第四十七話 接僧ミソジ⑥
明けましておめでとうございます。少し更新のペースが落ちますがここから物語がガラッと変わっていく……はず……見込み……たぶん…です。
「また、あんた達かぁ~」
そう言いながらタロウは、ひのきの棒を腰に納めた。
「なぜ、武器を構えねぇ? どう見ても俺達が敵みてぇな状況じゃねぇか?」
タチバナは、短い手指で、頭を掻きながら言った。
確かに、倒れている男性と若い女の子、その近くに武器を持った正体不明の黒づくめの二人。どう贔屓目に見ても正義のヒーローには見えないだろう。
「なんか、お前を見てたら妙に嫌な気分になるナ…」
ジローは、いまだ記憶が不完全な様子で、タロウとハルイチと戦ったあの件を思い出せていない。
「あー、あんた達のお仲間が、こないだ敵じゃないって言ってたし、実際助けてもらったからねぇ~、とりあえず信じてみるさ~」
タロウは燃え盛る炎が起こした煙に咳き込みながら、目を細めた。
「あいつか、【ゲームマスター】だな…」
タチバナは呟いた。
「一応、あいつとは役割が違っててなぁ、俺達二人は【シナリオライター】だ、主にストーリーの進行を護って修正する役割だ、ライターとは言え、話を書いたりするんじゃないんだけどなぁ、まぁ、俺にそんな頭もねぇしよぉ」
そう言うと、タチバナは腹に響く声で豪快に笑った。
「話は後にしなイ? そのストーリーをぶち壊そうとしてる奴がまだあそこにいるヨ」
ジローは鎌を大穴の空いた壁に向けた。
外で何か蠢いている。
首が九十度傾いて固定されてしまった、木製人形だ。
「ガ、ガガガ、最優先対象が現れたな、ターゲット変更、全力で消去する!」
自分の両手で傾いてしまった顔を元に戻すと、イビツな槍を手にこちらに向かってきた。
槍は一直線にタロウに襲いかかった。
「ほラ、言わんこっちゃなイ! チェイサーとこいつを絶対に会わせるなってあの人に言われたでしョ?」
そう言いながらジローは、人形の槍の刃先を鎌で上方に弾き飛ばし軌道を無理矢理変えた。
「あいつをここで完全に消し去っちまえば大丈夫だろう、後で先生に謝っとくわ」
タチバナは、タロウの前に立つ。
「とりあえず、ここは一時的にパーティーで戦おうぜ、お前さんだけは絶対に護らねぇといけねぇんでなぁ」
ジローは回転させて勢いをつけた黒い鎌の柄を、人形のがら空きになっている腹部に叩きつける。その威力で人形は、再び外へ吹き飛ばされた。
「俺一人でも大丈夫なの二!」
ジローは不満そうに言った。
「こんな…」
「こんな展開は知らねぇだろ?」
タロウの台詞を遮るようにタチバナは言った。
「まぁ心配するな、出来る限り元のストーリーに修正してやっからよー、にしてもあいつを倒さねぇとそれもできねぇ……」
タロウは少し考えた後、
「まぁ、何とかなるか」
と、ひのきの棒を再び腰から抜くと、いつものようにフルスイングの構えをとった。
「気をつけナ、ここからが奴の本気モードみたいだヨ」
人形の身体に着いていたひび割れが稲妻の様に全身に広がると、木製のボディが弾け飛んだ。
中から、黒い煙の塊が現れる。それは人の形を、先ほどの人形の輪郭を描いていた。
丁度、頭部の眼の部分から二つ、禍々しい暗い赤色の光が鈍く輝く。
「この世界は【霊子】がとても少ないから自分の体を維持するために、防護用の殻が必要なんだ。それを外した今のこの姿だと霊子が霧散し続けて、僕は長くは持たないだろう」
そう言うと、人形だったものは、前傾姿勢を取ると、その姿を消した。
それと同時に、タチバナの胸を黒い煙の槍が貫かんとする。
かろうじて、手甲でガードしていた。
「速いナ……!」
勢いで、大柄なタチバナの体が吹き飛ばされ診察室の壁に激突する。
「殻は余計な霊子を放出しないよう施された封印でもあるからね、今の僕は相当強いよ」
ジローは、素早く人形だったものの後ろに回ると首の辺りを横に薙いだ。
頭と胴体が、別れたと思いきや、すぐさま煙同士が混ざりあい元通りになってしまった。
「なんだこいつ、手応えもなイ!」
「シャドー何たらってやつらしい、物理攻撃がほとんど効かねぇんだっけか」
「シャドーストーカーでしョ? そういえば前にあの人が言ってたネ」
「シャドーストーカー?」
<シャドーストーカーなんてモンスター知らない……>
タロウは必死に記憶のページをめくるが、全く出てこない。
「こいつは、ゲームのモンスターじゃないの? 俺こんなの知らないんだけど」
「あぁ、こいつはゲームには出てこない、詳しくは知らされてないが、チェイサーと言ってゲームの進行を邪魔してくる異世界の生物らしい」
「さらっとすごいことを言ったけど、異世界? ってあの異世界?」
「何だ? 現実にゲームをぶちこんでくるような状況は受け入れといて、今さら異世界ごときで驚くのか?」
タチバナは、ニヤリと笑う。
「確かに、そう言われればそうか」
「それで納得するのかヨ!」
ジローは、シャドーストーカーの攻撃を捌きながらつっこんだ。
「物理攻撃が効きにくいってことは、魔法攻撃は?」
タロウは、伸びて襲いかかるシャドーストーカーの黒い煙の腕をひのきの棒で打ち払いながら聞いた。
「あぁ、多分な、俺も戦ったのは初めてだから約束はできねぇが」
シャドーストーカーの右腕から黒い煙の槍が、左腕は長くのびた触手が、そして超高速で動き回りながら、手を休めることなく三人に攻撃を仕掛け続ける。
タチバナが、ガードを固めて槍の攻撃を防ぎ、タロウは触手をひたすら叩き落とす。ジローは、シャドーストーカーの攻撃後の隙を逃さずに、鎌で斬りつけた。
初めてにしては、上手く連携が取れていた。だが、攻撃役のジローの攻撃は物理属性のため決定打が与えられない。
対するシャドーストーカーは、長くは持たないと言っていた割には、動きが衰える様子は微塵も見られない。
タロウ、タチバナ、ジローはお互いに何かを期待する表情で顔を見合わせる。
タロウは、ようやく気がついた。
「やべぇ、このパーティー、脳筋だ…」




