったのだ。
事実その作戦は功を奏して、私は彼女を捕まえた。
だが【使役】スキルが効かなかったため、心を籠絡する作戦に切り替えたのだ。
彼女は人族から伸ばされた手を取れずに泣いてしまったが、引き下がれなかった私は強引に抱き締めることにした。気持ちを伝えるならこれが一番だと思ったからだ。
その気持ちは何故かマリィちゃんにも伝わったようで、彼女はクローバーちゃんが緑妖精だと理解したうえで、ギルドに入れると言ってくれたのだ。
……こちらも誤算だったが、或いは計画通りでもある。
マリィちゃんを冒険者養成学校で拾った時もそうだけど、私は打算で生きている女だ。
だから普段はおとぼけて、他人に自発的に行動させるような”姫”を演じているのだ。
まぁいずれにせよ、クローバーちゃんは使役して【ライオット・リリー】に入れるという話にはなっただろう。それが少しだけ早くなっただけというだけの話だ。
そう、彼女をギルドに入れるということは、マリィちゃんもそこに打算を見出したからに他ならない……。ちょっと試してみよう。
「ねぇ、マリィちゃん。妖精族の血って、どんな味がするのかなぁ~?」
「っスミレ!? うううん、まぁそうなるわよね……」
ふふっ。やっぱり。
「そうね。スミレが思ったよりあの子の心を掴んでるみたいだったから、私も行けると思ったのよ。まぁ、やっぱり直接触れるとなると、物凄く怖かったけど……」
「私たちが吸血鬼だー! って言ったら、クローバーちゃん驚いちゃうよねぇ……?」
「それが目的だなんて言ったら、この上ない裏切りじゃない。殺されるわよ。
……ところでこんな話してて、聞かれてないのよね……?」
「うん、だいじょぶー。近くには居ないと断言できるよ」
「そ、そう……なら良いんだけど。
でも本当なのかしらね、妖精族の生き血を啜れば不老長寿になれる、って話」
「お婆ちゃんとかの世代から聞いている話だし、冒険者パーティーがいくつも死体になって帰って来たって言うから、結構信憑性のある噂だと思うよ~。マリィちゃんもそうだと思ったんでしょ~?」
「まぁ、そうね……。
これからあの子と仲良くなって、それとなく、さりげなーく、何の興味も無いかのように、慎重にしれっと世間話を装って、聞くことにしましょうか……!」
ふふっ。マリィちゃんはやっぱり臆病だなぁ……。




