第六十四話 覚醒ミソジ③
「ここにきて、ようやく、残っていた、かの感情を獲得するとは………」
本郷が呟く。
「追跡者がまさかショカだった事は想定外であったが、これで【@/{】を利用した私のやり方に間違いはなかった事が証明された。これで、あと少しで、イウは完全に蘇る………」
本郷は、残ったわずかな力で崩壊しかかっている漆黒の森を覗き込んだ。
「山田さん!!」
一部始終を隠れて見ていた高嶺が、ショカが完全にいなくなったことを恐る恐る確認してから、タロウの傍に駆け寄った。
タロウは、意識を失くしている様子だが、体に異常はないように見える。二度三度、体を揺すって起こしてみるが反応は見られない。
「どうしよう……、誰か!?」
高嶺は辺りを見回すが、タロウの仲間たちは全員血を流し倒れていた。
「普通なら全員戦闘不能で全滅したら、教会に戻る」
気がつくと高嶺の横で、GMが心配そうにタロウの顔を覗き込んでいる。
「だけど、ストーリーはクリアしてるのに、ショカとの戦闘っていうイレギュラーな状況で全滅したから、それも実行されない。ここからどうすればいいのか……困ったねぇ~」
そう言ってタロウの頭を優しく撫でた。
「あ、あなた、いつの間に!?」
高嶺が驚き、尻餅をついた。
「ここでの目的は果たしたから、急いで脱出しないと現実でウィルスに侵された人達が手遅れになっちゃう、一つだけ良い手段を思い付いたんだけども、協力してくれるかな? 龍子さん」
景色がノイズと共に大きくぶれ始め、如何にもすぐに壊れてしまいそうな状況に、今一つ理解が追い付いていない高嶺は、言葉を発するよりも、頷くことしか出来なかった。
「手段って言っても、単純な話で、ストーリークリアのフラグ自体は立ってるから、後は無理矢理ここから出られればいい。俺の能力で一瞬だけど、現実と繋がる穴を空間に開けられる。でも、【ゲーム】の世界が壊れかけてる今の状況だと、チャンスは一回が限界だろうし、この人数が順番に通る時間もないから……」
高嶺は、重苦しい雰囲気に思わず息を飲んだ。
「二人で全員担いで一気に通り抜ける!!」
少しの間、両者の間に沈黙の時間が流れる。
「な…何なんですか!? 良い手段って言うからもっと知的でスタイリッシュな方法だと思うじゃないですか!! 誰も思い付かないような!! へぇ~そんな手があったのか!! って言うような!! 今、そういうのをサラっと言うようなシチュエーションっつーのが定石でしょうが!!」
これまでの鬱憤を晴らすかのように、高嶺の全力のツッコミがGMに炸裂した。
「じゃあ、龍子さんは、アイドルちゃんと魔法使い君をお願いします」
GMは、少しの動揺も見せずに、そうすることがさも当たり前のように言い切った。
「いやいや、人の話を聞かんかい!! そもそも私のような平凡でか弱い女性が大人二人も抱えて動けるわけがないでしょ!!」
「ふふーん、これ、なーんだ?」
GMは、何処からともなく手のひらに何かを出現させた。
「あ………」
それを見てすぐ、何かを察した高嶺は、半分諦めた表情でそれを受けとると迷わず口の中に放り込んだ。
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「おせぇな」
隔離された部屋の入り口で、タチバナは落ち着きなく歩き回っていた。
「あれかラ、モンスターや何やらは出てこなくなったかラ、決着はついたんじゃなイ?」
ジロウは鎌を手持ち無沙汰な様子で、くるくると回すと肩に担いだ。
タロウ達が突入してから、病院の敷地内ではあちらこちらで絶え間なくモンスターが発生し続けていた。
【現実】に残ったメンツで、ひたすらそれを退治していくという終わりが見えない、もぐらたたきを行っていたのだ。
「久しぶりに、ゆっくり眠れそうだわ」
カリノは、座り込んだまま、空に向かって大きく息を吐いた。
「途中から、あいつ、サボりやがって…、どっかに消えちまいやがった」
タチバナは、そう愚痴るとどこからともなく取り出したペットボトルの水を一気に飲み干す。
「いやいや、サボるなんてとんでもない!」
突然響く、あいつの声に、口に含んだ水を盛大に噴き出す。
人一人分くらいの、黒い穴が急に現れたかと思うと、そこから人が雪崩のように出てきた。
「どわっ!? なんだ!?」
タチバナと、ジロウは反射的に後ろに飛び退いた。
「あの飴舐めても、重いものは重い!」
人の塊から苦しそうに高嶺が這い出して、そう言った。
タロウ以外の面子の傷は、まるでなかったかのように治っていた。
「身体は無傷だけど、精神的なやつまでは治らないから、目を覚ますまで少しかかるかもねぇー」
GMは、一人一人の頬を軽く叩いて、状態を確認して回った。
「あいつ以外は、だろ?」
タチバナは、タロウを指差して言った。
「ああ、そーだねー、死にかけながらも良く頑張ってたよ」
GMは、そう言うと意識のないタロウを肩に担いだ。
「早くしないと、手遅れになってしまうからねー、悪いけど先に行くよ」
「あぁ、頼むわ…」
タチバナは、喜びとも悲しみともとれる表情を見せると、黒い煙に巻かれて消えた二人を見送った。
「やっと、ケリがつきそうだ、なぁ、慈郎」




