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第四十六話 接僧ミソジ⑤

 タチバナと呼ばれた大柄の男は、人形に向かって左右の拳を連打する。加速する拳が熱を帯び大気を揺らめかせる。


 ・スキル【百烈撃ひゃくれつげき】……敵一体に無数の攻撃を一度に繰り出し、中ダメージを与える。威力は力に依存する。


 その一撃一撃が重い音を立てながら全て命中すると、人形の木製のボディにひび割れを生じさせた。


「早く()()()()()()に還るんだな!」


「ガ……! 損傷率55%……、──プログラムに従い退避行動に移ります……」


 急に機械のような音声を出して、人形は身体を後方へ反転させた。


「逃がさないヨ!」


 タチバナの頭上から、飛び上がるジロー。

 空中で前転を繰り返しながら、黒い大鎌を人形の頭目掛けて振り下ろす。


 なぜか、人形は再びこちらに向き直すと、無防備に棒立ちになった。


「よせ! ジロー!!」


 タチバナが叫ぶと、ジローは鎌を止め地面を蹴ると後ろに距離を取った。


「ざーんねん、僕が殺られた途端に同じ目にあうはずだったのに」

 口の割れ目がより深くひび割れて不気味な笑顔を造る。


「後ろを見ろ!」


 タチバナに促されて後方を見やると、仮野の足元からいくつもの蔓や枝が伸びており、それが彼女の身体中に巻き付いていた。


「僧侶を狙ったんだけど、あの女、なかなかいい勘をしてるね」

 そう言った人形の足元に小さな穴が空いており、そこから自分の足より蔓や枝を這わせていた。


「か、仮野さん!」

 床から異音がした時に、咄嗟に仮野に突き飛ばされた宝生は、ようやく動くようになった体を起こして必死に蔓を引きちぎろうとしている。


 一本の蔓が、鞭のようにしなり宝生の体をなぎ払った。


 机、壁と順番に体を打ちつけながら吹き飛ばされた。

 一瞬息が出来ずに、呼吸を取り戻した瞬間から痛みが襲ってくる。


「ちっ、人質か……、かなり知性が発達してやがるな」


「主はこっちに来て、かなり学んだからね、人間のやり方というものを…」

 人形はそう言うと、仮野の身体を更に締め付ける。


「ほら、どっちでもいいから、そこの僧侶を殺してください」


「それがどうしタ…」

 ジローが動こうとするのを察知したタチバナは、手でそれを制する。


「動くな……この娘がどうなってもいいのか? ──って有名なフレーズがあるんですよね? こっちでは」

 人形はどこか楽しそうだ。


「なるべく死者は出したくねぇ」


「でも、僧侶が死んじゃったら計画が終わっちゃうヨ?」


「そりゃ、わかってるさ、でもなぁ、もう目の前で誰かが死ぬのは勘弁して欲しいんだわ」

 タチバナは辛そうな声を出した。顔ははっきりわからないが、きっと悲しい表情をしているのだろう。


「この声は……、どこかで……」

 宝生は、自分に【ルナオ】をかけながら、どこかで聞いた声を思いだそうとしていた。


 暫しの膠着状態が続き、先に動きを見せたのはタチバナだった。


「なぁなぁ、俺の命でどうだ?」

 両手を下げてノーガードの状態になり、タチバナは言った。


「な、なに言ってるノ?」

 予想外の台詞に驚くジロー。


「俺だって、お前らの邪魔をする憎い敵だろ? ここは俺で取引しようぜ、なぁ?」


 人形はしばらく動かない。

 そして、突然顔をタチバナに向けた。


「主の許可を得た。お前でかまわないとのことだ」


 人形の鋭く尖った指がジローに向けられる。

「では、お前がそいつを殺せ」


「ふ、ふざけんナ!! そんなこと出来るわけないだロ!!」


「構わん、ジロー、やれ、命令だ」

 タチバナは、ジローの鎌の刃先を掴むと自らの首に当てた。


 ジローは動けない。

 基本的に命令には逆らえない、そのように造られている。だが、鎌を持つ手がどうしても動かない。


「早く、早く!」

 人形は楽しそうに急かす。


「く、くソ……」


 ジローは目を閉じて、何かに操られた様にぎこちなく鎌を振りかぶった。



 ──どんどんいこうぜ。



 人形の後ろから、声がした。


 衝撃音が轟くと、人形は頭を何かで殴り付けられて吹き飛んだ。医院の壁を簡単に突き破り外へ放り出される。


 吹き飛ばされた際に足元の根が折れたため、仮野の体に巻き付いていた蔓や枝は緩みほどけた。


 重力で床に向かって倒れ込む仮野を、宝生は間一髪で支えた。


「ヒーローは遅れてやってくるもんだ、って有名なフレーズがあるんだよねぇ~」


 ひのきの棒をくるくる回しながら、その男は言った。


「や、山田太郎?」

 タチバナとジローは、ほぼ同時に声を出した。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「タロウさん、全く見えなくなったんですけど大丈夫ですかね?」

 戦斧を休むことなく振り回しながらハヤカは言った。


「まぁ、大丈夫でしょ、ほら、またあそこで骨が打ち上がった」

 ハルイチは、タロウに言われたようにMPを温存するため、闇の兵士の攻撃をかわしつつ、【ルモエ】を必要最低限で放つ。


「こないだ、山田さんに聞いたんですよ、あの戦い方の正体を…、【自動戦闘オートバトル】を使ってるって…」

 華麗に闇の兵士を葬るとハルイチは言った。


「オートバトル?」

 ハヤカは聞き返した。


「そうです、ロープレとかでよくあるコンピューターに戦闘を任せて戦わせるシステムです。このゲームにも【作戦】という形で存在してるらしく、その作戦の種類に応じて最適な行動をAIが選択するんです」


「だから、あの塔の時にタロウさんが何か言った途端に私たち動けなくなっちゃったのか…」


「ええ、あの時は身を守る行動しか選択しないような【作戦】だったそうです」


「それで、どうして【作戦】でタロウさんが強くなるんですか?」


「山田さんのステータスは文字化けしててわかりません、ただ常に数値が変動してると俺は考えました。ですが、こちらがわからなくてもゲームのシステム側ではわかるはずなんです、だから山田さんは自分でわからなければ、システム側に行動を任せようと考えた」


「【作戦】だとコンピューターが最適な行動を勝手にやってくれるから…」


「そうです、それを聞いて俺も最初は納得したんですが…」

 腑に落ちない表情でハルイチは続ける。


「そもそも文字化けに関しての俺の推理が間違ってたような気がするんです…」

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