32話 スミレの狙い
パーティーを組んでいたロイとスミレ達にシーエイプ達に群がったのを見て、僕はブチ切れる。
「ああああああーーーー!?!?!? アアアアアアアアーーーー!?!?!?!?」
奇声を上げながら3人の元へ突っ込むと、シーエイプ達は蜘蛛の子を散らすように離れた。
マリーゴールド様はもう立っているのもやっとだという様子で、ロイは四つん這ったままだったし、スミレ様は胸のあたりが少しはだけていたのを見て、再び理性の糸が切れる。
「スキル【森羅万象】……生成、ブナの木……ッ! 太くて、おっきいヤツ……!!」
直径1メートルはあろうかという太くてまだら模様の入っている樹木を生成すると、僕は手頃なサイズに手刀で斬って、即興の武器を作りだした。自分の体格にはかなり不釣り合いだが、僕の怒りを表現するにはこれでも足りないぐらいだった。
「丸太は持ったかッッ!? 行くぞ猿どもぉおおおおおお!!!!!!!」
ドゴッ――
グシャ――
「……」
僕の怒りの嵐は、全てのシーエイプが沈黙するまで続いた。
パワー、スピード、そしてメンタルの全てで圧倒的に上回っていた僕は全てを一撃のもとに粉砕し、あるいは黄泉の彼方まで弾き飛ばして、後には血まみれになった得物だけが残されていた……。
「はあっ、はあっ……」
「……」
「お、終わりましたか……?」
「……」
「……」
ロイだけが声を掛けてくるが、二人の様子がおかしい。
マリーゴールド様の顔は引きつっていて、まるで僕を拒絶するかのような目で見てくるし、スミレ様は優しさとも呆れとも違う、憂いの目で僕を見つめていた……。
「化け物……っ!」
「……ッ!?」
「近寄らないで!!」
手を伸ばしたが、マリーゴールドは僕を拒絶する。
アッ……終わった……。
「ダメっ! マリィちゃん、違うの!」
「放してスミレっ……!
こんな奴と一緒になんて居られないわっ!」
「きゃっ」
(あっあっあっ)
すみません、皆さん。スミマリ親衛隊は今日でもうお終いです。今までありがとうございました。
僕は犯した罪の全ての責任を取って自害しようと思います。
出来れば来世は百合の花に生まれ変わりたいので、死ぬ方法は地面に埋まってのセルフ土葬を選ぼうと思います……。
僕が人生に絶望を感じて、全てを投げ出そうと考えた瞬間。
奇跡が起こった。
「ダメっっ……!! クローバーちゃんは、化け物なんかじゃない……っ!!」
がしぃっ……
僕はスミレのタックルを受けて、地面に尻もちをついた。
状況が呑み込めず、頭が真っ白になる。
「大丈夫だからね? 怯えなくていいからね? マリィちゃんはちょっと、クローバーちゃんの強さに驚いてるだけなんだからね……?」
「……」
「怖くないよ、大丈夫だよ……」
「ちょっと、スミレ……?」
スミレは何も言えない僕を捕まえたまま、振り返って言葉を返す。
「クローバーちゃんは、一緒に依頼を受けた仲間なんだよ……?
途中で放り出すのはおかしいよ……っ!」
「で、でも……」
「でもじゃない! 私達【ライオット・リリー】は、そんなことで依頼を投げ出したりしないっ!!」
「べ、別に投げ出すと言った訳じゃないわよ……?」
そこにやや遠慮がちに、ロイも口を挟む。
「あ……そこは【サルビア・サルベイ】も同じです……。依頼には誠実あれ、といつもサルビアさんに言われています。クローバーさんがどんな方だったとしても、最後までやり遂げなければ僕が怒られてしまいます……」
「そこまで言うなら……仕方ないわね……」
「……」
一体何を間違ったんだろう。
僕はスミマリ親衛隊であり常に彼女達の陰で無ければならなかったハズだが、スミレ様が僕を「クローバーちゃん」と呼んでいる通り、正体がもうバレていて手遅れなのは疑いようも無かった。
でなければ、気を取り直してシーエイプの巣まで歩き出したのに、スミレ様が僕の手を握って離さないのはおかしいと思うのだ。
僕はこれだと逃げられないし、本来この手はマリィちゃんが握っているべき手で……あぁ、スミレちゃんのおててだ……尊いなぁ……。
だんだんと僕の心が深淵に飲まれていく。
もう何が正しいことなのか分からない。
だが僕は、思いもよらない言葉を聞くことになる。
「こんなことして、ごめんね?
でも、私はクローバーちゃんと仲良くなりたかったから……」
「……」
「ちょっとやられるフリをするだけだったんだけど、ここまで君が真剣になってくれるなんて思わなかったの。ごめんね、怒って当然だよね。私達が悪かったの」
「えっ……?」
「使役したお猿さん達には悪いことしちゃったね……。クローバーちゃんの汚しちゃった手は、私が半分受け持ってあげるからね? 思いつめなくても大丈夫だよ……?」
「………………」
どうしてやられるフリだなんて嘘をついてまで。
シーエイプをテイムしていただなんて嘘をついてまで。
そんなに僕に優しくしてくれるのだろう?
僕は何も分からないまま、ただ、このスミレちゃんの握り締めた手の暖かさしか、信じることが出来なかった……。




