表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/65

第六話 就活ミソジ⑤

 子供が二人でディスプレイの前に座っている。

 目の前にはゲーム機が置かれていた。

「これ、父さんからこないだもらったやつなんだ!一緒にやろう」

「へぇ、おもしろそう」


 どこかの村に魔王の手下が現れ、勇者となる人間を倒そうとしている。

 無差別に攻撃を始める手下。


 主人公の幼馴染の女の子に攻撃が及ぼうとしたとき、主人公がそれをかばった。


 大けがをする主人公。

 大人たちが駆け寄り回復魔法を唱える。


 手下に挑みかかるほかの大人たち。

 しかし、歯が立たず倒れていく。


 かろうじて、立ち上がった主人公は手下と戦闘に入る。


 音楽とともに戦闘画面へ移行する。


「これ、絶対勝てないんだ、何回もやり直したんだけど」

 友達が言った。


「負けても話は進むんだけど、なんかくやしいんだよね」

 勝つことが出来ないイベントバトルなのだが、まだ理解できてはないらしい。


「でもさ、こないだ裏技を見つけたんだ!そしたらさ、こいつに勝てたんだよ!」

「んでね、それを見せたかったから、ここからやりなおしてるの!」


「へぇ、すごいね!それで勝ったらどうなったの?」

「まぁ、見ててよ」

 裏技を使って手下を倒してみせた友達。

 しかし、戦闘画面が終わると倒れている主人公が映し出されていた。


「負けたときとお話し変わらないんだ……」

 少し残念そうに友達は言った。


「どうやったのか、特別に裏技教えたげるね……!」


「だれにも、内緒だよ!…………()()()()()!」



 太郎は名前を呼ばれて目を覚ました。

 夢の中のような感覚がぼんやりと残っているが、ところどころ体が痛む。

「まだ、動かないでください」

 座った状態の太郎の周りに、見たことのない男性と女性がいた。

 ローブのようなものを着て、手には小さな杖を持っている。

 それぞれの杖を太郎の頭と腕にかざしている。

 杖の先がうっすらと光っていて、痛みが少し和らいだ気がする。


「すいません、私たちはまだレベルが低くて、完全に治しきれないんです」

<あぁ、あの秘書さんが言ってた、【僧侶】って人たちか……>


<ギュウノウスはどうなったんだろうか>


 まだ、はっきり視界がぼやけて見えない中、何かが激しく動いている音がする方を見た。


 ギュウノウスと、こちらも見たことのない男性が戦っているようだ。


<あっちは【戦士】の人か……>


 プロテクターのような鎧を着て、手には斧を持っているようだ。


<なんかの劇みたいな光景だなぁ……>

<月野ちゃん、だっけ、あの娘無事だったのかな>


 受験者の三人は、河瀬と高嶺のそばに移動しており、もう一人【戦士】と思われる屈強な男性に守られていた。


「駄目です、社長!やはりレベルが低く、太刀打ちできません!」

 高嶺は太郎が目を覚ましていることに気が付く様子もなく言った。


「ふん!雑魚が!」


 ギュウノウスはそう言うと、こん棒を水平に構えた。

 こん棒に黒いオーラのようなものがまとわりついていく。


 ・スキル【獣皇闇気剛撃】(じゅうおうあんきごうげき)…持っている武器に闇属性の闘気を纏わせ、敵にぶつける技。 敵一体に闇属性の大ダメージを与える。


 ギュウノウスは、【獣皇闇気剛撃】をはなった!


→【戦士】Aに659のダメージ!

→【戦士】Aはたおれた!


【戦士】Aは黒いオーラに吹っ飛ばされて、太郎と同じように壁にたたきつけられてしまった。


「俺達のレベルじゃ、とても敵いません……」

 河瀬たちを守っているもう一人の【戦士】は、困惑した様子で河瀬に言った。


「いや、時間を稼いでくれたらそれでいい、もうじき起こるはずだ」

 河瀬は、太郎の目が覚めていることに気付いているようだった。


 ギュウノウスは、再び受験者の方へと歩き始めた。


 護衛の【戦士】は、覚悟を決めたように、持っている片手剣を構える。


 しかし、ギュウノウスは、突如歩みを止めると後ろを振り返った。


 振り返ったギュウノウスの視線の先には、太郎が立っていた。


 スーツの上着を脱ぎ棄てて、ひのきの棒を杖代わりにしている。


「おっさん、なにをするつもりだ…」

 天翔院がつぶやいた。

「生きてた、よかった…」

 月野は太郎が生きていたことに安心しているようだ。




<もし、あのゲームと同じなら……>


 フラフラな足取りで、ゆっくりギュウノウスに向かっていく。

「また、お前か!あれで死ななかったことは褒めてやろう!だが、今度こそこれで終わりだ!」


 ギュウノウスは、再びこん棒を振り上げると、【獣皇闇気剛撃】の構えをとった。


 その場にいる、すべてのものが固唾をのんで太郎の動きに注目している。


 そして、太郎は……



 パッとギュウノウスに背中を向けると、一目散に逃げだした……


 その場にいたものが唖然としていた。


「え?え?逃げた?」

 月野と高嶺はシンクロするように声を出した。


 太郎は逃げ出した!

 

→しかしまわりこまれてしまった!


 さも当然のように、逃げる太郎の前に回り込んだギュウノウス。


「フッ、何をするのかと思えば、お前もその辺の雑魚と同じようだな」


「山田さん!ボスモンスターからは逃げられません!とりあえずこちらに来てください!」


 高嶺が叫んだが、太郎は聞こえていない様子でじっと立っている。


 そして……


 太郎は逃げ出した!


→しかしまわりこまれてしまった!


「無駄だとわからんか!」

 ギュウノウスは、すこしイラついた様子で太郎を見ている。


 太郎は逃げ出した!


→しかしまわりこまれてしまった!


 無表情で太郎は、ひたすら同じことを繰り返している。


 ギュウノウスも、慢心しているのか逃げるたびに、力の差を見せつけるように太郎の前に回り込んでいる。 まるで、弱った獲物を追い込んでいく獣のように。


 河瀬をはじめ、その場にいるものがその光景をなんとも言えない表情で見ている。





 そして、七度の逃走を繰り返したあと、太郎は動きを止めギュウノウスをじっと見据えた。


 息も絶え絶えに手に持ったひのきの棒を構える。


「ようやく戦う気になったか!あきらめの悪いやつめ……!」

「よかろう、そのあきらめの悪さに免じて、先に攻撃してくるがいい!」


 そう言うと、ギュウノウスは【獣皇闇気剛撃】の構えを解いて無防備になった。


 太郎は、ひのきの棒を振り上げると力いっぱいギュウノウスの体にたたきつけた。


 太郎の攻撃!


→クリティカルな一撃!!!!!


→ギュウノウスに&’%(%’#のダメージ!


 太郎はギュウノウスをたおした!


 %(#%’q)の経験値を獲得!

 $”(&)”ゴールドを手に入れた!


 太郎はレベルが上がった!


 ギュウノウスは宝箱を持っていた!


 太郎は宝箱を開けた!


 宝箱の中には、呪いの魔神剣が入っていた!


 太郎は呪いの魔神剣を手に入れた!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ