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26話 忍び寄る刺客との交渉


「何っ??」



 私は身じろぎし、全身黒染めの人物を眇めた。


 此の者は黒い一つ繋ぎの外套で全身を包み、それは頭巾も同様に真っ黒だ。鼻と口を隠し、僅かに覗かせる緑色の髪と、同じ緑色の瞳をした鋭い眼光しか確認出来ない……。



「君が、希望者なのか?」

「ええ……そうです。サルビアさん、ですよね……?」


「あ、あぁ……」


 口数が若干足らない人物のようだったが、話は出来そうな様子だ。

 私は心を取り戻し、平時の精神に戻ってくる。


 気配を隠して私の傍にいきなり座っていたのは、おそらく侮られない為に実力を示したのであろう。

 そう考えるとこの姿にも合点が行く。成程、盗賊(シーフ)かそれに由来するクラスなのだろうと判断し、私は対話を始めることにした。



「ええと……我々【サルビア・サルベイ】のことは知っているのかな?」

「そんなに分からなかった。だから自己紹介して」


「あぁ、済まない。私はリーダーのサルビアだ。それでこっちが……、」

「レベルは? 両親は? それから好きなタイプは?」


 私の言葉は遮られ、質問攻めを受ける。

 何故好きなタイプまで聞かれるのか、まるで意味が分からないのだが……



「……レベルまで聞いてくるような無礼者に、何故答える必要がある?」 

「リーダー、抑えて」


 ワーシアに窘められて、喧嘩腰になりそうだったのを止められる。

 こういうのは怒った方が負けだ。

 私は気を取り直し、正論を以って説き伏せに掛かる。



「今回、我々【サルビア・サルベイ】が出した依頼は人族(ヒューマン)のCランク上限解放クエストのパーティー募集だ。君はそれを見てここに来た。違うか?」

「あってる」


「なら、君の質問はお門違いだ。私とワーシアは既にCランクで、君とパーティーを組むのはこっちの、ロイ一人なんだ。

 私と君が話し合うのは報酬の話だけで、君が知るべきなのは相方になるロイのことだけだ。分かったかな?」


「…………」



 黒ローブの希望者は、そこで長い沈黙に入ってしまった。


 レベルは個人情報だし、知れば悪用も出来かねないので聞き出そうという魂胆なら理解できるが、親や好きなタイプまで聞き出そうというにしては真剣すぎる面持ちであり、些か不可解な人物のようだ……。



「君、いいかな……?」


「……待って。レベルだけでも教えて欲しい。戦闘体系を見ていたから、60レベルぐらいなのは、分かってる。そっちのワーシアという人もだ。それで、こっちのロイさんが50レベル。これは、キミ達の会話を聞いていたから分かったことだけど」



 急に沢山喋り出したことに驚くが、この人物はどうやら私達のことはよく下調べをしてから来ているようだった。


「盗み聞きは感心しないな。無礼な奴だが、50レベルにしては実力は本物らしいじゃないか?」

「……レベルは?」


 私はワーシアの方へと振り向き、アイコンタクトを交わして承諾を取ってから答える。


「私は65レベル。ワーシアは67レベルだ。これで満足か?」

「分かった、ありがとう!」



 黒ローブの希望者は案外素直な返事をして、少し毒気が抜かれる。

 どうしてそこまで知りたかったのだろうか?



「じゃあ、後は君の番だな。

 我々が開示した情報に、釣り合う程度の自己紹介をお願い出来るかな?」



「私はクローバー……レベルは50、戦闘スタイルは……ロイさんが神官なので、前衛をやります。樹属性に特化してるので、武器は即興で作った物を使えます。これで足りてる……?」


「ふむ……普段は隠密特化の盗賊(シーフ)兼ねての魔術師(メイジ)と言った所か?

 前衛は本当に務まるのか?」


「そこは心配無い。私は素早いですが、どちらかというと打たれ強いので」



「分かった……二人はどうだ?」


「願っても無い話」

「僕も良いですよ! よろしくお願いしますね、クローバーさん!」


 ワーシアとロイも賛成のようだ。

 不明な点も多いが、冒険者の間ならこのぐらいの距離が妥当だろう。



「と、言う訳だ。ではクローバー殿、報酬の話なのだが募集要項に、」


「待って。…………」



(今度は何だ……?)


 クローバーなる人物は、また長い沈黙に入ってしまった。


 ギルドに張り出しておいた報酬は金貨30枚。かなり破格の額を提示してある。だがそこにどんな難癖を付けてやろうかと唸りながら考え込む様子だと思ったが、私の予想が外れた言葉が返って来た。




「……報酬は要らない。代わりに、条件がある」

「何だと?」


「……とある人物を紹介させて欲しい。彼女とキミを引き合わせることは、私のメリットになっている。……ダメかな?」


「金銭の代わりになるのならこちらも吝かではないが、その人物とは一体どういった者だ? メリットも詳しく話せ。君の動機が不明なら、それは信用には値しないぞ」



「……彼女の名前はアプリコット。レベル82の猫娘族(アサシンキャット)だ。エトワール王国でギルド職員をしている。アプリコットは数少ない私の友人であり、私の頼み事は絶対断らない間柄だ。そしてサルビア、キミに紹介する一番の理由だけど、彼女は現在()()()だ。この意味は分かる?」


「あ、あぁ……」

「これは私のメリットの為の話なのだが、同時に相互利益の話でもある。だから持ち掛けている。キミ達の依頼を達成したら、彼女を紹介しよう。アプリコットは必ず、キミを助けてくれるだろうから」




 クローバーの話を聞いて、話の要点を纏める。


 これはきっと、【サルビア・サルベイ】に向けての話だ。我々より高レベルであり、同時に中央のギルド職員とコネクションを作らないか、という誘いだろう。

 それならば逆にこちらが報酬を払ってでも手に入れたい人脈かもしれないし、その上彼女は……フリーだと言う。


 もしかしたらクローバー殿は、自身とのレベルが離れているため一緒に行動出来ない彼女の為に、道を用意してあげようという考えなのだろうか?

 友人の為の行動ならば、それがメリットになるのも理解出来る。そこを確認出来れば、話は納得出来るものだった。



「クローバー殿。そのアプリコット殿は、もしかして()()()()()を探しているとか……?」


「そういうこと。()()()()()()()()()()()()?」




 【サルビア・サルベイ】に馴染めるかは分からないが、パーティーにまた異種族が加わるというのなら、私達に歓迎しない手は無かった。ワーシアとロイからも異論は上がらない。



「分かった、報酬はそちらの希望に添えるよう努力しよう。我々はその彼女を歓迎する。責任を持って面倒を見よう、それでいいかな?」


「やった! ありがとう!!

 ……ゴホン。それじゃあアプリコットにも話を通しておくよ」


 そう言うと、クローバー殿は席を立とうとする。

 私は咄嗟に引き留めた。


「ああ、何処へ行かれるのだ?」


「彼女に連絡しないと。それに、ご馳走になりに来たワケじゃないから。人が多い所に長く居ると疲れるんだ……。

 だから今日はもう帰るよ。クエストは明日から?」


「む……ロイ、明日からで大丈夫か?」

「あ、はい……! モチロン大丈夫ですっ!」


「じゃ、私はこれで……、」



 話し合いが上手く纏まり、クローバー殿が立ち去ろうという所で暴れ牝牛の突き上げ亭に、こちらに向かって大きな声を出す者が現れた。




「そこに居たのね、ようやく見付けたわ!!!!」


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