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第八話 出立ミソジ

 

 試験の日より、数日後。


 株式会社サークルユニコーン本社会議室にて、河瀬と高嶺、それに役員たちが集まって会議をしている。


「それでは、現在までにわかっていることを」


 河瀬が高嶺に向かって指示を出す。


「この間の採用試験でのアクシデントについて、テンノコエ含むシステム面や装置などに異常は見られませんでした」


「ということは、【現実ゲーム化現象】があのタイミングであの場所で起こったということか、偶然にしては出来すぎているな」


 役員の一人がつぶやく。


「はい、我々のシステムに干渉し、上書きする形であの事態を引き起こしたとみております」


「で、例の勇者が言っていた件だが」


「昔やっていたゲームと同じだった。という話か」


「ええ、その件についても山田さんへの詳しい聞き取りをして、ギュウノウスというモンスターが登場するゲームを探してみましたが……」



「該当なし、か」



 河瀬は高嶺が答える前にそう言った。


「ええ、おそらく世に出回っていないゲーム、未発表のインディーズ作品、個人製作の可能性が高いです」


「本人は、そのゲームの所持者の友人とゲームのタイトルの記憶がまったく思い出せないと言っていまして…」


「ですので、山田太郎の過去を調べてみました」


「家族構成はいたって普通。両親との三人家族、公立の小学校、中学校、高校を出て平均的な学力の私立大学を卒業後、株式会社大平商会に入社を機に一人暮らしを始め、そこを解雇され今回の採用試験に来たようです」


「そのゲームを遊んでいた時期は九歳から十歳の間と見られています、その一年あまり、ほぼ毎日どこかに遊びに行っていたそうですが、家族も行く先は知らなかった、必ず決まった時間には帰宅していたので気にならなかったと」


「そして、ある時を境にぱったり出て行かなくなったとも」


「どう調べても、これ以上何も出てきませんでした」


 高嶺は、調査結果の資料を机に置いた。


「その一年と、今置かれている状況に何か関連があるのは間違いないようだな」


 役員の一人が言った。


「大平商会はうちの子会社じゃないのかね、確か最近【現実ゲーム化現象】で部長が一人行方不明になったと聞いたが」


「はい、そのタイミング含め、何者かの意図を感じます、なぜか解雇の指示を出した経緯や人物も不明です」


「そんな馬鹿な話があるか、人ひとりを解雇するのがどれだけ難しいかわかっているだろう」


「ですが、実際だれも何も疑問に思わず今回の解雇が行われています」


「口封じ……か」


 河瀬はそう言うと、目を閉じた。


「はい、事情を最も知っている市川部長がこのタイミングで行方不明になっていますので、そう考えて間違いないかと」


「あなたの仕業じゃないですよね?」


 河瀬は、会議室の端に向かって話しかけた。


 役員たちも、それに連れてそちらを見る。


 そこには、いつの間にか黒いフード付きのローブを纏った人物が立っていた。

 ローブで体の形がわからないので、男なのか、女なのかも見当がつかない。


「お、お前は……」


 役員たちも皆この人物を知っているようだ。


「お久しぶりですね、ようやくゲームがスタートできて嬉しい限りです」


 黒フードの声はボイスチェンジャーがかけられているように、やはり性別もわからない。


「あんたには聞きたいことが山ほどあるんだ!ホントにあんたの言う通りにしてこの現象を止められれば、なんでも願いをかなえてくれるんだろうな?」


 一人の役員が、黒フードに掴みかかる勢いで詰め寄った。


 その瞬間、役員の体が不自然に一回転して床に叩きつけられた。


「がふっ」


「まぁ、落ち着いてください、いまだに私を信用出来ないお気持ちはわかりますが、現に【現実ゲーム化現象】は起こり、勇者は現れました」


「だから、あなたにはどんな願いもかなえる力があるのも嘘ではない、と?」


 河瀬は倒れた役員に一度視線を落とすと黒フードを見つめて言った。


「そうご理解いただけると嬉しいです」


「そうそう、これから私のことはゲームマスター、とでも呼んでください」


 そう言うと、その姿を一瞬で消してしまった。


「どんな犠牲が出ようと計画をそのまま進めろとでも言いに来たのでしょうか?」


 高嶺が河瀬に聞いた。


「おそらく、我々がこの計画から、もはや逃げられないということを警告しに来たのだろうな」


「それで、うちの勇者はどうしてる?」


「はい、最初の仲間を探しに……」


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 会議前日に、入社の手続きに来たタロウ。


「それで、これからどうすればいいんすかね?」


「お好きなように」


 高嶺は、相変わらず塩対応だ。


「あのー、会社にいるお強い【戦士】さんとか【僧侶】さんとかは付いてってくれないんですかねぇ……」


「無理です。彼らは本社所属で全国の【現実ゲーム化現象】の対応に追われてますし、勇者は自分で仲間を見つけるのが…」


「あー、定石セオリーですよねぇ」


 頭をかきながらタロウは苦笑いした。


「いやー、でも命の危険があるのに一人ってのも…」


 言いかけたところで、高嶺の鋭い眼光を浴びて何も言えなくなってしまう。


<ところで、なんで名前がカタカナになってんだ?>


「この手のゲームの名前入力はカタカナであるのが定石セオリーだからです」


 高嶺はしれっと答える。


<この人、心の声にまで突っ込んでくるのかよ!>


「じゃあ、行ってきます…」


 とぼとぼと、巨大な本社ビルを後にタロウは歩き出した。


「えーっと、あのゲームだと、勇者は最初に魔法使いを仲間にしてたな…」


 ゲームのことは全て覚えているはずだが、何故か直近のことを少しずつしか思い出すことができなかった。


<このドデカイ街の中で一人を探すのは至難の技だぞ……何かヒントになるようなことは……>



 勇者が魔法使いを仲間にした場所を思い出そうとする。



「魔法学園ハールだ」


<学園…てことは、学校だな、学校をあたるか、待てよ、仲間が日本人とは限らないよねぇ、世界中の小中高校、大学、専門学校その他もろもろを探すってこと……>


 あまりのヒントのなさに、もうすでに絶望しかない。


<とりあえずこの近辺の学校から回ってみるかな>


<まぁ、何とかなるか>


 軽く伸びをして、タロウは歩き出した。



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