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第四十二話 接僧ミソジ①

仕事が忙しく更新頻度が遅くなって申し訳ございませぬ。気長にお待ちください。

 その男はライダーの様に上下に黒い革のツナギを着ており、頭にはジェットヘルメットをかぶっている。

 年の頃は五十代だろうか、年齢の割には顔つきや体つきは引き締まっているように見える。


「お、俺のゴールデンオォォォォォッッック」

 タロウは雑草だらけの大地に両膝をつき崩れ落ちた。


「お、おお?」

 男はタロウの雄叫びに驚き怯えた表情を見せると、体を反転させ走って逃げ出してしまった。


「ちょっと山田さん、逃げられちゃいましたよ!」


 しかし、ハルイチの言葉はタロウには届いていなかった。


「俺のぉぉぉぉぉぉ、今月のぉぉぉ家賃んんんんんんんん!」

 錯乱したタロウが、落ち着きを取り戻すまで三十分はかかった。


「落ち着きました? タロウさん」

 ハヤカは、竹林から出たところにある国道沿いの自動販売機からペットボトルのお茶を買ってきてタロウに飲ませた。


「あー、ありがとー」

 蓋を開けて二、三口飲むと大きく深呼吸をする。


「おかしいなぁ~、こんなイベント知らないぞー」


 いつものタロウに戻っていた。


「確かにあの人がゴールデンオークを倒しましたよね? 俺達が戦闘中の【現実ゲーム化現象】の中で」

 ハルイチは、男が立っていた場所を調べている。


「そーだねー、次の仲間は【僧侶】なんだけど、こんなとこで会う設定なんてないんだよなー」

 タロウは頭を掻いている。


「ですよね、メインストーリーの攻略を中断したから話が勝手に進むわけないですよね」

 戦闘が終わって現実に戻されていたハヤカは、はい寄ってくる虫を木の枝で追い払い始めた。


「会社に所属している【戦士】や【僧侶】みたいに、突然職業(ちから)に目覚めた人達がいるって高嶺さんが言ってたから、さっきの人が仲間じゃないとしたら、ゲームのクリアに関係ないのに【現象】に巻き込まれてる人も結構いるんじゃないですかね?」

 ハルイチは続ける。

「でもそうなると、ネットなりSNSとかで公にする人も出てくるはずですけど、いや、それは情報統制をかければ対処できるか…、でもサークルユニコーン社だけでそんな事が出来るわけないから、政府も関わっている可能性が…、そもそも俺達以外の人達にそんな力を与える必要があるのか…、何か理由が…」

 途中から完全に自分の世界に入っていたハルイチは、何かを見つけると推理モードから脱出した。


「血…ですかね」

 さっきの男が立っていた辺りをよく見ると、雑草の葉にまだ乾いていない赤い液体が付いていた。


「さっきの戦闘中にケガしたっぽいですね、さっきの人」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「せんせー、どこ行ってたんっすかぁー」

 仮野が膨れっ面で、宝生を睨み付ける。


「え、いや、どこって狩りだよ、狩り、前に言ってたろ? 君のバイト代を稼ぎに、ね」

 ヘルメットを外しながら診察室に入ってきた宝生。


「てか今日は土曜日でここ休みだろ? なんで仮野さんはここにいるんだ?」


「あー、家にいてもちょー暇だったんで遊んでもらおうと来たんすよー、でも待てど暮らせど全然先生戻ってこないしー」


「俺は君の友達かな?」

 宝生は苦笑いを浮かべた。


 一月ほど前だろうか、突然原因不明の高熱と頭痛に襲われた。

 すぐに症状は消えてしまったが、それ以来、町を歩いていると変な動物に襲われるようになった。


 周りに助けを求めようとしたが、不思議と決まってその時には誰一人いない。


 必死で逃げ続けていたが、ある時、熊のような怪物に掴みかかられてしまった。


 無我夢中で、力一杯突き飛ばしたところ、バランスを崩した熊は壁に激突した。打ち所が悪かったのかそのまま動かなくなった。


 そして、光を帯びながら消えてしまったのだ。


 夢か幻を見たのだと思った。精神的な病にかかってしまったのかとしばらく外出出来ずに部屋に引きこもっていた。


 ある時、通帳の残高を確認すると、額は小さいが、見覚えのない入金があった。振り込んできた先は空欄で、銀行にも問い合わせたが何故か教えてもらえなかった。


 入金された日付を見ると、あの熊のような怪物を倒した日だった。


 もしかして、と思った宝生は、また怪物を倒してみた。


 今度は、動きやすいように上下黒のツナギを着こんでヘルメットを被った。


 運が良かったのか、ウサギのような弱そうな怪物が現れた。


 それでも死闘という形容がふさわしい、非常に泥臭い戦いの末に何とか勝利をおさめた。


 光となって消えたウサギを確認すると、オンラインで口座の残高を確認する。


 やはり、少しばかりだが増えていた。


 診療所の経営が思わしくない状況だったということもあってか、宝生は非現実すぎる現実を意外とすんなり受け入れて、狩りを始めることにした。


「あ、せんせー、ケガしてるっすよ! 大丈夫っすか?」


 仮野が、指差した先は宝生の首辺り。

 ツナギから少しむき出しになっている肌に切り傷のようなものが出来ていて、傷の割には多めの出血が出あった。場所が場所だけに、彼からは見えず、ツナギの締め付け感が強かったこともあり、それほどの痛みも感じなかったため全く気付かなかったようだ。


「垂れるほど出てるっすよー、すぐに消毒薬持ってきますねー」


 仮野は、付近の棚に駆け寄ると応急措置に使う薬等を手際よく用意し始めた。


「言われてから痛くなってきた…」


 宝生は、手で傷辺りを触ると、じっと手を見てみる。

 真っ赤な自分の血が広範囲に付着していた。


「あ、せんせー、見ちゃ駄目っすよー」

 あわてて仮野が駆け寄るが、血を見ている姿勢のまま宝生は白目を向いて後ろにひっくり返ってしまった。


「ほらぁー、言わんこっちゃない」

 仮野は冷静に、頭を打っていないか確認し、宝生を横に寝かせた。


「血が駄目な外科医とか…ギャップ萌えっすよね…」

 膝枕をしながら、仮野はニヤっと笑った。

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