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第五十九話 接僧ミソジ⑱

 同時刻、とある空間───


「あんな無茶な作戦よかったの? だってあいつはおじさんの………」

 その続く単語を塞ぐかのように声が重なる。


「大丈夫だ、これくらい乗り越えてもらわねば我々の悲願は叶わない。あいつには幼少より、あらゆる戦い方を叩き込んでいる、頭では覚えていなくとも、体は覚えているさ」


「確かに、最初からとんでもない戦い方してる時があったからねぇ~、もしかしたら、もう……」


 そう言うと、黒いローブを翻し、武器を装備したであろう金属音を鳴らしながら、対話の相手に背を向けた。



「どこに行く? 助けに行くつもりか?」


「いや、邪魔が入んないようにその辺を見張っとく~」


 瞬間、一方の声の主の気配が消えた。


「………あいつは昔から何を考えているのか、やっぱりわからないな」



【ゲーム】内、漆黒の森───



 吐き出した真っ赤な血が、足元に転がる石に当たって飛散した。


「や、山田さん!」


「ち、発症しやがったか、想定より早い」


 血を吐き出したタロウは、思わず両膝を地面に着いた。


「タイムリミットは?」

 ハルイチが慌てた様子でホウジョウに聞く。


「長くて三十分てとこだ、長くてな」

 ホウジョウの表情にも焦りが見える。


「だ…、大丈夫ー、行こっか」

 タロウはそう言って立ち上がろうとするが、上手く力が入らず倒れそうになる。


 ホウジョウが支えようとするが、完全に脱力した大人を支えきれず共倒れになりかけた。

 すぐに、ハルイチも助けに入り、ようやく二人がかりでタロウを立たせる。


「これじゃ、急ぐどころか戦闘もままならないですよ……」

 ハルイチはそう言うと、窮屈そうに杖を取り出し振り回して見せた。


 ホウジョウが、【ルナオ】を何度も唱えるが、今のタロウに効果はみられない。


 その時、後ろから素早くハヤカが近づき、男二人の間からタロウを片手で持ち上げると、まるでマントを羽織るかのように振り回し自身の背中に着地させた。良い歳したオッサンが、若い女の子の背中におぶわれた格好だ。身長差があるため、タロウの両足は地面ギリギリをキープしている。


「何て、馬鹿ぢ………」

 ハルイチがそこまで言いかけた所で、ハヤカの殺気のこもった視線で黙らされた。


「そういや、車のドアを簡単に引きちぎってたな………、間違っても逆らわないようにしよう」

 ホウジョウはそう言って無精髭の生えた顎をさすった。


「さぁ! 行きますよ!」

 ハヤカは、努めて明るい声を出した。


「で、行くってどこに?」

 ホウジョウが辺りを見回しながら言った。


 鬱蒼と繁る森の中、そのど真ん中に彼らは立っていた。目印になるようなものもなく、同じ景色が三百六十度広がっている。足元に道のようなものはなく、様々な草が生えており、石ころや岩が無造作に存在するだけであった。時折、木の陰から鳥のような動物の鳴き声が聞こえてくる。


「しまった……」

 タロウがハヤカの背中から、掠れる声で話した。


「こ、ここは漆黒の森、なんだけど………迷いの森とも呼ばれていて……、泉にたどり着くには………近くの村で、道しるべになるアイテムをもらっておかないと……、いけないんだった………」

 タロウはそう言うと、静かに目を閉じた。


「どうしますか? 一旦戻りますか?」

 ハヤカが尋ねる。


「いや、そんな時間はない、山田さんか黒い人たちに攻略法も聞いておけばよかった」


「今から聞けないのか? この通信機で」

 ホウジョウはそう言うと、ハルイチの耳の通信機を指差す。


「本郷さんが言うには、こちらに来ると外部からの援助が難しいそうです、通信もそうらしく……」


「そういや、言ってたな、ゲームの【ルール】を守らないとどうたらこうたらって………」


 儀式───。本郷は、このゲームの事を儀式と言っていた。儀式だからルールを守らないといけない。儀式を滞りなく完遂させることが、本郷の目的である。となると、目的があるはずだ。儀式を行うことによる結果が発生し、それこそが本郷がこの大がかりで非常識な【ゲーム】を始めた理由であるはずなのだ。


「このゲームの先に何があるんだろうか………」

 ハルイチが、思わず呟いた。


 その時、ホウジョウのズボンのポケットから、うっすら光が放たれた。


「うお! 何だこれ!」

 ホウジョウは慌ててポケットから、光の原因を取り出した。


「あ、それは…!」

 ハヤカは、その物体に見覚えがあった。


「あの車の中で拾ったやつか!」

 ホウジョウはそう言いながら、鈴のような物体をつまみ上げる。


 拾った時とは様子が違っており、球体の奥の方から赤い光が一筋の直線となって放たれている。


 ホウジョウは、その玉を上下左右に動かしたり、回してみるが、赤い光が差す方向は常に一定であった。


「まさか、これは……?」

 ハルイチが、光の差す方向を見つめる。


「さっき、このにいさんが言っていた【アイテム】ってやつか?」


「考えてる時間はないですよ! 行きましょう!」

 ハヤカはそう言うと、タロウを背負ったまま勢いよく走り出した。


「あのお嬢ちゃん、さっきから何を焦ってるんだ? 確かに、にいさんの命がかかってるのはわかるが………」


「俺もそう感じました。何かそれだけの理由ではないような……」


「まぁ、とにかく考えてる時間はないのは正解だ! 行くぞ!」


 ホウジョウとハルイチは、慌ててハヤカの後を追って走り出した。



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