21話 アプリコット vs クローバー
突然アプリコットに話を振られた僕は、一瞬で混乱に陥ってしまっていた。
(わ~~~~~~どうしよどうしよ!? 今すぐ占い師なの? しかも姉さまって何?? 僕今からこのエセ占い師のお婆ちゃん姉妹役なの??? あっ、スミレ様の視線が痛いっ、空気も痛いっ、あっ、ありがとうございます……じゃなくて!! 何か言わないと言わないと~~~~!!!!)
「あ、あぁ~……どこにやったかいのぉ~~……?」
「……」
「……」
(あぁっ!! 沈黙が痛いっ! やめて、下を向いて意味も無くゴソゴソと時間を稼いでみてはいるが、今変な声じゃなかった?? お婆ちゃんのフリにちゃんとなってた??? 誰か助けてぇええええええ!!!???)
僕は一人で空回って苦しんでいたが、それに助け舟を出すのはアプリコットだ。
「ふむぅ……姉さまも耳が遠くなってしもたのぉ……!
これはワシが見ないといかんみたいぞよ……?」
「なんなの、この占いババア達は……」
「マリィちゃん、抑えて抑えて~」
(うぅ……こうなったらボケが入ったお婆さん役でなんとかやるしかない……!)
そう決意を固めていくが、まずは心を落ち着けなければ僕は演技を始めることも出来ず、無益に時間を要してしまう。その間に有利な情報を握っているアプリコットが、彼女達を追い詰めていく。
「どれどれ……クンクン……!
におうぞ、におうぞえ。甘い匂いじゃあ!」
「ええっ!? まさかホビット村のっ!?」
「ほう、お前さん達、ホビット村に行っとんたんかいの。
どうりで蜜の匂いがするはずじゃ」
「マリィちゃん~……秘密がガバガバだよぅ~」
「っわ、私はっ!! くっ……」
(さあ、落ち着けボク。彼女達は目の前の小さな誘導尋問に振り回されてるだけだ……。一時の感情に囚われるな、大局観で物事を判断するんだ……!)
「そういえばさっき、興味深い話を耳にしたぞえ。
なんでも、僅か3日足らずでDランクに登り詰めた冒険者がいたそうな……?」
「……っ!!?」
「へぇ~~!! お婆さん、私、その話興味あるなぁ~!?」
ついに核心を突いたアプリコットの言葉責めに、もうスミレ様も涙目になって陥落した様子だったが、僕の耳は重要な情報だとは判断しない……。
(耳? そうだ耳には……)
僕の両耳には、ピアスがぶら下がっていた。
Sクラスの中でも最上級品であろうその装飾品は、今まで僕だけの物だけだったけど、よく考えればこの場にうってつけの物だった。
このピアスは【獲得経験値10倍】の効果があり、ボクのレベルを遥かに上限を超えた168レベルまで押し上げた、唯一無二の物だ。
しかし今、これを譲る時が来たのかもしれない。
「いやしかし、もう歳じゃ……そんなに早くレベルを上げる方法も忘れてしもたわい。お前さん達、アタシに教えてくれんかのぅ……っス?」
「そ、それは……」
「スミレ……これだと、もう……」
彼女達は耐えきれず、秘密を暴露してしまう所だった。
僕は二人の窮地に立ち上がる。
今、クローバーがお助けしますからね?
「おぉ~……! あった、あったわい……!
お前さん達、このピアスじゃろう?」
「「「……!?」」」
今まで黙っていたので、3人の注目を一気に集める。
だがもう、何も怖くはない。
「これがあればお二人さんもすぐにレベルアップじゃ……!
ほれ、試しに付けてみなされ。左耳にじゃよ……!」
「わっ、ちょっと、大人っぽいかも……!」
「ひ、左耳って、アナタねえっ……!」
僕が渡したピアスは、それぞれ分かたれて二人の左耳に収まった。
スミレちゃんには大人の魅力が宿り、喀血ものの淑女フェイスが誕生していたが、マリィちゃんはマリィちゃんでその意味を理解しつつも、顔を真っ赤にしながらイヤリングを耳に付けていた。
アプリコットは唖然としていて、口を挟んでは来ない。
僕は彼女に勝利宣言をする。
「妹のヤツも最近はボケが進んでのう……そのピアスを付けとけば、レベルなんてあっという間に上がることも忘れてしまっておる。ほれ、思い出したかの?」
僕はこれでもかという程の上から目線で、アプリコットを見下ろしていた。――実際は身長が二回りも足りなかったが――目深に被ったローブの中から歪んだ口元だけを見せ付け、スミレ達のレベル問題と装飾品探しを同時に解決したことをいい気に、勝ち誇っていた。
(あぁ……なんて気持ち良いんだろう……!)
「あ、ええと……お代はいくらですか……??」
「餞別だよ。お二人にお似合いだから……」
「そんなの困るよ~! マリィちゃん、金貨出して、はい!」
「えへ。えへへへ……お揃い……」
「ほら、マリィちゃん! もう行こ!
お婆さん、ありがとう、またどこかで!」
スミレは金貨を握れるだけ握ると、木の台に叩き付けて。
顔の緩んだマリーゴールドを引っ張って、足早に去っていってしまった……。
「何っスか、い、いまのアイテム……?
伝説級の代物だったような……」
「ア、アンタ……何者っスか?」
(ああそこにまだ居たんだなァ、ァアプリコットォォッッ!!!!)
「貴様は知り過ぎた……」
「……なっっ……!?!?」
僕は飛び掛かった。
アプリコットの首根っこを掴み、その口を一瞬で塞ぎ、甘い毒を流し込む。
【森の安らかな眠り】……
「むがっ!? ぁ……っ――……!」
膝から崩れ、全身を支える力が消失した彼女を僕は下から受け止めた。
「眠れ、今は安らかに――」




