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第五話 就活ミソジ④

「社長、今すぐ退避してください!」

「あれはテンノコエの解析により、ボスモンスターと確定しました!試験も中止して受験者も退避させます!」


 どこかに連絡を取りながら、高嶺は言った。

 常に厳しい表情だったが、今はそれに加えて焦りや恐怖もうかがえるようだ。


「その必要はないよ」


 河瀬は動揺した様子も見せずにそう言った、まるでこうなることがわかっていたかのように。


「あれが、ボスモンスターなら逃げられない、というのが定説セオリーではないのかな? となれば、この場にいるものは私を含めここから出ることは不可能だ。 違うかい?」


 意地悪そうに、微笑すると高嶺に向って続けた。


「私が考えるに、これはイベントバトルの可能性がある。 であれば、この中に勇者がいるのはほぼ間違いないだろう」


「確かにおっしゃる通りですが、我々が危険な状況は変わりません……」

「イベントバトルであれば、もし生き残る者がいるとすれば、勇者のみという可能性が高いです…」


 高嶺は冷たい汗を手で軽くぬぐっていた。


「本物ってどういうこと?」

 月野はへたりこんでいる天翔院に尋ねた。


「そのままの意味だよ、あれは本物のバケモノだ……」

 顔色が青を通り越して白くなっている。


 太郎は、本物と聞いても不思議と納得した様子でギュウノウスを見ている。


()()()()()()()()()


 ギュウノウスは天翔院をちらりと見やるとそう言った。

 そして、大きく息を吸い込み【雄叫び】をあげた!


 ・スキル【雄叫び】…敵全員を少しの間動けなくする。


「ぐおおおおおおおおおおおお!!!」


 →高嶺は動けなくなった!

 →天翔院は動けなくなった!

 →月野は動けなくなった!

 →朱雀野は動けなくなった!


「か…体が!」

 朱雀野は涙目になっている。


 現実は甘くない、自分が主役の英雄譚ならどんなに強敵であろうとみんなの力を合わせ奇跡を起こして倒すという前向きな精神論が出てくるのだろうが、実際に人間の力の及ばないバケモノが目の前に現れると体はおろか思考も止まってしまう。


 ギュウノウスは次の獲物を決めたようで、右手のこん棒を振りかざしながら近づいてくる。


「い…嫌っ!」

 月野の前で動きを止める。


 そして、大きく振りかぶったこん棒を振り下ろす。




<あぁ、嫌だなぁ…めっちゃ怖いのに体が勝手に動いちゃうんだもんなぁ…でも、こうしないといけない気がする>


 月野の体はこん棒が当たる前に射程範囲外に突き飛ばされていた。




 太郎によって。



<こんなかわいい女の子が、つぶされちゃうようなグロい光景見たくないんだ。 助けたから、俺のこと好きになってあれやこれやムフフな下心とかは決してないぞ>


 スローモーションのように、迫りくる巨大なこん棒を前に太郎の思考は加速しているようだ。

 走馬燈が見えるという言葉があるように、子供の頃の記憶が思い出される。


<あぁ、あの頃、あの子とゲームばっかりしてたよなぁ、あれ? あの子の名前はなんだっけ? 遊んでたゲームの名前はなんだっけ? それ以外の事ははっきり覚えてる。 最初、勇者の名前を決めたところから魔王を倒すところまで、攻略法から()()まで……>


 友達とゲームの名前を思い出そうとするとモヤがかかったようにそこだけ思い出せない。


<あ、この状況って同じだ…だから…>


 そこで、太郎にこん棒がヒットする。


<あ、これ、死んだ>


 にぶい音。

 振り抜かれたこん棒。


 ボールのように、太郎は吹き飛ばされて、高嶺のすぐ横を抜けていった。

 高嶺は【雄叫び】のせいか、飛ばされる速度が速すぎたせいか、目で追うこともできない。

 

 大きな衝突音とともに、はるか先の壁に激突して太郎の体は止まった。


<あれ? 思ったより痛くないってか何も感じない…>


 ボロボロに破れたスーツ、頭から流れ出る血、まったく動かせない体。

 こん棒が直撃する瞬間に、光る壁のようなものを見た気がするが徐々に意識が遠のいてゆく。


「救護班はまだなの!?」

 体の自由が戻った高嶺は、すぐさま携帯を使って連絡をとっている。

 どうやら、ギュウノウスが現れてすぐに救援を要請していたようだった。


「駄目です! 高レベルの【戦士】や【僧侶】は先週発生した大平商会のダンジョンの攻略に手間取っていまして…」

 携帯の向こうから、声が漏れ出る。

 この場を解決できそうな人物は現れない、それだけはこの場にいる全員が理解できた。


「大平商会って、うちの子会社の?」

 高嶺がそう言うと、河瀬が何かを感じたように目線を倒れている太郎に向けた。


「おい、あのおっさん死んだんじゃないのか?」

 ガタガタ震えながら天翔院は言った。

「そんな、私をかばって……」

 突き飛ばされ倒れたままの恰好で動けずに、月野は目を伏せてしまう。


「逃げよう、ここから逃げよう」

 朱雀野は小さい声で二人に言った。


 天翔院以外の二人もここにきて、本物という意味が頭では理解できずとも、本能的に理解できたようだ。


「よし、それじゃあ」


 天翔院は、真っ先に出口に向かって走り出した。


 天翔院は逃げ出した!




 →しかし、まわりこまれてしまった!



 ギュウノウスは、その巨体からは想像がつかないような速さで天翔院の前に回り込んだ。


 月野は逃げたくても、腰が抜けたように立つことができなかった。

 朱雀野は、そっと気づかれないように移動を始めた。


 朱雀野は逃げ出した!



 →しかし、まわりこまれてしまった!


 まるで、瞬間移動のように朱雀野の前にギュウノウスが立ちはだかる。


()()()()()()()()()()()()()()()()


 高嶺は、最悪の事態を覚悟しはじめていた。


 

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